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日本の製造業、2023年はどう動くのか?動くべきか?

  • 生産・ものづくり・品質

石田 秀夫

 2023年の変化を見通すのは、不確実性や想定外の事象が起きる混迷の時期であることから難しい。本コラムでは、諸々の企業コンサルティングの現場での事象や環境情報から筆者が考える、2023年の動き(仮説)と提言をお話しする。

 ・戦乱による材料・燃料高と半導体不足の厳しさがあるが徐々に回復の見込み
 ・過去の半導体業界から学習し、中長期での投資と産業政策が成長チェーン(Growth Chan)重点となる
 ・組織力を活かした追従追い抜き戦略で付加価値向上を行い、投資と給与に分配へ

製造業の今後の見通しと打ち手

 ご存知のとおり、ロシアのウクライナ侵攻は続いており、残念ながら今年早々の終息という予想もつけにくい。関連して材料費・燃料費の高騰や新型コロナの蔓延による経済影響、海外の国々の景気減速などを考慮すると、外的環境因子では楽観するような好材料は見つけにくい。ただし、各国ともWithコロナの生活様式で経済活動回復や渡航なども始まっていることから、徐々に回復していくと予想する。
 製造業には若干厳しいように見えるが、この時期(特に生産量が延びない時)に売上減でも収益をあげられる企業体力をつけることが大切であると改めて考える。

 一方で昨今は「価格転嫁」はある程度社会的に容認される風潮もある。これまで価格転嫁というと、企業の問題として個社が注目される印象があったが、今回は社会問題として捉えている側面が欧米のようにあり、これまでと異なると感じる。
 この価格転嫁は、生活上必要性が高いものや付加価値が高いものには行いやすい(=容認されやすい)という性質がある。よって、付加価値の追求(非価格競争や模倣困難性の向上)がこの時期だからこそ求められる。さらに他の先進国と比較しても、日本は物価水準が安いこともあり、受け入れてもらいやすいと考える。

 また、生産減の影響は材料不足や部品・デバイス類、とくに半導体不足の影響が大きいことは承知の事実であるが、すでに半導体の回路線幅の細いものは概ね供給回復している。その他のマイコンやパワー半導体の類は現在も不足しているが、今年度中盤から供給が追い付くと見ている。これらのこともあり、「徐々に回復していく」と考えられる。

今後の必要な戦略と政策

 ここで少し半導体業界を事例に基づいて考えていきたい。半導体は「産業の米」言われるが、産業の基盤であることは今回の半導体不足により、あらためて理解し、体感した。半導体業界については、今後もDX、GX、EV、ロボティクスなどの成長分野を支える上で重要であり、付加価値の高い部材である。

 しかし、国内の半導体工場は老朽化した工場が多いのも事実である、今後は新鋭化含め、国としても戦略的な投資が必要だと考える。台湾は半導体をはじめとするテック企業に法人税優遇(法人税控除率15%⇒25%)や補助金など、国をあげての戦略的な位置づけとしている。
 投資については人・モノ(設備・ファブ(工場))・技術に投資をすること、そしてこれらを成長分野のチェーンで繋がりのある投資や税制優遇することが必要である。具体的には、成長するチェーン(Growth Chain)で投資⇒研究開発促進⇒連携・協業促進がされ、強いサプライチェーン(素材・材料・デバイス・製品⇒最終製品)を国が持つことになるのである。
 このGrowth Chainを先にも述べたDXやEV、ロボティクス(自動運転含む)、そして環境分野(GX)などを対象に優遇していくことが求められる。これをスピーディーに行っていく必要があるので、早期投資(中長期のビジョンを明確にした上で)や会社内の意思決定構造の早期化に関しても優遇があるとより良い。半導体業界は過去にあったシリコンサイクルという需給の波や不確実性はある。主食である国のコメ政策がそうであるように、半導体業界に対するリスクについても、企業と国で継続的に持つことが必要な政策と考える。

 これらの投資を行うこと、そして技術と人に継続的に投資して大切に育てることにより、半導体の付加価値向上や模倣不可能性が担保でき、継続的な競争力維持が出来ると筆者は考える。我が国の半導体業界が競争力を失った苦い経験が国・企業としてあるからこそ、これを活かさない手はない(熊本に台湾勢メイン(日系とJV)で1兆円規模の工場を誘致せざる負えなくなった事実と学習をバネにする)。

 これらの学習のもとでどのような手を打つかが重要であるが、ここ数年日本の製造業は負けたという議論を短絡的にする方々が増えてきた。おそらく、「製造業の一人当たりGDPが欧米先進国から離れている」「賃金レベルが上がらない」「GAFAMのようなプラットフォーマーがいない」などから出る言葉と想定するが、日本の製造業には潜在力があると筆者は考える(これらのデータは、JMACのエグゼクティブアドバイザーであり東京大学名誉教授の藤本先生の研究から読み取ることができるが、今回は割愛する)。

2023年・そして今後の製造業の打ち手

 日本の製造業の勝ちパターンを歴史から学ぶと、さまざまな産業において、残念ながら事業の創成期でフロントランナーになり勝ち続けている例は少ない。日本は、産業ドメインが立ち上がったあと、追いかけて追い抜くことで競争優位になる「追従追い抜き戦略」が得意な国であり、国民性だと考える。追従追い抜き戦略で勝利した産業ドメインをみていくと、電車・自動車・家電・一時期の半導体・OA機器・一時期のPC・医療機器など、枚挙に暇がない。この追従追い抜き戦略の大きな観点としては、戦略レベルと戦術レベルがある。

 戦略レベルでは、中長期の戦略を描いた上で、人・モノ(設備・生産システム)・技術・DX/ITシステム・協業への積極的投資である。昨今、日経プライム市場上場企業の現金預貯金は大変高い水準である。これは有事の際の貯金という考え方もあるが、戦略的な投資下手を示していると筆者は考える。
 経営層から一般社員までワクワクする投資を行い、諦めず付加価値をつくり込み、明るい未来を創生していくことが重要である。しかし、あらたな付加価値を生み出すといっても、商材やサービスの対象が広がっていることや、事業創造が先行者利益でスピード勝負という観点から、自前主義では競争力を得にくい。社内・社外とのネットワークの経済性をM&Aなども含めて活かしていうことが重要な方向性となる。その上で模倣不可能性を担保する技術を構築し(できればビジネスモデルも)、知財戦略も熟慮の上、周到な戦略とグランドデザインを描いていきたい。

 戦術レベルでは、日本の組織力を活かしつつ社内外連携による継続的改善を行い、技術や現場の力で漸進的な改善を行い、積み上げていく必要がある。この場合はテーマ設定が大切であり、二律背反のテーマを組織横断で考えて解決していくことなどが重要である。
 例を挙げれば、顧客満足や品質を高めつつコストを低減、DFM(Design for Manufacturing:生産容易性設計)とMFD(Manufacturing for Design:商品性実現する工程)などである。このようなポイントは、なにをブレイクスルー(二律背反)するのかを上位からガイドすると迷いがなく尚良い。これに加え、従来の改善を各部門で継続的に且つ組織力を活かし行うことは、日常的に必要であることも付け加えておく。
 
 これまで述べたように「追従追い抜き戦略」の戦略面・戦術面を中長期でデザインし、組織力を活かして、しつこく諦めず挑戦していくことが、次の時代の覇者となれると考える。そのタイミングは今、2023年今年からなど出来るだけ早いスタートが大切である。機能素材、製造装置、組織力が強い日本で、上手にインテグレーションを行えば、必ず明日は拓け、付加価値の高い産業、そして給与レベルも上がる。追従は、これからである。

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