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第92回 たえまなき経営改革実現に向けて(1) ~たえまなき経営改革とは~

  • 経営改革の知恵ぶくろ

神奴 圭康

経営改革は、一時的な活動ではありません。企業が経営環境変化に対応するには、たえまない経営改革が欠かせません。今回から、たえまなき経営改革をテーマに、話を進めます。

経営環境変化に対応するために

創業から100年以上たつ「老舗企業」は、清酒の製造・卸・小売、呉服・婦人服の製造・卸・小売、旅館・ホテル、木造建築業などの業種に見受けられます。これらの業種の老舗企業には、経営理念にこだわり伝統を重んじる経営イメージがあります。しかし、伝統という財産だけでは、100年以上もの持続成長経営は成り立たないでしょう。そこには、その時代々々の経営環境に対応した、経営者や従業員の経営改革の知恵と汗があったことは、想像に難くありません。

「企業の寿命30年」と言われたこともあります。企業にも寿命(企業が繁栄できる期間)があり、30年も経過すると、経営環境変化に対応する力が落ちてしまい、企業としての盛りが尽きてしまうというのです。しかし、30年を過ぎても、経営環境変化に対応し経営改革を続けている優良企業が存在しています。

第2回の「経営改革とは?」でご紹介した、チェーン小売事業を展開する流通企業A社は、自らの事業を「環境変化対応業」である、と約35年前に明示しました。同社は、経営環境変化に迅速に対応する姿勢を全員が常に心がけ、何度もの荒波をくぐり抜けてきました。新しい小売業態開発、事業システム改革、人材開発など、同業他社に先行して、たえまない経営改革を続けてきたのです。その結果、市場から消えた流通企業も多い中で、今でも優良企業として成長・発展を続けています。

たえまなき経営改革の心

たえまなき経営改革を、なぜ続けなければいけないか。この背景には、「経営とは会社をつぶさないこと、会社を持続成長させること」という心(マインド)があるのです。生き物である企業はこの心を持ち、2つの側面から経営の在り方を見る必要がある、と第1回で述べました。一つは「社会における経営の在り方」、もう一つは「企業内部における経営の在り方」です。

前者は「企業の社会的価値を向上させること」を意味しますが、次のような社会的責任を遂行して、企業のすべてのステークホルダーから信頼感を得ることが求められます。

・自社の事業活動を通じて、社会に有益な商品・サービスを提供し、社会に必要とされる
・自社の事業規模や事業特性に応じて、人材の雇用と開発の責任を果たす
・事業活動を通じて、一定の利益を確保し、納税や株主配当の責任を果たす
・社会において企業市民として、倫理感を持った活動や法令遵守を徹底する
・文化活動など、社会貢献度を高める
・地球市民として、環境問題に積極的に対応する  など

後者は、前者の実現手段として「企業の成長・発展と事業価値を向上させること」を意味しますが、以下のような経営を行うことが必要です。

・事業の創造と成長・発展
・顧客の創造と技術革新
・経営の各領域における生産性の向上(一人当り付加価値の向上など)
・経営資源のコアである、人材の開発と活性化
・ブランドやノウハウなど、無形価値の増加
・経営体力の源である資金の蓄積と活用
・有効な経営管理技術の適用  など

たえまなき改革の実現には

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たえまなき経営改革の心を実現するには、上図で示していることが必要です。経営力と現場力が一体となって経営改革をやり抜く、という基本姿勢が前提になります。経営改革は、経営トップだけの問題ではありません。トップダウンのみの経営改革では、ミドル以下の現場がやらされ感に陥りかねません。ミドル以下の現場の実行力がなければ、トップの経営改革リーダーシップも、空回りすることになります。トップから第一線までが、経営改革をやり抜くことにこだわりをもち、経営改革に取り組むことが前提となります。

次に、たえまなき経営改革の実現に欠かせない、条件があります。必要条件としては、経営改革のPDCAを素早く回す仕組みをもつことです。経営改革力のある企業は、将来のビジョンを実現するために、将来の経営計画から足元の経営計画まで、経営計画システムが整備されています。そして、その経営計画には、必ず経営改革が含まれているのです。また、仮説である計画を常に検証する、モニタリングなどの実行評価システムを運用しています。この実行評価システムには、日常オペレーションだけではなく、経営改革の実行と成果の検証が必ず織り込まれています。

しかし、経営改革のPDCAの仕組みだけでは、たえなき経営改革は実現しません。経営改革のPDCAを回す十分条件として、経営改革をやり抜く力を組織的に身につけ、経営改革体質力をつけることが重要です。これには、「経営改革の場の活性化」と「経営改革の人づくり」の2つが特に必要だと考えています。

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