第66回 組織改革(1) ~組織構造を変える!~
- 経営改革の知恵ぶくろ
神奴 圭康
今回は、経営戦略を実現する組織改革(組織の構造を変える)の基本について、お話しします。
組織構造改革に見られる問題
経営環境変化に対応できる経営戦略を実現するためには、その経営戦略に適合した組織を設計する必要があります。 しかし、次のような現象を見受けることがあります。
・戦略意図が欠落した組織いじり
組織は、経営戦略を実現する手段ですが、組織をいつも変えている組織いじりのケースがあります。 たとえば、複数の事業を展開している会社が、経営戦略を明確にしないで事業組織を細分化したり、逆に統合化したりといったことを繰り返しているケースです。 戦略意図がない組織改革であり、メンバーに改革の目的が伝わらない可能性があります。
・組織の役割・機能が曖昧な組織
組織設計は、組織図と共に、各組織の役割・機能を設計することが必要です。 しかし、その役割・機能が曖昧なままに、組織の形を作ってしまうケースが時々あります。 たとえば、ある会社は経営戦略室というゼネラル・スタッフ組織を作りましたが、その役割・機能を曖昧なままに運用をスタートさせました。 結局、経営戦略室は有効に機能せずに、廃止に至りました。 組織は作ったが、役割・機能設計が不十分なため失敗してしまった、というケースです。
・非効率な組織
その他にも、行き過ぎた分業組織による人員増加や、迅速な意思決定を妨げる多層化組織など、非効率な組織構造もよく問題になります。 また、スタッフ組織の肥大化による権限の拡大や業務効率の低下も、問題になります。
組織設計における3つの基本
組織設計は、1.戦略性、 2.役割・機能性、 3.効率性、これら3つの性能を満足させることが基本と言えます。
1.戦略性
「組織は戦略に従う」という概念がありますが、組織設計の基本の一つに、経営戦略の実現を目的に行う「戦略性」があります。 たとえば、単一事業でいくのか、または事業の多角化を進めるのか、経営戦略によって事業組織が異なります。 また、事業のグローバル展開を積極的に推進するかどうか、という経営戦略によっても、事業組織のありかたが違ってきます。 将来の市場・顧客と製品・サービスを想定する、会社全体の事業領域をどう設定するかが、事業組織の設計にあたっては大きなポイントとなります。
2.役割・機能性
「役割・機能性」とは、経営戦略を実現するためには、組織にどんな役割・機能が必要かを設計することです。 責任と権限を設計することとも言えます。 たとえば、○○事業部と言っても、○○事業の事業損益を実現するだけでよいのか、○○事業のバランスシート改革や資金損益(キャッシュフロー)改革の役割も負うかによって、事業部の果たす機能は違ってきます。 また、組織の形、必要人材、必要情報も異なってきます。
3.効率性
「効率性」とは、適正人員による業務遂行、意思決定の迅速性など、組織の経済性を考えて設計することです。 たとえば、多数拠点への事業展開や事業の多角化は、事業ラインスタッフ(販売・仕入事務、管理事務など)を事業拠点や事業部内に抱える可能性があります。 そこで、事業ラインスタッフを全社的に集中して業務運営にあたる組織を設計し、会社全体の組織効率化を図ることがあります。
経営戦略と事業組織
組織設計の基本の一つである「戦略性」について、ご説明しました。 では、この「戦略性」について、基本的な考え方をご紹介しましょう。
上図は、事業の多角化とグローバル展開の視点から見た、事業展開と事業組織モデルの関連を示したものです。
単一事業を国内で事業展開する場合は、機能別組織がモデルとなります。 機能別組織は、製造業であれば、研究開発、購買・生産、営業など、機能ごとに組織を作る形態です。 チェーン小売業であれば、立地開発、商品開発・仕入、店舗販売などに分けた組織です。 この組織は、全社全体最適の立場から各機能を連携させる、トップマネジメントの統合連携機能がポイントです。
また、複数事業を国内で事業展開する場合は、事業別組織がモデルとなります。 製造業であれば、製品別事業部制や市場・顧客別事業部制の組織です。 チェーン小売業であれば、業態別事業部制です。 事業別組織は、事業部の自己充足による意思決定の迅速性がメリットですが、事業部の部分最適化が起こるデメリットがあります。 したがって、トップマネジメントが全社的立場から、事業や機能のシナジー(相乗効果)を促進することがポイントになります。
一方、単一事業でグローバル事業展開の場合は、マトリックス組織が考えられます。 マトリックス組織とは、縦と横の2つの軸から経営する組織です。 単一事業グローバル展開型の場合は、機能別組織とアジア・欧州・アメリカなど地域別組織のマトリックス組織となります。 グローバル本社(機能別本部)と各地域との役割分担と連携がポイントと言えます。
また、複数事業をグローバルに事業展開する場合は、事業と地域のマトリックス組織を軸に設計することになります。 複数事業グローバル展開型の場合は、グローバル本社(事業別本部)と各地域との役割分担と連携が肝要です。 また、事業部が保有する各機能のグローバル全体最適配置との連携も、ポイントと言えるでしょう。
グループ経営時代の経営組織とは
事業の多角化やグローバル展開が進む中で、今、グループ経営の時代を迎えています。 単一企業の経営組織からグループ経営組織へ組織構造が変化し、本社組織と事業組織のあり方も進化しています(上図参照)。 簡単にご紹介しておきましょう。
企業が単一事業を国内で展開している時期は、生産機能や販売機能を別会社にするケースもありますが、単一企業の経営組織が一般的です。本社組織も事業組織も、機能別組織の形をとります。 しかし、事業の多角化やグローバル化が進展すると、複数企業の事業シナジーの全体最適を目指す、グループ経営組織が求められます。 本社組織や事業組織の形も変わってきます。
グループ経営には、大きくは、事業親会社によるグループ経営と、純粋持株会社によるグループ経営の2つが考えられます。
事業親会社によるグループ経営は、親会社自体が通常はコア事業を経営していることから、親会社は、本社組織と共に事業組織をもちます。 親会社の本社組織は、親会社とグループ企業、両方の本社機能をもつことになります。 トップマネジメント機能と共に、財務・人事・経営企画など、機能別組織を保有します。 グループ企業の事業組織は、親会社の事業部や社内カンパニーと事業関係会社が混在した事業組織となります。
一方、純粋持株会社によるグループ経営は、持株会社となるグループ本社組織と事業組織を分けた組織となります。 本社組織は、グループ企業全体の最適経営を実現する役割・機能をもちますが、トップマネジメント機能に合わせて、グループ政策スタッフ機能も重要です。 事業組織は、独立した事業関係会社の形態をとります。 事業関係会社内では、複数事業を経営する場合は、事業部制を採用することになります。
なお、グループ経営においては、経理や人事などの日常的業務を独立させ、サービス機能分社を作ることもあります。 いずれにしても、組織は、経営環境変化に対応できるように、その構造を進化させることが重要です。
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