第47回 オプション発想を身につける
- 経営改革の知恵ぶくろ
神奴 圭康
今回はオプション発想について話しをします。事業戦略の選択案を論理的に策定・評価をして意思決定する技を身につけましょう。
あるキリスト教会のコンサルティング
私がまだ若い時に、アメリカに本部があるキリスト教会をコンサルティングした話しです。その教会が所有する各地にある土地資源を活用し、経済的自立を図る経営コンサルティングを行いました。日本も経済力が付いたとの判断から、アメリカの本部が日本支部に経済的自立を求めたことが背景にあります。東京都内にある好立地の土地利用に関して、賃貸マンション事業を主力とした案を提案した時のことでした。
アメリカ人の事務局長から「オフィスとしての活用案は?」「予備校の教室賃貸案は?」「日曜は礼拝堂として活用できるか?」「賃貸マンションが駄目な場合にホテルに転用する案は?」など土地利用に関する事業案を質問されました。
われわれは、賃貸マンションの事業案をメインに提案したのですが、事務局長からは、いろいろな事業案を組み合わせたオプション案(選択案)の提案をしてほしいということだったのです。
私は、アメリカ人の論理的に複数の選択肢を柔軟に発想する頭の使い方に衝撃を受けたことを覚えています。その後、いくつかの外資企業の流通チャネル戦略など、事業戦略のコンサルティングでも同様の経験をしました。
オプション発想とは?
オプションとは、「選択、選択の自由」を意味します。オプション発想は、事業戦略など事業構想をまとめるにあたって一つの案ではなく考えらえる選択案を論理的に策定・評価して意思決定する発想法です。
一つの案だけを考えるのではなく、経営環境変化や自社資源変化のリスクを想定して複数の選択肢を事前に用意しておくことも意味しています。このことにより事業構想シナリオを事前に想定しておくことが可能となります。
欧米人に比べると、日本人は選択肢を一つしか持たないということが言われますが、現在のようにグローバル化した時代では大きな弱点になると言えます。一つの選択肢だけですと情報も偏った情報しか入りません。複数の選択肢をもつことによって、複数の選択肢に関連した情報が集まってきます。
経営環境変化や自社資源変化に応じて事業戦略の選択肢を事前に想定し、情報を集めておくことにより、タイムリーな経営改革案の意思決定が可能となります。 事業戦略だけでなく、いろいろなビジネスの場面で適用できるオプション発想を、ぜひ身につけてください。
オプション発想の適用レベル
オプション発想は、事業戦略など事業構想をまとめるにあたって有効ですが、意思決定のレベルを考えて適用することに留意してください。
意思決定のレベルは、次の図に示すようにレベル1からレベル3まで考えられます。オプション発想は、上位の意思決定レベルから適用することが原則です。下図参照
SI企業M社のオプション発想適用
第40回で紹介したSI企業(システム・インテグレーター)M社の事業領域を意思決定したオプション例を紹介します。
M社は、少数特定顧客の親会社やグループ企業を相手にした顧客密着型の事業ウエイトを下げて、グループ企業以外の多数特定顧客を相手に顧客開発型のSI事業に成功した企業です。M社は3年~5年後の事業領域の意思決定に当って、次の図に示す4つの事業ユニットを設定してオプション案を検討しました。下図参照
オプション案は、最終的には次の3つの案が比較評価されましたが、オプションBが意思決定されました。
オプションCは、オプションBが軌道に乗った後に進む選択肢と位置付けられました。
オプションA:グループ企業SI事業案
オプションB:グループ企業外SI事業展開
オプションC:事業多角化
また、M社の事業領域オプションの要点をまとめたワークシートが次の表です。ここで、比較評価において、次の点がポイントとなることを頭に入れておいてください。
・各オプションの基本的な考え方を明確にすること
・何が課題となるか、また、課題に対する対策を明確にすること
・各オプション案の主なメリット・デメリットを整理すること
・各オプション案のリスク要因を挙げ、その対応を考えること
・各オプション案の評価をして意思決定に結びつけること
下図参照
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