国内の成熟市場で成長するために
第1回 「成熟市場ではもう成長できない」は本当か?
寺川 正浩
ほとんどの市場において商品やサービスは消費者の顕在ニーズを満たしてしまい、さらに国内人口はピークを超えてこれからは人口減少が加速していくという時代の中で、企業は成長していけるのでしょうか? もちろん、市場・業種業態によってもその危機感にばらつきはあります。
たとえば流通業界では、スーパーマーケット市場はこの20年間の店舗数は増え続けてきた一方で、既存店の売上は減少し続けているという典型的なオーバーストアの状況に陥っています。一方、同じ流通業界でも国内での立上がりが遅かったといわれているホームセンター市場は、店舗を出せばその分売上も増えていく流れがしばらく続いていたものの、とうとう10年前からは売上の伸びは止まりました。けれども店舗数増加のスピードは衰えません。ホームセンターもスーパーマーケットと同じ市場環境になっていくのは時間の問題だと思われます。ここ最近までは、ほとんどのホームセンターが出店戦略を基軸に長期戦略を掲げていましたが、国内成熟市場に対する危機感のもと、各企業は戦略の見直しを迫られている最中ではないでしょうか?
このような中で、国内をドメインとして戦ってきた企業はこれから何をすべきなのでしょう。国内がダメなら海外展開。一見安易な着想ですが、実際はそうですよね。国内で培ったモデルを海外で地道にはじめることで成長し続けている企業は最近何かと話題に上りますし、それで「再成長」を遂げています。
海外展開に限らず、インバウンド需要の取り込み、値上げ、コスト削減、M&Aなどさまざまな施策がありますが、濃淡はあるにしても各企業はこれらの取組みに対してひととおり検討したうえで、着手したものについては一定の成果も出してきました。そして何とかしのいできました。
マーケティング3.0が描く成長戦略とは
しかし、多くの企業は国内市場に対して次の打ち手が見えないのです。そして国内市場を重視する以上、成長戦略を描かなければならないのです。
まさにそのタイミングにマーケティングの神様と評されるフィリップ・コトラーが「マーケティング3.0」を提唱しました(詳しくは『コトラーのマーケティング3.0―ソーシャル・メディア時代の新法則(朝日新聞出版、2010年)』で)。
マーケティング3.0では、
「製品中心(マーケティング1.0)でも消費者志向(マーケティング2.0)でもなく、価値主導のマーケティングに移行する。それにあわせてマーケティングコンセプトも"差別化"から"価値"へと変わる。消費者との交流も協働というキーワードが大切になる」
のです。まさに国内成熟市場における成長戦略そのものです。確かに従来のマーケティング1.0や2.0の概念だけでは、表層的なニーズ以上のものは掘り起こせないということですね。
洞察力を深め、知恵を絞り出す
しかし、どうでしょうか? これまでとは違う何か大きなマーケティング変化の潮流を感じますか?
マーケティング3.0におけるキーワードに注目してみても、これまで散々耳にしてきたキーワードばかりで"新しさ"を感じなかったのは私だけではないと思います。確かに、IoT(Internet of Things)による第4次産業革命はこれから何が起こるか想像がつかない部分はありますが、消費の対象が「モノからコトへ」に移ってきたころから、マーケティングの大きな変化は感じられません。事実、IoTにおいても製品(モノ)の領域ではなくサービス(コト)の領域で物事が論じられています(直訳は「モノのインターネット」ですが......)。
やはり、マーケティングの対象が完全に「成熟市場」になったからなのでしょう。そこに奇策はなく、改めてマクロ・ミクロ環境が成熟市場の中でどのように変化しているのか、消費者の行動や意識はどのように変化しているのか、その変化に対してサプライヤーは、顧客は、その他ステークホルダーは、そして競合は何を仕掛けようとしているのかを深く洞察・整理し、自社の戦略をもう一度見直すことが必要になっているのでしょう。さらりとこれまでやってきたマーケティング活動においてもう一度洞察力を深めることで、まだまだ知恵を絞り出すことができるはずです。それがマーケティング3.0のメッセージなのだと私なりに解釈しています。
成熟市場でも前年度割れにしない
さて、話を最初に戻しまして、流通業の場合、国内出店を止めると成長も終わるのでしょうか? 今お家騒動の真っただ中のセブン&アイ・ホールディングス元会長の鈴木氏は、セブンイレブンについて「既存店売上の前年割れは絶対ダメ。そうなったら出店は全部止める。常に革新し続けないと成長できない」と某新聞のインタビューで発言されていました。実際にセブンイレブンは直近40ヵ月以上連続で既存店は前年同月を上回っています。成熟市場の中で、既存店でこれだけの成果を出し続けることは驚異的です。
市場が縮小し、さらにはボーダレス化により競争が激化していく中ででも、出店の加速や新規分野への進出といった戦略以外に、既存の市場で洞察を深めればまだまだやれることがありそうです。
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