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コロナ禍のマーケティング 3つの成功例 未知・未体験のことは顧客に聞かない!

  • マーケティング・営業

渡邉 聡

渡邉 聡(シニア・コンサルタント)

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サービスのあり方や製品の開発に際して「顧客の声に耳を傾ける」ことが重要だと言わていれる。しかし実際は、顧客にとって未知のことや体験したことがないものについて問い掛けても「当たらない」ことがほとんどである。体験したことや利用したものへの不満や改良要望を顧客に聞く意味はあるが、「知りもしないこと」についての顧客の声は役に立たないのである。

コロナ禍についても同様で「どうすれば安心か」「どうすれば役に立つのか」などを顧客に聞いても、思いつきや役に立たない意見が多く、「これが顧客の声だ」と真に受けて失敗したケースも多いことだろう。

やはり立ち返るべきなのは「顧客の抱える問題」である。顧客の「声」や「要望」ではなく「何を解決すればよいのか」に焦点を当て、解決策は自社が考える。「なんだそんなことか、顧客の問題解決はマーケティングのイロハのイじゃないか」と思われるだろうか。しかし、この当たり前の「イ」ができるかどうか、そして顧客に受け入れられる具体的な解決策として打ち出せるかどうか。そこに真のマーケティング力が問われるのである。
今回は、言われてみれば「なんだ、そんなことか」だが、実はマーケティングの核心を突いた事例を紹介しよう。

事例1:スーパーが売った3日分の野菜セット

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コロナ感染対策の一環として、スーパーの入店人数・時間制限がかけられ、「買い物は3日に1回程度に」と自粛を求められた時期があった。その時期の顧客が抱える問題は、おおよそ以下のようなものだったのではないか。

  • 3日分あれこれ選んでいて店舗滞在時間が長くなると感染が怖い
  • みんな買い占めに走って、欲しいものが売り切れているのではないか
  • 3日分の食材の目安量がよくわからない

これらは顧客の声に近いものではある。しかし、「感染リスクを最小化する」だけでは攻めのコロナ対策になっていない。皆さんがスーパー経営者なら、どのように考えるだろうか。

このタイミングで、3日分の野菜をセットにして売り出したスーパーがあった。このスーパーでは顧客の声からもう一歩踏み込んで、顧客の問題を仮説として考え、その解決を試みたのではないだろうか。しかも、店側は3日分の売上を獲得できるため、感染症対策と売上確保の両方を実現した、攻めの対策と考えることができる。

事例1のポイント:顧客が抱える問題の仮説を立てる


事例2:買い物代行サービスのPickGo(ピックゴー)

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2つ目は、買い物代行サービスの「PickGo」の事例である。買い物をしたい商品と購入する店をアプリで指定し、配達可能なドライバーを選ぶ仕組みである。配送地域内であれば24時間、どんな店でも利用可能で、1回の注文で3店舗まで店を指定できる。
コロナ禍において、配達サービスやネットスーパーを利用した人も多いことだろう。コロナ禍では以下のような問題に直面したはずだ。

  • 欲しいものはあるが、買い物に行くのは怖い
  • 買い物代行はどこの誰が行うのかわからないため不安だ
  • いくつかの店で欲しいものがあるが、バラバラに配送を頼むのは面倒だ

この「PickGo」の例は、先ほどのスーパーの事例同様、顧客の抱える問題を考えたと推測される。加えて、自社が持つネットワークやドライバーといったリソースを活用し、競合との差別化と問題の解決を試みたと考えられる。

事例2のポイント:競合を利用している顧客の課題も考える

事例3:直接触れずに開けられるドアオープナー

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最後は、直接手で触れずにドアを開けることができる器具の例である。テレビでも紹介されているので、すでにご存知ではないだろうか。

なるべくモノに触らない、触ったら手洗い・消毒をする......私たちはコロナで新しい行動、習慣を求められた。これまでにない行動に顧客は戸惑うが、その戸惑いを見逃さなかった好事例である。
気の利いた顧客がいれば、「ドアを開けたり、エレベーターのボタンを押すときなど、直接、手で触れなくてよい器具が欲しい」と言うかもしれない。しかし、その出会いに期待しても成功する確率は上がらない。重要なのは「顧客の行動を観察する」ことである。合理的な動きがなければ、顧客は問題を抱えている可能性がある。触りたくなさそうにしている、肘で触っている、モノを使って開けている......。顧客の行動は、顧客自身が自覚していない問題を表現していることが多い。

事例3のポイント:顧客行動から問題を捉えて先手を打つ

今回は、顧客の抱える問題を捉え、コロナ禍の環境変化に対応した3つの事例を見てきた。これは先に触れたように、マーケティングのイロハのイである。しかし、そのアプローチまでもが、「顧客のニーズを把握して、それに応える」という王道である必要はない。未曽有のコロナ禍だけでなく、顧客からニーズを引き出すには限界がある。私たちが顧客から引き出したいのはニーズという"答え"ではない。"問題"というヒントなのだ。

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