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第40回 今までとは異なる事業タイプを創る

  • 経営改革の知恵ぶくろ

神奴 圭康

前回に事業のタイプについて説明をしましたが、今回は「今までとは異なる事業タイプを創る」の事例紹介です。
新たな事業ユニットを発想し事業領域を革新する事例です。今でとは異なる事業のKFSを実現することが急所となります。

市場開発型事業タイプの個人向け事業を創る

法人向け事業から個人向け事業に進出したケースで一般的によく知られている成功事例は、宅急便のヤマト運輸です。ヤマト運輸は法人顧客に運輸サービスを提供していましたが、宅急便の名称で個人顧客を対象に小荷物を配送する宅急便事業を創出しました。
個人向け事業は、全国に住む不特定多数の消費者を対象に標準・セミ顧客仕様の商品サービスを提供する市場開発型の事業タイプです。したがって、消費者(生活者)ニーズを先取りした先行商品サービス開発力が事業のKFSと考えられます。

ヤマト運輸はいろいろな商品サービス開発を行い、法人顧客の利用も含めて送対象品を拡げながら時間指定、夜間配送、年中無休など便利なサービスを次々に開発をしています。また、事業のKFSと考えられる受付・集荷・配送の全国物流インフラの形成、IT活用による事業競争力強化、セールスドライバー一人ひとりのサービス提供力を実現していることが知られています。

顧客密着型から顧客開発型のIT企業へ

また、私がご支援したM社の事例をお話ししたいと思います。
M社は親会社の情報システム部門から独立したIT(システム・インテグレータ)企業です。独立当初は、親会社とグループ企業の情報システムの開発と保守・運用が中心の会社でした。その後に親会社のグループ経営の方針が打ち出され、グループ企業以外の企業からもパッケージ導入を中心とした情報システムを受託する事業へと進出しました。

少数特定顧客の親会社やグループ企業を相手にした顧客密着型の事業タイプのウエイトを下げて、グループ企業以外の多数特定顧客を相手にした顧客開発型の事業タイプを創ることへの挑戦です。顧客密着型事業と顧客開発型事業のKFSの違いに着目して事業領域を革新することが重要となります。

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事業KFSが変化する

M社の顧客密着型事業は親会社とグループ企業が顧客であり、少数特定の顧客に密着した情報システムの受託営業力が事業のKFSと言えます。顧客を探し開発するマーケティング機能は弱くても情報システムの仕事は受注することができました。
一方、グループ企業以外の多数特定顧客を相手にした顧客開発型事業は、顧客を探し開発するマーケティング力が事業のKFSとなります。

業種・業態・顧客、さらに業務領域のターゲットを決めて自社の強みをアピールするターゲットマーケティングが必要です。幸い親会社およびグループ企業は、製造業が多く、モノづくりのノウハウをもっており、M社も製造業のモノづくりを支える情報システムには強みを持っていましたので、製造業をターゲットにマーケティング活動を展開し成功経験を積むことができました。

また、顧客密着型の商品サービスは顧客ニーズに沿った顧客仕様となります。M社の場合は親会社とグループ企業の業務要件に沿って情報システムの作り込みする「開発力」が事業のKFSでした。
しかし、M社の顧客開発型事業の商品サービスは、ERPやSFAなどパッケケージ導入による情報システムを主力に提供していくものです。ERPなどパッケージ導入の情報システムは、業種・業態や業務に対応した標準仕様が基本です。

情報システムのカスタマイズを押さえる業務改革力やパッケージを有効に導入する情報システムの開発力が事業のKFSとなります。
この点において、M社は情報システムを作り込む開発力を強みとしてきただけにカスタマイズを最小にしてパッケージを有効に導入する情報システム開発のスタイルに慣れるまでには時間がかかりました。

今回は今までとは異なる事業タイプに進出して成功した事例を紹介しましたが、失敗した会社が多いのも事実です。事業領域革新の成功と失敗の分岐点は、トップ以下が事業のKFSを共通認識すること、そしてKFSを実現するための課題に着実に取り組むことと考えます。

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