第54回 生産財ビジネスの事業システム改革例(1)~改革推進ステップと事業モデルの変革~
- 経営改革の知恵ぶくろ
神奴 圭康
前回、消費財ビジネスの改革例をご紹介しましたが、今回は生産財ビジネスを展開するY社の経営改革事例をご紹介します。 事業モデル変革と生産財ビジネスの事業システム改革ポイントを理解して頂ければ幸いです。
経営改革の背景には
Y社は、素材から完成品までモノづくり技術を土台に事業の多角化を推進する優良企業です。 その一環として、素材・部品を社内外から調達して完成品を生産する生産財(液体処理関連の設備機器)ビジネスを展開しています。 生産財ビジネスは、ECM(開発・設計・購買)、SCM(購買・生産・物流)、DCM(マーケティング・営業・チャネル)/CRM(営業・サービス・営業支援)の各領域において、人とシステムが連動して収益の還元する事業システムを構築することがポイントとなります。
Y社の設備機器事業は、技術力と営業力によって、高価格市場を対象に国内ではトップグループを形成してきました。 しかし、今後の事業発展に向けて次のような課題を抱え、事業の転換期にありました。
・市場競争激化による収益伸び悩みの克服
・在庫増加によるキャッシュフロー改善
・国内外中価格市場の対応
・製品のユニット化やシステム化の対応
・サービス力の強化と収益の獲得
・グローバル化への本格対応
・部門間の機能連携力強化
・営業マネージャーと営業担当者との情報共有化
・若手営業人材の育成開発
・ITの有効活用 など
改革推進のステップ
Y社経営改革の推進経過の概要は、下図の通りです。
特徴としては、次の3点があげられます。
1. 事業戦略の確認を短期間で行い、事業システム改革に繋げていること
・海外中価格市場の進出、モジュール製品からシステム製品の開発、サービスの事業化
・属人的事業モデルからの脱却
2. 生産財ビジネスの基本領域を改革対象としていること
・ECM、SCM、DCM/CRMの各領域における事業システムの改革
3. 事業システム改革の3つの視点から取り組んでいること
・組織・システム・人の3視点による統合的改革
事業戦略は事業モデル変革が焦点に
■事業領域と市場/商品戦略の確認
事業領域については、今後の事業方向づけを確認しました。 中期経営計画で明確になっていたこともあり、事業部経営幹部の考えはほぼ一致していました。
・国内市場と海外市場の2つのSBUに大別する。
・国内市場SBUは、用途市場別に(自動車、食品、上水・下水など)BUを設定し、
経営資源を選択投入する。
・海外市場に経営資源を中長期的に積極投入して拡販する。
・サービスBUを設定してサービスの事業化に取り組む。
一方、市場/商品戦略については、次の点を明確にして共通認識をしました。
・国内高価格市場に加えて、海外中価格市場(ボリュームゾーン)に取り組む。
・モジュール製品に加え、設備システム製品を開発し拡販する。
・サービス価値のノウハウ化・メニュー化を行い、収益に貢献する。
■事業モデルの変革
従来の事業モデルは、「技術力と営業力によって高収益を実現する事業モデル」でした。 しかし、市場競争の激化(価格競争、海外メーカーの進出など)により収益の伸び悩みが目立ち、高収益事業の社内評価も揺らいでいました。 新しい事業モデルは担当者も参加して検討されましたが、実のところ、なかなかまとまりませんでした。 今までの成功体験が事業モデルの変革を阻んでいたのです。 次のような点が問題だったと言えます。
・技術力、営業力共に優れた人材によって高い収益を実現してきた点が、成功体験となっていた。
しかし、その分属人的な面が強く、組織力やシステム力を活かした事業システムとなっていなかった。
・営業面では、市場別に完結した人中心の事業運営が成功要因と考えられた。
しかし、ベテラン人材でないと事業運営ができない仕組みであり、営業人材の育成にも
時間がかかる仕組みと言えた。
・サービス面においては、アフターサービスによって利益を獲得するという考えが徹底されてはなかった。
設備機器事業は、保守・修理サービスを必ず伴い、その経験やノウハウを有料サービスとして
顧客に提供する考えと仕組みが必要とされた。
・生産面では、受注生産を原則としていたが、実際には顧客や営業部門の内注等により
見込生産システムとなっていた。これが、在庫増加の大きな要因と言える。
・開発設計面でも、設計・購買・生産で利用している部品表が一元管理できていないなど、
グローバル対応をしていく上でいくつかの問題があった。
この事業モデルの変更は、一人ひとりの意識改革に時間がかかりましたが、最終的には「人を支援するIT活用の事業モデル」へ改革することになりました。 社内では「属人的事業モデルから人+組織・システムの事業モデルへ」を合言葉に、事業システムの改革に着手したのです。(上図参照)
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