次世代の「夢」をつなぐデジタルイノベーション
第3回 デジタルイノベーション、将来構想型プロジェクトはどう進める?
- DX/デジタル推進
- 次世代の「夢」をつなぐデジタルイノベーション
戸張 敬介
近年、AI、IoT等のデジタル技術革新による「第4次産業革命」が世界的に進展し、日本の製造業の間で「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の推進が課題となっている。
その本質は、デジタル技術を取り入れた独自の「イノベーション」を実現し、企業としての経営・事業を変革することにある。一方、業界・企業によってそのスピードは差が出始めており、背景には「組織の壁」が存在することも多い。
そうした中、企業経営の現場では、「思い」を持った次世代が、独自の「イノベーション」の実現を目指して立ち上がるケースが出てきている。このシリーズでは、次世代のエネルギーを生かした企業変革のアプローチについて取り上げる。
第3弾となる本コラムでは、「将来構想型プロジェクトの基本設計」についてお話しする。
将来構想型プロジェクトの基本設計
部門や組織を超えた新たな「つながり」を生み出すデジタルイノベーションの構想では、部門長による公式の取り組みと並行して、中堅・若手を巻き込んだ部門横断のプロジェクトを立ち上げる。思い切った視点から自らの将来を構想し、その実現に向けたチャレンジを継続的に仕掛けていくアプローチが有効である。
一方、将来構想は、目に見えない抽象的な「構造物」であり、何を議論し、どうまとめれば将来構想になるかから手探りになることが多い。そのため、部門横断的なメンバーによる議論を効果的、効率的に行う上でも、基本となるプロジェクトの設計を押さえておくことが重要である。
そのプロジェクトの基本となる推進ステップは以下のとおりである。
STEP1:現状と変革方向性の整理
現在・過去・未来の三視点から「現在置かれている状況」と「変革の方向性」を整理する。
STEP2:目指す「将来像」の構想
発想法を用いたワイガヤでの「テーマ探索」を基に、事業や部門の目指す「将来像」を構想する。
STEP3:ロードマップへの展開
具体的な行動を伴うアジャイルな企画立案・実践活動を通じて、ロードマップを策定する(※1)。
※1「アジャイル」とは、『すばやい』『俊敏な』という意味で、価値を生む程度の単位でアイデアを小分割し、ユーザーの課題を解決するためのプロトタイプを迅速に届け、実践投入による学びから効果的にプロダクトの改善を進めるアプローチを指す。もともとはソフトウエア開発の手法であったが、近年は経営・事業にも応用されるようになってきている。
プロジェクトメンバーが、イノベーションの基本手法を土台に、現状に対する社内の「思い」を引き出し、将来に向けて取り組むべきテーマを探索する。具体的な行動により新たな企画を立案するサイクルを継続・発展させることが、常に新たなアイデアを探索し、具体化する組織風土づくり(=「変革」の突破口となる意識・行動改革の基盤づくり)につながる。
テーマ探索や企画実践活動の検討スコープは、事業創造、機能革新、人材開発、技術開発等、いくつかの切り口があり、経営・事業の状況を踏まえて重点を設定する。
プロジェクトで自らの将来を構想する
上記であげたステップはあくまで基本となる設計であり、実際には組織の状況を踏まえてアレンジした形で適用するのが通常である。
ある産業機械製造業で実践した例を紹介しよう。
その企業では、開発・生産・営業の中堅・若手が一堂に会して事業の現状と将来を語る場をつくることをプロジェクトの重点に置いた(ロードマップ策定ではなく、改革の方向性を見極め、後続の取り組みを立ち上げるためのリーディングプロジェクト)。
STEP1では、プロジェクトの運営事務局が既存の社内情報をまとめた上で、ワークショップ形式で社内の問題・課題を「吐き出す」場をつくった。
STEP2では、検討スコープに制約は設けずに新製品・サービス開発、新市場・顧客開拓のアイデア出しを行い、事業の「将来像」をまとめながら、新たな成長に向けたテーマの探索・一次評価を行った。
STEP3では、一次評価により選定したテーマについて具体的な企画立案を進め、最終的に、企画の本格的推進とともに、部門横断での継続的なチャレンジの場づくりを提案した。
また、「工場のデジタル化将来構想」を検討したプロセス製造業の例では、上記のステップを土台としつつ、
STEP1でデジタル技術の将来動向や社内でのシステム化の現状を視野に入れ、STEP2で工場の「ありたい姿」とその実現のための改革テーマを並行して検討した。
そして、STEP3では、改革テーマの具体化に向けた企画書を立案し、ITベンダーへのRFI(情報提供依頼)を通じて費用対効果を検討した上で、デジタル化の中長期ロードマップをまとめた(※2)。
※2 プロジェクトメンバーの工数によっては、中長期ロードマップを本格検討するためのガイドライン策定までをプロジェクトの推進範囲とする方法もある。
推進体制としては、プロジェクトの目的や検討範囲(スコープ)に関係する部門を中心に、全体のとりまとめ役となる推進リーダー、運営事務局メンバー2名、専任・兼務で参画する4-8名の実務メンバーをアサインすることが多い。
全体の意思決定・方向性を設定する役員レベルがプロジェクト責任者となり、スポンサー役として大所高所からの指摘や、社内外との関係構築、また社内のさまざまな声に対応する所謂「雑草を抜く」役割を担った。また、関係部門長には、「アドバイザリーメンバー」としての参与を依頼し、企業全体の公式の取り組みとの連動を図ることも有効である。
プロジェクトの期間は、集中力を持続させる意味で、半年程度のサイクルとして推進し、少なくとも、2週間に1度はメンバーが集まって活動する場を設定できるとよい(将来構想の具体化に向けた中長期ロードマップ策定まで展開する場合は、1週間に1度程度のミーティング)。
あらゆる改革の将来構想は、その起点は有志の対話にあり、デジタルイノベーションも例外ではない。まずは「仕事はもっとおもしろくできる」の精神で、手の届く範囲から行動を起こし、将来を自ら構想することが重要である。
そして、企業家精神を持った一人の誰かが、「あらたな結合」の実現を真剣にもくろんだ瞬間から、それは現実味を持った存在となるのである(シュンペーターの『経済発展の理論』より)。
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