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カスタマーハラスメントから従業員を守れる組織になるために

第2回 カスタマーハラスメント対応において整備すべき3つの要素

  • マーケティング・営業

江渡 康裕

カスタマーハラスメント対応は「組織戦」である

コラム第1回では、ガイドラインの具体性について解説した。つまり、「カスハラは断る」と決めただけでは現場ではこれがカスハラなのか分からないし、カスハラだと判断するには一人では荷が重いし、判断したとしても断り方が備わっていないと結局は「対応に1時間かかった」ということが防げない、ということである。

今回はガイドライン(もしくはマニュアル)の具体性も含めて、「組織戦」の戦い方を解説する。あえて「戦」としたのは、これまで私が知る限り30年超のなかで、カスハラ客の学習・成長の方は驚くべきレベルだからである。あたかも「被害者」を装い、企業に自分勝手な要求を押しつけてくる者。自らの価値観のみが正義であるかのように、偏狭な倫理観を掲げ、SNSも駆使しながら企業への攻撃を繰り返す者達。大げさに言えばそういったカスハラ客の攻勢に毅然と立ち向かい、自社の理念とともに従業員を守っていく組織づくりが必要だと考えているからである。

改めてカスタマーハラスメント対応により「目指す状態」な何か

3つの要素の解説の前に、改めて「目指す状態」を考えてみたい。都条例は「顧客と従業員の関係から産業および都市としてのあり方」まで視野に入れているが、ここでは個々の企業が目指す状態として以下の3つを提起したい。

  1. 良いお客さまには「さすが」と思われること
  2. 悪いお客さまには「手強いので手を出せない」と思われること
  3. 従業員には「安心して矢面に立てる」と思われること

これらは私が20年前に、ある欧州のブランド企業から「苦情対応の仕組み整備」を依頼された際に社長から求めれたことである。以来変わらず上記3つの状態を目指すことが多くの企業にとって共通のゴールであると考えている。

求められる3つの要素

上記の目指す状態を目指して、カスハラに「組織」で対応するために整備すべき3つの要素は以下の通りである。

① ルール

  • カスハラの定義、対応の方針、対応体制・責任分担、対応プロセスといった枠組み
  • 対応プロセスについては具体的なケースと対応内容(説明や断りの内容、表現、方法など)

これらを規程やガイドライン、マニュアルといった形で明文化し具体的に決めることが必要である。

② ツール

  • カスハラ対応方針を対外的に発信するための場と方法(ホームページ、SNS、店内掲示物、電話受付時の自動音声など)
  • 個々の顧客・カスハラ対応時に活用する録音・モニタリングシステム、録画機器などの記録ツール
  • 対応内容を記録し支援部門と共有したり、報告および事後的な組織学習に活用できるよう蓄積するツール

このように対応そのものおよび組織的な学習を支援するための環境や道具を整備する必要がある。

③ スキル

  • 顧客対応・カスハラ対応にあたる人材、支援する人材、マネジメントする人材および組織としての支援に責任を持つ経営層に求められるスキル体系
  • それらのスキルを計画的に習得するための場、仕組みの整備
     

最終的にカスハラ対応の矢面に立つのは第一線の従業員であり、彼らに必要なスキルアップを支援することは必要不可欠である。それにとどまらず、第一線を支援する様々な部署、マネジメント層、ひいては経営層に至るまでがそれぞれの役割を認識し的確に発揮できるようにすることが重要である。

三位一体の取り組み

何から始めるか

弊社にいただくご相談としてよくあるケースは「カスハラ対応の研修を考えている」というものである。しかし本来は「ルール」、つまり具体的にどのようにカスハラを定義、判断し、どのように「断る」かを決めることが先決である。一般論としてカスハラ研修を実施することは容易であるが、自社の具体的なケースで、どう判断し、どう断るのかを整理しないまま研修しても、実際のカスハラへの対応策を講師として指導することはできない。

とはいえ、前述の「ルール」全てを整備してからでは現場の従業員への支援が遅れてしまう。従って弊社では、まず「具体的なケースでどう判断し、どういう理由で、どのような方法と表現で断るか」を整理し、その上で現場向けの研修を行うことを提案している。

現場向けの研修を実施してみると、もっと支援が必要な具体的なケースが見いだせるし、現場が求めている上司や他部署からの支援のあり方も見えてくる。それらを踏まえて、ルール、ツールを整備していくといった進め方が効果的であるし効率的であると考える。

もっともまずいのは、経営層が「カスハラは断れば良い」というだけの認識で、研修を一通り実施して満足してしまうことである。

法律と「自社らしさ」

最後に触れたい点は、「カスハラは断る」と良いながらも「何をどういう理由で断るか」は「自社らしさ」が反映されるということである。例えば食品メーカーを例に挙げてみよう。A社は「おいしくなかった。返金せよ。」という要求に対しては一切お断りしているが、B社は(一度目は)返金対応している。「おいしくない」という個人の好みの表れについてA社は「我が社が自信を持って作った商品であり、好みに合わなかったのは残念だが品質に問題がないなら返金はしない」という考え方である。一方のB社も自信を持って製造し提供している点は同じだが「おいしく召し上がっていただきたいと考えているので、(一度目は)返金する」という考え方である。

何をカスハラすなわち著しい迷惑行為とするか、前提として何を理不尽な要求だととらえるかについては、企業により考え方は異なっていて当然である。このあたりもガイドラインには具体性が求められるとお伝えしている背景でもある。

ここで「法律」を持ち出したのは、カスハラ対応のガイドライン作成や対応のあり方について法律の観点だけから判断するのは避けよう、という意図である。法律は全企業に適用できる・適用されるが、その範囲のなかで何をカスハラとしどのように対応するかという点には各社の「らしさ」が反映される。「断る」という点に違いは無いが、そこに至る考え方や具体的な対応方法には是非、自社の価値観を反映いただきたい。


以上、2回にわたりカスタマーハラスメント対応のあり方について、コンサルティング実践を通じて考え、お勧めしたい内容を紹介した。カスタマーハラスメント対応に取り組まれる際の参考になれば幸いである。

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