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第3回 自分の中の竜と向き合う。あなたにとっての竜は?

 前回までエンパワーメントの視点からチームづくりの内容をお伝えしてきた。今回は少し気分を変えて最近読んだ本から気づいた点があったのでお伝えしたい。

 JMACに入社して11年、クライアントや先輩、同僚からさまざまなことを学んだ。同時に自分の学びの中で「本を読み、本から学ぶ」ことも大切にしてきた。仕事に直接関係する本もあれば、単なる興味で読む本もあるが、自分の中にテーマを持って読むと、意外な本が響き、発想を刺激してくれる。

hori_003_01.jpg 今回は最近読んだ本を紹介したい。気に入っている本である。実は児童書なのだが、リーダーシップの発揮を考えるきっかけとして良い本だと思う。

 その本とは私の小学生の子どもを通じて出会った。本の名前は『竜退治の騎士になる方法』。元教員で作家の岡田淳氏の作品である。岡田氏はご自身の豊富な経験をもとに小学校を舞台とした冒険・ファンタジー作品を数多く執筆されている。全国学校図書館協議会の選定図書にも選ばれる作家である。リアルな描写が読み手を引き込み、私も自分の小学生時代を思い出しながら読んだ。冒険ものとしてのストーリーも面白いのだが、実は本の中で子どもたちが直面する課題に、大人の読み手も思わず考えてしまう、そんな刺激を与えてくれる本だ。

自分にしか見えない課題を共有する難しさ

 物語は小学六年生の男の子と女の子によって進められる。高学年になった彼・彼女には、日々の学校での授業や宿題、友達や家族とのつきあいなど、自分たちを取り囲む環境の変化や人間関係の変化が生じていた。そしてその出来事は忘れ物(宿題のプリント)を取りにいった放課後の学校で起こる。ジェラルド(愛称ジェリー)と名のり「おれは竜退治の騎士やねん」となぜか関西弁を話す自称西洋人と出会い、竜退治に巻き込まれていくというストーリーである。

 ところが竜退治の騎士ジェリーには見える竜が、竜や騎士の存在を信じていない(現代の日常の生活から考えると当然とも言えるが)子どもたちには最初は見えないのである。徐々に対話を重ねる中で子どもながらに素直に興味を持ちはじめ、ときに疑い、さらに理解をしようとするというプロセスを経て、次第に子どもたちにも竜が見えるようになるのである。

 自分にしか見えないもの、他人とは違って見えているもの、これらを共有する難しさは、大人の社会での課題認識にも通じるのではないか。課題認識というのは個人の中にあり、その人の経験や信念、目指すものによって異なる。また自分が見えていないものはわからないし扱えない。同じものを見ていなければ語りにくく、伝わりにくい。

大切なことを継続して実践していく

 興味を持ちはじめた子どもたちは、ジェリーに竜退治の騎士になる方法を問う。そこでジェリーはあることを"取組み"として紹介する。その意味はまさに一人ひとりが身近にできることから始めること、そして自分が大切だと考えることを継続して実践することである。

 取り組むべきことは唯一ではない。本気で考え工夫しながら取り組むことで、次に取り組むべき課題に気づけるかもしれない。ただし、そうした行動を起こそうとするときに気になるのは周りの人の目というか、自分がどのように見られるかということである。「何をやっているの?」「なぜやっているの?」と周りの人が持つ素朴な疑問や「そんなことやって意味があるの?」という冷ややかな反応が、まだ確信に至らない自分の意欲や行動に影響を与える。しかし本来、大切にしたいのは、自分やそこに関係する人たち、取り巻く環境にとって何が大切と考えるか、そこに自分はどのように貢献できるのか(したいのか)であり、そういった視点に転換ができるか(たどりつくか)が鍵なのではないか。

 物語では、ジェリーは自分の"取組み"に対して当初は照れくささや疑問を感じながらも、目の前の現象に対して、なぜその現象が生じるのか、そのとき当事者はどのような気持ちでいるのかを考えながら行動を続けていけば、好ましくない状況が解消していくことを紹介する。そして続けることで徐々に周囲に影響を与える状態(課題認識の共有や変化)につながると伝えている。

あなたの竜を見出して竜退治の騎士になれ!

 あえて深読みしてこの物語をエンパワーメントの視点から紐解いてみる。

 竜を見出すこととは、日々の疑問や問題意識に目を向けることである。竜退治の騎士になることとは、自分のできることや力を発揮できること(効力感が持てる)、大切だと感じること(意味があると思える)に目を向けること、そして自ら行動に移すことは自己決定することである。また、継続して実践していく中で周囲の変化を肌で感じることとは、自分が変化に関与、貢献できているという貢献感を得ていることと言える。これらはエンパワーの基本要素につながっているという見方ができるのだ。

 本書は大人であればちょっとした休憩時間に読める分量である。たまには児童書で気分転換するのもおすすめである。

参考文献

『竜退治の騎士になる方法』(2003) 岡田淳 偕成社

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