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第4回 ヒューマンエラーの未然防止に活かす組織の力

 ヒューマンエラーの未然防止や対策への関心が高まっていると感じている。私の仕事では、これに関連してコミュニケーションのあり方などのテーマで支援させていただく機会も少なくない。今回はチームなどの組織とヒューマンエラーの関わりについて述べる。

ヒューマンエラーの背景にある要因とは

 まずは、次の「問い」に対して答えを考えていただきたい。

 みなさんの職場では、ヒューマンエラーを防ぐための工夫として、どのようなことに取り組んでいるだろうか?



 未然防止の工夫として、たとえば業務の指示をより具体的に行ったり、丁寧に伝えるだけではなく受け手側の理解を確認したりするなどもあるかもしれない。手順書の整備や見直しなども考えられる。また、任せた後の報連相のタイミングや仕方にも工夫があるかもしれないし、報連相の受け方に気をつけている方もいるのではないだろうか。

 これらのように、指示や伝達の仕方・され方を磨くことに加え、大切にしたいのが報告や相談のしやすい関係づくりである。気になることがあればちょっと尋ねることができる、そんな状態づくりである。

 以前のコラムでも触れたが、最近の職場ではこうした「余裕」がつくれていないことが多い。余裕がないうえに報告や相談のコミュニケーションの仕方も十分でないと、聞き手が要領を得られないまま互いにストレスが溜まり、本題と違うところでの指摘、やりとりが生じてしまうこともある。そうなると報告や相談する側の自己効力感は下がり、次のアクションにためらいが生じ、結果としてヒューマンエラーなどの種を摘み残してしまうことにもなりかねない。

 心理学を専門とする立教大学教授の芳賀繁氏は、著書『失敗のメカニズム』の中でヒューマンエラーの要因や対策のポイントとして「オーガニゼーショナル・ファクター」の重要性を指摘している。個人のエラーの背景には、チームワークやリーダーシップ、関係者のコミュニケーション、組織の意思決定のあり方などの要因による影響があるという。

 情報をどのように扱い判断するかも大切であるが、同時にその情報を扱う当事者がどのように扱われるかも大切な要因となる。読者のみなさんの職場ではいかがだろうか。

 また『組織事故』の著者であるジェームズ・リーズン博士は、組織の安全文化づくりに必要となる4つの要素をあげている。

  1. 報告する文化:エラーやニアミスを報告しようとする環境、雰囲気をつくること
  2. 正義の文化:許容できる行動とできない行動の境界が明らかで、適切な対応がなされること
  3. 柔軟な文化:緊急時に組織で柔軟に権限が委譲され危機に対応できること
  4. 学習する文化:正しい結論を導き、大きな改革を実施する意思を持つこと



余裕がなくなると職場に「報告しにくい文化」が蔓延する

 クライアントの職場に訪問してヒアリングしていると、部門長やマネジャー層の方から「部下がレビューのために書類を持ってくるのだが、自分が離席しているときに持ってくるんだよ」といった声を聞くことがある。一方で、ある職場では中堅や若手社員から「課長に相談したいのですが会議などで1日のうちほとんど席にいないため相談できないんです」という声を聞くこともある。ただし、これについてはよくよく聞いてみると、いくつかの会議にはその中堅メンバー自身も課長に同席しているとのこと。

 残念だと感じるのは、課長と同じ会議に出ているにも関わらずその場では話ができていないという状況である。これらのことから推察すると、知らず知らずのうちに職場には報告しにくい文化(相談しにくい文化)が蔓延しているのではなかろうか。システマチックに業務を整備し、効率的に遂行することはもちろん大事だが、気持ちの余裕がなくなるとちょっとでも話を聞く、相談するということがしにくくなる。

 私はコンサルティングや研修で相談を受けるときには、リーダー、マネジャーの方へは以下のようなお願いをしている。

 「進捗や課題など"状況"だけではなく、相手の"状態"にも関心を向けてください」

【参考文献】
1)『失敗のメカニズム』(2000)芳賀繁(著) 角川文庫
2)『組織事故』(1999) ジェームズ・リーズン(著)、塩見弘(監訳)、高野研一、佐相邦英(訳) 日科技連出版社

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