愛知機械工業株式会社
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「同期生産」 の実現でモノづくりが変わった! ~壁を乗り越える基礎体力は、基本のTPM活動で培われていた~
愛知機械工業株式会社は、日産自動車株式会社の完全子会社として、常に基本の改善活動を重視し、高い技術力を維持してきた。2006年、その同社にとっても高いハードルとなる「同期生産」という生産方式への大転換が起こった。その大転換を支えたのは1985年から基本活動としているTPM活動だった。新たな生産方式にどう対応し乗り越えたのか、それを支えた人の成長、今後の目指す姿などをお伺いした。
「同期生産」で生産方法の大転換に直面
愛知機械工業株式会社(以下愛知機械)は、1943 年2月に設立された愛知航空機株式会社(旧愛知時計製造株式会社航空機部門)を前身とし、戦後1949 年5 月に新愛知起業株式会社として設立された。自動車の小型エンジン、マニュアルトランスミッションの専門メーカーとして、1962 年から日産自動車株式会社(以下日産)と業務提携し、2012 年に完全子会社となり、日産自動車グループの一員として、主にエンジンやトランスミッションの開発・製造を担当している。
同社の技術力は、日産GT-R 搭載の超高性能変速機を生産している唯一のメーカーということだけでも想像に難くないが、この製造に携わる「匠」と呼ばれる熟練メンバーだけでなく、日々高い技術を追求し続ける風土が根付き、モノづくり力を支えている。
その同社において、生産のあり方を変える大転換が起ったのは2006 年のことだった。日産が90 年代から取り組んでいた同期生産 を活用してモノづくり力の向上にチャレンジすることになった。
同期生産とは、"限りないお客さまへの同期"と、"限りない課題の顕在化と改革"の活動指針を掲げている日産の生産方式である。
この活動指針に基づき、愛知機械のお客さまである日産の車両工場と同期したエンジンの生産、出荷を実現させる生産システムの構築に取り組んだ。
車両を購入していただいたお客さまに同期した生産を実現させるためには、生産リードタイムを短縮する技術・管理が求められる。エンジンの生産において、部品の加工、組立、車両工場への輸送の各プロセスが帯で繋がった状態を実現した。
生産本部 生産統括室 主管 瀧田 高久氏は当時を「それまでの大量生産、大ロット生産といった生産方式から、バリエーションの多いものをいかに短時間で生産して届けるか、お客さまに同期したモノづくりが求められるようになりました。これを実現するためには、我々が今まで取り組んできた効率やコストダウンを追求するロット生産という価値観を崩さなくてはならないですし、モノづくりの仕組みそのものを変えてモノづくり力を上げないと達成することはできないと思いました。」と振り返る。
壁を乗り越えられたのは改善の風土が根付いていたからだ
以前から日産の生産方式を取り込まなくてはいけないという認識を持っていた同社では、実は2004 年、新たに引いたラインで先行して同期生産に取り組み始めていた。瀧田氏は「当時私も このプロジェクトチームの一員として課題解決に取り組みました。加工ラインで生産されるパーツはどのエンジンの部品になるかが決まっています。一台一台のエンジンに組み込まれる全ての部品を組立ラインに流す『一個流し』という方式で組み立てを行います。大きさも様々な部品を流しますので、工場のレイアウト、ラインの設計、作業手順全てが変わるのです。車両工場の輸送まで連動していますので、『ラインを止めることが出来ない』現場にはそういうプレッシャーがありました。一方で、この厳しい生産方式に取り組むことが、更なるモノづくり力、人財の育成に繋がると考えました。」と大きな挑戦だったと語る。
当時現場改善に取り組んでいた、生産本部 生産統括室佐藤 仁氏は「加工ラインの設備を止めることはお客さまに迷惑をかけることに直結します。しかし、過剰に在庫を持つこともできません。組立ラインに直結する加工ラインの設備は4時間以上止めないと決め、新たなモノづくりに挑戦しました。それを根底で支えていたのは、1985 年から取り組んでいるTPM 活動で培った自主保全の考え方や現場力が大きかったと思います。」と語る。
