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「製造業のサービス化」で事業成長を目指す

第3回 従来型のサービスマネジメントとその課題

渡邉 聡

 第2回では「モノ+サービス」におけるサービスの特性についてお話ししました。その特性をふまえたこれまでのサービスマネジメントに加え、製造業のサービス化に向けては新たなサービスマネジメントが必要になってくると考えます。

 まず、これまでのサービスマネジメントはどのようなものだったのでしょうか。

サービスの特性に基づく品質管理が語られてきた

 サービスの代表的な特性として「無形かつ生産と消費が同時で、しかも提供された瞬間に消えてなくなる」ということを述べました。これらの特性は、品質管理において課題をもたらします。たとえば、製品のように製造→在庫→出荷というプロセスがないので品質チェックのタイミングや方法に工夫が必要です。

 クレームを受けた場合、消えてなくなっているモノやコトが多いので、不具合の再現や再発防止の取組みが難しい側面があります。目指す品質基準についても良い状態の可視化、保存が難しいということになります。

 価値提供の場面においては、「人に依存することが多く、混雑状況など提供環境によって品質が大きく左右される」特性があります。このことから、提供品質を安定させることが難しいという課題が浮き彫りになります。また、暗黙知を含めたスキルアップなどの人材育成や環境管理にも気を配る必要があります。さらに、品質を企業側だけでつくり込めないという課題もあります。良い雰囲気という価値の一部は顧客が担っているように、「顧客そのものが品質の一部分となってしまう」特性が関係しています。

 これまで日本が強みとしてきたモノに対する品質管理をサービス産業へその適用を試みてきました。結果としてモノの品質管理が適用できる部分とサービスの特性を踏まえて発展させてきた部分があるといえます。たとえば、モノの品質においてバラツキは最小化が望ましいのですが、サービスでは悩ましい側面があります。

 代表的なサービスに接客がありますが、標準化すると「マニュアルっぽい」といわれる一方、ある種の個人差やバラツキはやはり課題となります。こういった部分のマネジメントを確立し、今日のサービス大国ニッポンがあるといえます。

これまでのサービスマネジメントの全体像

 いわゆるサービス産業のマネジメントという視点では、サービス品質管理をコアとし、サービスマネジメントの全体像は、ビジョン・戦略、サービス開発、顧客の評価や声の把握、人材育成、従業員満足や組織風土といったシステムから構築されてきました(下図)。

サービス品質管理やサービス開発のベースには人材育成、サービスビジョン・戦略、組織風土などがあり、さらに顧客評価やなどを反映させて成立していたのである

 どのような産業であっても人は重要な経営資源ですが、人への依存度が高いサービス業ではとくに価値そのものである人の育成やそれを支えるES(Employee Satisfaction:従業員満足度)、組織風土のようなものが重要です。また、品質管理上、顧客の評価や声の活用は不可欠です。形のない提供価値だからこそ、よりビジョンが重要になってきます。マネジメントシステムの要素そのものはサービス産業として特筆すべきものではありませんが、内容はそれにふさわしいものにしていかなくてはなりません。

これまでのサービスマネジメントの今日的課題

 今後、製造業のサービス化は一層進んでいくと考えられます。それは、製造業から価値共創業への移行だと述べました。

 段階的な移行をモデル化すれば、まずは「モノ+サービス」の事業展開を目指すことになります。SPA(製造小売)として販売というサービス事業を行う、アフターサービス部門をコストセンターではなくプロフィット化を図るなどが代表的です。モノを売って対価を得るのではなく、利用した分に応じて課金する、消耗品で収益を得るといった収益モデル転換なども検討されることでしょう。このステージにおいては、従来型のモノのマネジメントに新たにサービスに関するマネジメントを加えるということになります。

 この「モノ+サービス」というステージにおいては、顧客との関わりを増やす、あるいは収益源としてサービス要素を追加するということは考えられています。したがって、モノやサービスに関する内部のマネジメントや顧客接点におけるマネジメントを考えていけばよいといえます。

 しかし、製造業のサービス化として目指すひとつの姿は価値共創です。前述のステージでは、企業側が価値を創造し、顧客が対価を払ってそれを得る、というこれまでの基本的な図式はあまり変わっていません。価値共創のステージでは、企業側の開発や製造活動を内部マネジメントするだけではなく、共創場面のマネジメントを考えていかなくてはなりません。また、企業側から見た顧客接点管理だけでは不十分です。体験価値を重視するのであれば、顧客体験そのものの管理を目指す必要があります。

 価値共創の例として、テルモ(株)のメディカルプラネックスがあげられます。ここは、病院等と同じ環境を再現した施設で、医療従事者のトレーニングや商品開発のための取組みが行われています。医療現場目線でのモノ(価値)づくりとトレーニングなどによる価値普及の同時実現ができているといえます。

 製造業のサービス化は価値創造や顧客との関わり方、収益モデルの変革を意味し、それにともなってマネジメントモデルもパラダイムシフトする必要があるといえます。

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