第5回 真の経営改革に必要なものは
- 経営改革の知恵ぶくろ
神奴 圭康
経営成果と改革人材づくりの同時実現を目指す
経営改革の目的は、企業が永続的に生き残るために企業の成長・発展と事業価値を向上させることだとご説明しました。これは、経営改革によって、経営成果である財務成果目標を実現することだけでなく、経営改革人材づくりも達成することを意味しています。私は、真の経営改革とは、経営改革の機会を通じて経営改革の人材づくりを行うことと考えます。なぜかといいますと、経営改革は第一線リーダーの現場改善力、ミドルの部門横断テーマ改革力、そして事業や会社のトップの統合的経営改革力など改革人材を開発する絶好の機会だからです。日本企業の強さは、本来は人間尊重で長期的視野を持って人材を育成・開発していくところにあると捉えています。ですから、経営改革にあたっても、この点を認識して「経営成果と改革人材の同時実現」を目指した経営改革の推進を提唱しています。
経営改革が空回りしないようにするには?
経営改革の取組み姿勢において、経営と現場の連携が不可欠と言えます。経営改革は、トップだけの問題ではありません。トップダウンのみの経営改革は、ミドル以下の現場がやらされ感に陥る危険性があります。経営と現場が連携するとは、言いかえると、「戦略力」と「実行力」の2つの力が噛み合うということです。うまく噛み合わないと経営改革は空回りすることになります。「戦略力」は、トップの役割ですが、企業や事業の目指す事業ドメインや事業モデルの方向を意味する全体像(ビッグピクチャー)を明示する力です。「実行力」は、ミドル以下の現場が担当しますが、戦略を施策に具体化、徹底実践する力です。
私自身、経営改革のコンサルティングを進める際、図表に示すように、その企業の戦略力および実行力の2つの力がどのような状態にあるかをまず事実確認しています。適確な戦略が明示されていても、その戦略を施策に具体化して徹底実践する現場の実行力がなければ、経営改革は成功しません。また、戦略が適切でない場合も、現場に実行力があっても部分最適による積み上げ的改善に終始してしまい、やはり経営改革が空回りして現場には疲弊感がただようことになります。真の経営改革は、経営と現場がうまく連携した改革であり、戦略力と実行力が噛み合った改革と考えられるのです。
気力・知力・体力の3力が必要
経営改革の心構えとして、トップ以下全員が、「気力・知力・体力」の3つの力を発揮することが必要だと考えます。
改革は「現状否定して新しい姿にする」ことです。その現状否定には、まず「気力」が必要です。気力は「何かを最後までやり抜く精神力」ですが、私は「やる気、勇気、根気」の3つの気と解釈しています。そのうち、「やる気」は経営改革をやり抜く強い意志です。特にトップが「やる気」を持ちそれを言動で示すことが重要だと思います。「勇気」は、思い切って決断することです。決断しなければ、何も先に進みません。「根気」は、あきらめない力です。改革実行は、様々な阻害要因が発生しますが、トップはそれら除去し、改革を徹底実践するあきらめない力を発揮する必要があります。
次に「知力」です。改革には、現状否定だけではなく、それに代わる新しい姿を考えだす能力である知恵、すなわち「知力」が求められます。先人の考えた改革に関する知識体系も活用しますが、企業や事業の置かれた実態を踏まえたトップの戦略力や第一線リーダーの問題解決力など多種多様な「知力」が問われます。
さらに「体力」です。体力は「からだの運動能力・抵抗力・耐久力などの総合的能力」を意味しますが、経営改革はスピードが命でもあり、一人ひとりの体力が核となります。 これら「気力・知力・体力」の3つは、一人ひとりがバランスよく発揮することも大切ですが、同時に、組織全体でバランスよく活用することも重要と考えています。
次回は、「真の経営改革が目指すもの」についてお話しいたします。
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