TPM(Total Productive Maintenance & Management)とは製造企業が持続的に利益を確保できる体質づくりをねらいとして、人財育成や作業改善・設備改善を継続的に実施していく体制と仕組みをつくるためのマネジメント手法だが、同社での歴史は古く、1985 年から継続し1990 年にTPM 優秀賞、1994 年にTPM 継続賞、1995 年にはTPM 特別賞を受賞し、長く製造現場の活動の柱として推進し続けている。本活動を2000 年から支援している、チーフTPM コンサルタントの嘉指 伸一は「愛知機械さんは常に高い目標を持って改善に真摯に取り組んできた歴史があります。検討課題を出しても常に期待を上回る結果を出す底力を持っているのです。それはTPM活動の継続と共に、改善し続けなければならないという風土が根付いているからだと思います。」と同社のモノづくり力にはベースとなる改善の風土が培われているからだと語る。
基本に立ち返り自主保全の再構築に取り組む
モノづくりの流れを根本的に変えた取り組みの結果、2004 年は、お客さまと完全に同期したモノづくりが実現できた年になった。その成功には、社内の管理職や現場の監督者の中にも衝撃を受けた人がいるほどだ。
実現に向けて、人の成長が大きく寄与していたという生産本部 生産統括室 主担 山崎 義幸氏は「メンバーが、常に後工程へタイムリーに必要な部品を供給することを意識したモノづくりに取り組んでくれたことが実現に繋がったと思います。これは非常にハードルが高いことで、85 年からのTPM で培った設備管理の経験がなければ達成することができなかったと思います。」という。
また、本格始動に向けて瀧田氏は「それまではTPM活動を通して、設備総合効率の向上=個別改善の実施という考えで、いかにPDCA を早くまわすかという取り組みをしてきました。このベースがあってこそ同期生産への挑戦が可能となりましたが、個別の改善を確実に積み上げることに加えて、全体最適を考えた仕組みの改善が必要になりました。2006 年の本格始動からは、この点にも取り組んでいきました。」と活動の進化を語る。
取り組みの中では、4時間以上設備を止めないという課題に挑戦するため、メンテナンスデーを設け、設備を不具合で長時間停止(以下ドカ停)させないための対応を取った。1日設備を止めて、集中的に保全のリソースを投入して設備を正常な状態に維持していくというものだ。それでも、不具合が発生したのだ。瀧田氏は「メンテナンスデーを設けることで、その日にまとめてメンテナンスしようという意識が働き、皆が日々設備を診ることを疎かにしてしまった結果でした。逆に5 分以内の停止(以下チョコ停)が増えたり、ドカ停の際にも日々設備を見ていないため原因が分からず、調べるために時間が掛かるということが発生しました。嘉指さんに『TPMの基本をきちんとやらなくてはいけない』とズバッと言われました。基本に立ち返らなくてはならないと再認識させられた出来事でした。」という。これをきっかけに、2012年からは「TPM10」と名付けて、毎日全員で必ずスタート時5分、10 分設備を止めて、清掃、点検する自主保全活動の徹底を始めた。
嘉指は「自主保全は必ず時間を取って毎日やること、全員で取り組み習慣化することで、故障、不良、チョコ停などのロスも自分達の問題と捉え、プロの意識を持たせる『気づきと徹底』の活動です。必ず全員で取り組むことでプロ集団になっていくのです。」と積み重ねることが重要だという。
未来に向けた人財育成がスタートしている
今回の取り組みは人の成長にも繋がったが、佐藤氏は「我々が教えられてきたベースは、現場のオペレーターも自主保全を当たり前にするというTPM の教育でした。設備がどんどん高度化、複雑化する中で、触れたり体験する機会がなくなって、五感が弱くなったと感じていました。自分達の設備を守るという意識も薄くなっていることに危機感を覚えました。」と課題を感じていた。
