第50回 事業モデルを構想する
- 経営改革の知恵ぶくろ
神奴 圭康
「経営改革の知恵ぶくろ」も第50回を迎えましたが、今回は、事業モデルの概念とその位置づけ、登場した背景についてご説明します。事業戦略の一環として事業モデルを明確にすることは、事業戦略を具体化すると共に、事業の仕組みである事業システムの改革に繋がることを理解して頂きたいと思います。
事業モデルとは
事業モデルはビジネスモデルとも呼ばれていますが、日常のビジネス場面でも頻繁に使われる経営用語として世の中に広まってきました。例えば、次のように使われています。
・「ハードとソフトの融合」で顧客満足を得て、利益を出す事業モデルである
・標準品のカスタマイズによって、顧客の選択肢を拡げる事業モデルである
・コア機能は自社、非コア機能はアウトソーシングというのが当社の事業モデルである
・「見込生産販売」から「受注生産販売」に事業モデルを変えていきたい
・伸びる小売業の事業モデルは、商品の企画開発・生産・小売販売の垂直統合が特徴だ
・トップから「事業モデルを変革してITを活用しろ」と厳命された
事業モデルの解釈については、様々あるかと思いますが、私は、事業モデルを「利益が還元される事業の考え方と仕組み」と解釈しています。 顧客満足・競争優位を実現し同時に利益が還元される事業戦略とするためには、事業モデルを構想(グランドデザイン)することが重要です。事業モデルの構想には、次の3点を吟味することが必要と考えています。
1.事業の考え方
・どこの市場の誰にどんな商品サービスでどんな価値を提供するのか?
事業モデルの前提となる事業領域や市場顧客/商品サービス戦略を明らかにしておく
・顧客満足や競争優位につながる顧客への提供価値を、ハード価値だけでなくソフト価値も重視して表す
・事業オペレーションの土台となる事業の仕組みを重視して、CS・競争優位を表現する
2.事業の仕組み
・事業の仕組みである事業システムは事業の考え方を実現するために必要だが、
その事業システムをどのようにするか
・事業システムは、顧客起点のビジネスプロセスを描いて、どんな機能分担・システム・人材で
運用するかを明確にする
・ITを有効活用して利益の出る事業システムを構想する
3.利益の還元
・顧客に提供する事業の考え方や仕組みに対して利益は還元するか?
・どのような収益還元モデルを想定するかを明確化する
・収益還元モデルは、売上構造とコスト構造、キャッシュフロー構造を明らかにする
事業モデル構想の位置づけ
上図に示すように、事業モデル構想は、事業戦略のコアと事業システムを橋渡しする位置づけにあります。事業戦略のコアとは、事業領域設定と事業の方向づけ及び市場顧客/商品サービス戦略を意味します。一方、事業システムは、事業モデルを具体化した事業の仕組みを指します。
事業モデル構想は、事業戦略の一環としてCS・競争優位を実現する事業戦略を具体化することです。また、事業システムの改革方向を示すものと言えます。開発、生産、営業など機能連携のあり方を方向づけることに繋がるのです。 事業モデル構想は、事業戦略策定と事業システムの両面に関わっていることを理解してください。
事業モデルが登場した背景
事業モデルの概念は、1990年代後半に登場しましたが、従来の事業の考え方と仕組みでは利益が出なくなったことが背景にあると考えています。新たな考え方と仕組みが必要になったと言えますが、具体的には次の3点が考えられます。
1.成熟・デフレ時代
経済・社会のトレンドは、成熟時代(少子高齢化・生産年齢減少、多様な価値観の時代)と共にデフレ時代に推移しています。ハード価値(良いもの)だけでは売れない、利益が出ない時代になりました。ソフト価値(デザイン、エコ環境、便利性、信頼感、ノウハウなど)も重視した事業モデルが必要になったと言えます。
2.グローバル時代
事業のグローバル展開が進み、人・資金・物・情報がグローバルレベルで流通する時代になりました。事業経営のルールも国際化しました。グローバルでのCS・競争の時代へ突入したと言えるでしょう。今や、国内のルール・慣習に守られた従来の事業の仕組みでは、売れない、利益が出ない時代だと認識する必要があります。
そこで、グローバルに通用する事業モデルを構想することが求められます。事業の選択と集中に基づく事業モデルづくりです。また、SCMやCRMなど事業オペレーションのグローバル全体最適化も必要とされています。
3.高度情報化時代
インターネットの進展には目覚ましいものがあります。ハードやソフトも制約のないIT活用のオープン化も進んでいます。さらに、ITを所有せずにサービスとして利用するクラウド・コンピューティングの時代を迎えています。
ITを有効に活用しない事業の仕組みでは、売れない、利益が出ない時代となりました。ITの有効活用で 利益が出る事業システムを策定・導入することが求められています。単なるハードやソフトの置き換えでなく、事業モデルを創り変えたIT経営改革が不可欠な時代であることを認識しなければなりません。
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