第43回 市場の魅力度発想
- 経営改革の知恵ぶくろ
神奴 圭康
事業評価は、市場性・競争力・収益性の3視点より行うことを前回に述べました。今回は市場性、市場魅力度を評価して事業の方向づけに役立てる魅力度発想について話しをします。
市場魅力度は需要の規模と伸び
我々は、「市場性があるない」という言い方をしますが、これは「市場の魅力度」を意味しています。私は、市場の魅力度を「需要の規模」と「需要の伸び」と単純に捉えています。(下図 市場性評価の3区分参照)
今、中国やインドの新興国市場の魅力度が高いのは、市場の大きさだけでなく高い伸びで安定的に推移していくことが全体として評価されているからです。日本市場の魅力度は、人口の大きさからすれば需要規模の魅力はまだありますが、全体の人口・生産年齢人口ともにその伸びが減少していくことから低下しています。したがって、市場の魅力度発想からすれば、日本企業が「内需型企業」を含めてアジアへ積極拡大することは必然の成長戦略と言えます。
ただし、市場の魅力度だけで事業の方向づけは決まりません。事業競争力が弱い場合は、市場から撤退の可能性もあります。逆に技術力やビジネスモデルなどの事業競争力が強い場合は、新たな需要を創りだす場合もあります。事業の方向づけは、市場の魅力度評価だけでなく事業競争力の評価を合わせて行うことに注意してください。
BU別の市場魅力度評価
S社は、日配食品の大手メーカーから中小メーカーまでを顧客として設備機械を製造販売している優良企業です。ただし、成長を続けるCVS(コンビニエンス・ストア)関連の日配食品メーカーや外食チェーンに対しては売上を伸ばしきれていませんでした。S社は、ターゲット市場別にBU(事業ユニット)を設定して経営をしていますので、BU別の市場魅力度を評価する必要があります。しかし、S社は設備機械別の市場データは業界統計で把握していましたが、BU別の市場データは不足していました。
次の表は、S社のBU別の市場魅力度評価をラインとスタッフが一緒になってまとめたものです。
BU別の市場魅力度評価をして事業の方向づけに役立てる考え方は、現在は定着していますが、当初は市場データを掴むことに慣れていないため定着していませんでした。営業メンバーやメンテナンスメンバーがBU別の市場データを調査していますが、次のような地道な作業がベースにあります。
・設備機械別の業界データを事業ユニット別に編集する
・主要顧客別に設備投資額や設備保有額を継続的に現場調査する
・業界データと現場調査データを組合せてデータ精度を上げる
また、このような地道な作業は、トップ方針により構築されたBU別のMDB(マーケットデータバンク)システムの土台となっています。BU別の市場規模や伸びを定量把握することは制約もありますが、「市場第一」のマインドを徹底してBU別の市場魅力度を把握・活用していくことが重要です。
市場の環境変化と機会・脅威の洞察
市場魅力度は需要の規模と伸びによると述べましたが、市場の環境変化と事業に与えるインパクト(機会と脅威)を定性的に把握しておくことが重要です。
需要の規模や伸びに影響を与える要因となるからです。 市場の環境変化の視点は2つあります。
一つは主に企業を取り巻く社会・政治・経済等のマクロ環境変化です。
もう一つは事業の市場・顧客、商品・技術、競争、法規制等のミクロ環境変化です。
事業の市場魅力度評価は、BU単位で行いますので主にミクロ環境変化の視点より行うことになります。環境変化と共にそのインパクトが該当事業にとって機会となるか脅威となるかを洞察することがポイントとなります。
ある自動車部品メーカーX社は、高級車と軽自動車のどちらかの部品受託の機会を得ました。X社は、単価が高く付加価値もある高級車の部品を受託する意思決定をしました。しかし、自動車ユーザーの燃費意識(環境や経済性の意識)等による軽自動車需要の伸びは高級車よりも高く、高級車の部品を受注したX社の売上や利益は計画を下回りました。市場環境変化と機会・脅威の洞察が甘かったのかもしれません。
社内では反省しきりだったとのことです。事業の市場環境変化とインパクト(機会と脅威)を把握して市場の魅力度評価をすることが前提となることに注意してください。
次の表は、S社の事業関連メンバーが市場環境変化と機会・脅威を討議してまとめたシートです。市場環境変化を機会と捉えるか、脅威と捉えるかは人によって違うことがあります。事業関連メンバーで共通認識することが重要です。また、事業のKFSとの関連で課題抽出に繋げることもポイントとなります。
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