山崎氏も「1985 年TPM をスタートして特別賞を取るまでの間、一番活躍していた世代の方がちょうど定年を迎えることも重なって、技能伝承をできる人が減ってくること、製品の構造を理解できていない従業員がモノを造ることへの危機感がありました。」という。こうした危機感を受けて、同社ではモノづくりの原理原則を実体験できるカリキュラムを構築し、2009 年に「スキルセンター」を立ち上げた。
佐藤氏はスキルセンターのセンター長でもあるが「座学と合わせて、モノづくりの基本のドリル加工で、焼きついた時の匂いや、摩耗したときの音、油をさしてみるとどうなるかといったことを体験してもらっています。知恵もつきますし、我々の機械でもこういうことが起こっているということを体感してもらうことに繋がります。」という。また瀧田氏は「『TPM10』の活動でオペレーター同士が相談し合って活動している姿を見て、昔のTPM活動のようでした。スキルセンターの講座がジワジワと生きてきて、自主保全を必要と感じる従業員が増えてきていると実感しましたし、それはうちの財産になると思います。」と成果を感じている。スキルセンターの講座は従業員の過半数が受講し、同社のモノづくり現場を支えている。
そして、個別技術の進化も続けている。一例だが、硬さの違う2種類の素材を使用したパーツを共加工する刃物があり、一種類の素材だと5 ~ 6,000 回持つ刃が、実際の機械では300 回しか持たないということが発生した。嘉指の指導の下、品質工学をベースにした分析や、解析によって最適な加工条件を見つけ出すことで、なんと7~ 8,000 回にまで刃物の寿命を延長することができたのだ。嘉指は「実際の製品を使わない効率的な方法で、モノの考え方、着眼点、技術の本質を理解してもらいたいと思います。改善で成果を上げるのは当たり前で、技術者が日々応用できる力を付けてくれることが私の役目だと思っています。」という。
グローバルトップランナーを目指して先頭を走り続ける
同期生産に向けた取り組みと、TPM 活動の相乗効果で技術力を上げる同社だが、JMAC に対して山崎氏は「受け手のレベルに合わせてちょっと頑張れば出来る方策を一緒に考えてくれます」と。また、佐藤氏は「現場に入り込みながら親身になってくれるところが良いですね」と評価している。
同社は2013 年からの中期経営計画で、更なる高みを目指し「AK-GTR(愛知機械グローバルトップランナー)」、世界の日産・ルノーグループの中でNo.1 になることを"目指す姿"として掲げ活動を進めている。その中の取り組みの一つとして、生産部門では「QCT 全てNo.1」、「Q=クオリティ」、「C= コスト」、「T= タイム」にチャレンジたモノづくり競争力を上げる取り組みにもチャレンジしている。この3部門の取り組みは愛知機械の強みにしたいという経営層の思いでもある。
いかに固有の技術を磨き、モノづくりの仕組みを創り上げるか、瀧田氏は「同期生産もエンジン工場の中で我々が最初に取り組みました。常に先頭を走り続けて行くこと、それこそ愛知機械が担って行かなくてはならないことだと思っています。」と語る。グローバルトップランナーを目指し、高い目標にチャレンジを続ける愛知機械、そのモノづくり力の進化が楽しみだ。
担当コンサルタントからの一言
現場は"継続と徹底"で強靭となり経営改革を成功に導く
経営は『気づき』と『徹底』とよく言われます。経営者が他社の成果を知り、TPMやトヨタ生産方式などを導入、目標の成果が数年で出ます。しかし、その後自社で独自に活動を推進したり、別の活動をする、あるいは、止めてしまうという会社も少なくありません。一方で、長年、徹底してその活動を続けている会社もあります。その違いは経営者の考え方であることは言うまでもありませんが、大きな違いは、経営者の『気づき』を『徹底』することで体得した、現場の『本質』理解の深さであると思います。
嘉指伸一(TPMコンサルタント)
※本稿はBusiness Insights Vol.56からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。
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