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「製造業のサービス化」で事業成長を目指す

【最終回】第10回 「製造業のサービス化」の展望と課題

渡邉 聡

 本コラムでは、製造業のサービス化について、その考え方や進め方をお話ししてきました。今回は最終回として、課題や今後の展望についてお話します。

共創する難しさ

 「製造業は製品に価値を込め、顧客はそれを購入して対価を払い、製品を利用してなにかしらの体験価値を生み出す」というこれまでの価値交換的な考え方であれば、体験価値創出は顧客に委ねることになります。しかし、価値を共創するのであれば、製造業として悩ましい課題が出てきます。

 これまでのコラムでもお話ししたように、かつての「モノとサービス」の考え方におけるサービスにはいくつかの特徴がありました。たとえば、生産と消費が同時に行われるという特徴を考えてみると、顧客とその場でやりとりしながらサービスという商品をアレンジしていき、仕上げていくことになります。品質管理という側面では悩ましいものの、価値共創という側面から見れば、製造業にはない「やりやすさ」を持っていることになります。

 製造業が価値共創を目指す場合、顧客接点の頻度・密度・双方向性・同時性といったものをいかに確保していくかが課題のひとつと考えます。SPAといった顧客接点の持ち方やインターネットやSNSなどを活用した顧客とのコミュニケーションの拡充、IoTによる顧客行動等の可視化、顧客の製品利用場面の観察の場づくりなど、見直してみてください。

社内の壁を突破する

 一方、内部的な課題に目を向けると、どのようなことがあるでしょうか。

 製造業のサービス化に関するテーマで企業の方々の話を聞くと、悩ましいことのひとつは「どうやって社内を説得していくか」といった課題です。

 ビジネスモデルとして新しくサービス業化に取り組む場合はもちろん、現状の製品にサービスを強化していく場合であってもなお、社内のコンセンサスをとることが重要かつ難しい課題です。社内では、企画・開発・製造・品質・アフターサービス・マーケティング・営業といった各部署を巻き込んでいかなければなりません。そのために、まずはアイデアを持っている人、部署が中心となってシナリオを丁寧につくって説得していく必要があります。差別化による競争力強化、新たな収益の確保、採算性など定量的なエビデンスや仮説が求められます。

 しかし、それにも増して(少なくとも同じくらい)重要なことは"熱意"なのかもしれません。こうしたテーマを形にしていった企業の方々と接していると、このエネルギーを持っていることが多いと感じます。アリストテレスの説得の三要素(ロゴス・パトス・エトス)ではないですが、論理性とパッションが求められるテーマなのではないでしょうか。残念ながら、ここに伝家の宝刀や近道はなさそうです。

顧客の理解を求める

 社内がまとまったとしても、顧客の理解を得られなければ絵に描いたモチでうまくいきません。まず、考え方としての「価値共創」は受け入れてもらいやすいと推測します。B to BでもB to Cであっても、顧客側はむしろ無意識に価値共創的な考え方をしていたのではないでしょうか。

 しかし、実際に取引内容などが変わるとなると課題も出てきます。たとえば、本コラムでも取り上げたように品質ひとつとってもサービスとなると従来との違いがでてきます。対価の対象や課金モデルを変更するといった業界慣習を変えるようなことであれば、代理店や顧客も巻き込んでいかなければなりません。ここで重要となってくるのは、Win-Winな関係を描くことです。それが、価値共創の第一歩となります。従来の「ソリューション発想」からさらに踏み込み、目指す価値共創の絵を描いてみてください。

展望〜新たな顧客との関係を求めて〜

 日本の強みはモノづくりにありました。今もそれは変わらないと考えます。しかし、このコラムでも取り上げてきたように多くの企業でコモディティ化が進み、突破口を見出すのに足踏みをしている状態でもあります。第1回のコラムでお話ししたように製造業のサービス化は、「新たな競争力の獲得」「新たな収益源の確保」につながりますし、「新たな技術革新の追い風」も吹いています。日本はモノづくりの国であると同時に、今やサービス大国でもあります。モノづくりにサービスの視点を取り込み、価値共創を目指すことは新たな突破口のひとつになるはずです。ぜひ、顧客との新たな関係づくりにチャレンジしてみてください。

 本コラムは今回をもって一区切りといたします。製造業のサービス化や価値共創が当たり前となったころ、またみなさんに発信する機会をいただければと思います。お読みいただき、ありがとうございました。

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