第99回 振り返りと日本企業の挑戦課題
- 経営改革の知恵ぶくろ
神奴 圭康
今回は、当連載シリーズ「経営改革の知恵ぶくろ」を振り返りながら、日本企業共通の挑戦課題に触れたいと思います。
振り返り
「経営改革の知恵ぶくろ」も、100回まで、今回を入れてあと2回となりました。第1回から第98回までを振り返ると、次のような構成になります。
経営改革の基本的な考え方と紹介に始まり、経営改革の技(発想法と手法)を中心に、事例をまじえてご紹介してきました。経営改革の技は、経営改革に必要な財務の理解、そして事業面からの経営改革と、管理面からの経営改革について、話を進めてきました。次に、業種・業態・規模を意識した経営改革、さらに経営改革をたえまなくやり続けることの重要性をお話ししました。
経営改革の技と言うと、財務面の改革が先行するイメージをもつ方もいます。しかし、そうではありません。真の経営改革は、事業面の経営改革を本命としながら、財務・事業・管理の3面からの統合改革であることを、再認識していただければと考えます。
事業でも勝つ
日本企業の強みは、日本を引っ張ってきた製造業で言えば、ものづくりの力と言われます。製品開発技術力や製造現場のものづくり技術力です。しかし、技術力のある日本企業が、グローバル市場で苦戦しているニュースを耳にします。日本企業の技術力が、グローバル市場で負けているのでしょうか?そうではなく、技術力では決して負けないが、市場・商品戦略やビジネスモデルなど、事業戦略のミス・リードで負けてしまうのです。「技術で勝って事業で負ける」ということです。
私は、日本企業は、技術・生産・営業の個々の領域においては、一人ひとりの問題意識や知識・スキルが高く、他国のライバル企業と比較して競争力が高いと考えます。しかし、技術・生産・営業の機能を統合する事業戦略には、課題があると認識しています。特に、市場・顧客を重視したマーケティング志向の事業戦略を強化していくことが重要です。たとえば、たびたびご紹介している化学企業J社では、技術者出身の多い事業部長が、マーケティングの心や技を学び実践するトレーニングを重視しています。同社では、「技術で勝ち事業でも勝つ」を合言葉にして、グローバル市場で存在価値を示しています。
日本企業が「事業でも勝つ」を肝に銘じて事業経営をするには、下の図に示す取り組みが欠かせないと考えています。
まず、一人ひとりが「マーケティングとは事業そのもの」であるという、マインドをもつことが基本と考えます。この点については第32回でお話をしましたが、日本企業は、マーケティングとは経営機能の一部であるとの一世代前の考えから、まだまだ脱却できていない可能性があります。
次に、事業の土俵を決めることです。自社の将来の事業領域を決めることを意味しますが、自社の市場・商品・提供価値をデザインして、全員が共有化することです。これには、第36回~第40回で話をしました「事業ユニット発想」が欠かせません。事業ユニット発想は、市場と商品の2つの視点から、顧客への提供価値をデザインしながら、事業領域を意思決定する発想法です。グローバル市場における事業戦略では、全世界を一つの市場として商品開発や市場開発をするかどうかが、経営の大きな分岐点となることに留意してください。
さらに、事業の競争力を磨くことが必要です。事業の土俵を決めると同時に、事業の戦い方となるビジネスモデルをデザインすること、そのビジネスモデルを具体化した「事業システム力」が欠かせません。事業システムについては、第52回~第64回でお話ししましたが、各BUの川上から川下までのビジネスプロセスを視野に入れて、コアプロセスを決めることが肝要です。また、ビジネスプロセスにITを積極的に活用する事業競争力強化も、大きなポイントです。
経営スタイルで勝つ
日本企業の経営スタイルは、ボトムアップ経営であると言われます。言い換えれば、現場力が強い経営とも言えるでしょう。日本企業の経営トップも、現場を歩き(ターンアラウンド・ウォーキング)、現場の声を重視した経営を心がけています。
一方、日本企業は、グローバル化・少子高齢化・技術革新が進展する、構造転換期の真っただ中にいます。構造転換期には、企業の経営改革の方向を示す、トップの大きな構想力が重要になります。また、経営の意思決定も、スピードが求められます。したがって、トップダウン経営、言い換えれば、トップ主導の経営力のある経営が必要となっているのです。欧米企業の経営スタイルと言えますが、中国や韓国の企業では、このトップダウンによるスピード経営が持ち味となっています。トップ主導の経営スタイルをつらぬく日本企業も多くありますが、日本企業の持ち味とは一般的には言われていません。
私は、本社だけでなく事業を担当する現場トップの経営力が、日本企業の強みである現場力とうまく噛み合った、経営改革をやり抜く経営スタイルが重要と考えています。その具体的な形・中身は、個々の企業が、模索しながら挑戦することになりますが、日本企業共通の挑戦課題と想定しています。
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