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国内の成熟市場で成長するために

第2回 成熟市場のキーワードはボーダレス化での機会特定

寺川 正浩

 国内市場は成熟市場と言われていますが、市場が成熟化して何が起こっているのでしょうか。

 人口はピークを超して減少モードに転じているものの、供給量はとどまる気配がない、というよりも増え続けているのが現状です。

 競争環境はますます厳しくなっています。供給量が増え続けている最大の要因は「ボーダレス化」です。各企業は今までの市場だけでは成長戦略を描けなくなり、既存市場の延長線上にある市場や親和性の高い製品・サービスに事業領域を拡げています。結果、異なる業種・業態の企業がひとつの市場を取り合う「ボーダレス化」現象があらゆる市場で顕著になっているのです。

成熟市場だからこそ大きな変化が起きる

 典型的なのがドラッグストアです。少し前まではドラッグストアは薬しか売っていませんでしたが、今ではドラッグストアが食品を売るのは当たり前になり、各社での食品の取り扱いが増えています。日配や低温商品が売上の5割を超えているドラッグストアもあります。惣菜、精肉、鮮魚のテナントを誘致するようなドラッグストアも出てきています。もはやこれらをドラッグストアと呼ぶのかどうか......、そんな状況です。

 それに対して、スーパーマーケット各社は、パイが限られている中、さらに競争相手が増えることになり苦しくなるばかりです。スーパーマーケットにとって厄介なのが、"ドラッグストアは利益率の高い医薬品で収益を稼いで、食品は採算を度外視した価格で集客する"ため、着実に既存顧客を奪われてしまっていることです。もちろん、ドラッグストアでの食品の売上構成比が高まれば高まるほど、このモデルは通用しなくなりますけれど。

 いずれにせよスーパーも指をくわえてその状況を見ているわけにはいきません。そこで最近では、リージョナルスーパーとドラッグストアが提携し、共同出資会社を設立するようなケースも出てきています。

 成熟市場では各企業が新たな成長ドライバーを求めて、親和性の高い領域に入り込んでくるので、"成熟"といいながらもまったく落ち着く様子はなく、むしろ市場は大きく変化しているのです。成熟市場ではボーダレス化が起こり、今まで以上に競争が激化しています。

 もうひとつ、消費不振の代表的な市場として衣料品市場があります。冷え込んでいる市場の中ででも成長し続け、勝ち組といわれていたユニクロのファーストリテーリングでさえ、客離れによって国内事業は減収減益(16年上期)と苦戦しています。

 そんな中、衣料品市場において特殊な繊維を使うことで皮膚に潤い・ハリ・ツヤを与えたり、肌荒れを防いだりする女性用の肌着が注目されはじめています。そしてこれらを従来の衣料品売り場ではなく、化粧品売り場で売る計画をしているメーカーもありますし、商品そのものを化粧品として登録しているメーカーもあります。化粧品と衣料品、どこまで拡がるかはわかりませんが、たとえばこんなところでもボーダレス化が起こりはじめているのです。

環境変化による機会・脅威を特定する

 ところで、前者のケースでスーパーマーケットにとってこの環境変化は脅威なのでしょうか、それとも機会なのでしょうか。同様に、後者のケースで化粧品メーカーにとってはどうなのでしょうか。

 正解なんてありませんが、後者に関して言えば、実質的には「財」が違うので化粧品メーカーが衣料品メーカーから市場を取られるとは感じないでしょうね。むしろ消費者の反応次第ではありますが、積極的なコラボが進んでいく相乗効果の期待が大きいのではないでしょうか。

 一方前者は、普通に考えれば脅威ですよね。同じ「財」ですからね。しかしこのような環境変化を脅威ではなく、チャンスと捉えない限り、成長戦略を描くことはまず不可能でしょう。

 スーパーマーケットにとってこの環境変化を脅威と捉えるなら、先のドラッグストアと共同出資会社を設立したスーパーマーケットは、防衛策を打ったということで十分です。しかしチャンスと捉えるならば、防衛策の次に何を仕掛けていくべきかの戦略と目標が掲げられるはずなのです。

 コンサルティングの現場でSWOT分析を取り入れることがあります。ファシリテーションをさせていただきながら、会社の方々でアウトプットをつくっていただいた後、環境変化による脅威の項目のいくつかについて、「脅威から機会のほうに位置づけて再考してください」とお願いします。すると保守的な課題ばかりが列挙されていたものが、ずいぶんと積極的な対策につながる課題となって生まれ変わります。

 SWOT分析の中で、自社資源(内部環境)の強みと弱みの分類は比較的すんなりと確定します(もちろん分析の精度にもよりますけれども)。しかし、外部環境の変化についてそれを機会と捉えるか脅威と捉えるかの分類判断は、人によって結構ばらつきが出ます。そしてその判断は戦略検討にあたっての重要な分岐点になるのです。

 少し話しが脱線してしまいましたが、成熟市場における成長戦略のキーワードは、ボーダレス化での機会の特定です。そのためにはボーダレス化の中で何が起こっているかを、まずはマクロ・ミクロの環境分析からベーシックな手順に則って整理することが何より大切なのです。次回からその手順ごとに話を進めていきます。

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