JMACレポート
ものづくりを率いる人が 知っておくべき「教科書」
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スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン(SMDG)の有効性を検証
(左から)
製造部 東予工場 次長 兼 船殻課 課長・馬渡亮浩さん
営業部 営業課 営業係 係長・浅海悠人さん
取締役 製造部 部長(本社・東予)・浅海 真さん
製造部 本社工場 船殻課 船殻係・浅海馨介さん
執行役員 経営戦略室 室長・谷川文章さん
浅川造船株式会社
技術革新やグローバル・サプライチェーンへの対応、労働力不足、環境規制の強化など、製造業を取り巻く社会経済環境は急速に変化している。問題解決の手段としてデジタル技術の活用があるが、導入に手を焼く企業も多い。造船業の老舗、浅川造船もそのひとつ。SMDGの有効性を検証したメンバーに、活用の手ごたえを聞いた。
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改革リーダーをこの水準に引き上げたい
昭和22(1947)年創業。造船業が盛んな愛媛県今治市に本社を置く浅川造船。現在就航中の中型ケミカルタンカー隻数では、世界第3位のシェアを誇る。今回、SMDGの有効性を検証することになったきっかけはガイドラインが「製造業の教科書」として最適な内容だったからだ。「ものづくりの改革リーダーは、このくらいの水準は語れるようになっていてほしい、ということがこのガイドラインには書かれています。これから製造業を率いていく人の教育にふさわしいと考えました」と話すのは、経営戦略室 室長の谷川文章さんだ。
造船業の製造プロセスはかなり特殊であり、需給特性は「個別受注生産型」、工程特性は「労働集約型」だ。受注の都度、製造品ごとにあらためて図面一式を起こすため、設計再利用性は低い。試作はせず、設計の不具合は製造工程の現物で発見し、それを修正しながら完成させる。また、見積段階、受注段階、顧客承認段階それぞれにおいて、顧客と造船所の認識に違いが生じると仕様を変更しなければならないこともあるという。そのような現場の変革課題とは何か。谷川さんをリーダーに、製造部 東予工場 次長の馬渡亮浩さん、創業家三代目の浅海真さん、悠人さん、馨介さんでワークショップを行い、現場の課題設定から有効性の検証を行った。
最初に行ったのは「57のマニュファクチャリング変革課題マップ」(p 27図3)から重要だと思う課題の洗い出し。中期経営計画を照らし合わせたり、費用対効果で考えたり、さまざまな角度から各自が検討し、全員が最優先事項に挙げたのが同図のサプライチェーンの変革課題「負荷変動を抑える仕組み」だった。これは、職場ごとの負荷のばらつきを最小化することで生産進捗に応じた柔軟な変更対応ができるようになる、というものだ。次にリファレンス(参考事例)から環境変化なども踏まえ、気づいていない課題を確認。先の変革課題とKGI(重要目標達成指標)の関係を確認し、仕組みを検討するというステップで進めた。
谷川さんは「設計は受注後に始まり、製造はぶっつけ本番。想定外の手戻りで採算が悪化することも。マニュアル化が困難で職場の自由度が高く、悪意のないムダが多い」と現場を振り返る。馬渡さんも「負荷のばらつきを平準化したい。スキルに差があり、慣れていない人は負荷が高い」と課題を指摘した。
重量物を扱うため、生産性は設備能力に左右され「仕事の進め方」「人の働き方」などの改善は後回しにされることも
課題を見える化して何事も数字で測れる組織に
今回の検証で、次期経営層となる3人の浅海さんも気づきが多かったと話す。悠人さんは「将来、自分が中期経営計画をつくることになれば、これがバイブルになるだろうと思いました。57のマニュファクチャリング変革課題マップを見ると、あてはまる課題ばかり。KPIやKGIも書いてあるので、非常にわかりやすかったです。製造部の活動がメインですが、コスト管理やスキル管理など、すべての部署にとって使える指南書だと思います」とコメント。真さんは「私は工場にいるので、負荷変動を実感しています。計画を立ててもそのとおりにいかないことが多く、人の配置なども日々の課題に。経験や知識を次世代につなげなければならないので、SMDGをベースに手順書をつくりたいと思いました」と話す。馨介さんは「製造部として、将来の困りごとや課題を先取りで考えられると思いました。進捗がわからない部署もあるので、見える化できるようにしていきたいですね」と意欲を見せた。
今回の有効性の検証を踏まえ、今後の展望について、谷川さんは「次世代のリーダーはSMDGの内容を理解し、課題を見つけられる人になってもらいたい。そのためには、長い時間をかけてSMDGに向き合ってほしいです」と話す。
馬渡さんも「今、造船業界も他業種との交流が進んでいますが、SMDGを共通言語として製造現場についての意見交換ができたら」と展望を語った。
浅海家3人も「数字で社員満足度を上げたい。がんばっていることが客観的に評価されるように仕組み化していきたい」(悠人さん)。「作業や手順が誰が見てもできるように、スマート化を進めたい。まず、一緒に進める仲間をつくりたいと思います」(真さん)。「まずは4、5人のメンバーと一緒に、活動をしていこうかと。離職率ゼロも目指したいですね」(馨介さん)とそれぞれの思いを語った。
最後に、谷川さんは「僕はシステム先行型のDXは成功すると思っていません。ビジネスモデルや生産方式から入って、日本の一番いいものづくりを追求する活動であるべきです。当社は個別受注ですが、お客さまの期待に応えながら量産効果も追求したい。そのためにSMDGはうまく機能するはず」と期待を込め、まずは「負荷変動を抑える仕組み」づくりに取り組んでいく、と総括した。
造船の製造職場はぶっつけ本番なので作業がすんなり進まない
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