明快な「自社らしさ」こそ事業競争力の源泉
- JMAC EYES
蛭田 潤
自社らしい価値を提供できているのか
企業はお客様に貢献することで支持され事業が成長します。競争環境下で自社が選ばれるためには、他社にない自社らしい価値が提供できているかどうかが重要です。では「自社らしい価値とは?」と問われて即答できるでしょうか。
どんな企業にも経営理念やビジョンがあります。B to B事業であればお客様事業への貢献であり、B to C事業であればお客様が望む人生・生活の実現への貢献を最終的な目的とするように、それぞれの事業領域でどのように貢献するのかを表明しているはずです。さらにB to B事業であれば、お客様の課題解決やお客様起点の価値創造・共創を実現し、お客様事業に貢献するといった表現がされています。しかし、こうした経営理念やビジョンはお客様に価値として伝わるように具現化できているでしょうか。理念・ビジョンを念頭に「できるだけがんばれ」という考え方で現場に委ねられて、具現化されていない場合が多いのではないでしょうか。
たとえば、お客様起点の価値創造・共創となれば、まずどんな価値をどのような場面でどのように発揮することなのかが具体化されている、さらに創造された価値やそのプロセスが「自社らしい」と言える、そしてお客様にも明確に伝わっている――このことができて初めてお客様から見たときに「貴社らしい」と認知されるはずです。しかし、理念・ビジョンがあっても具現化していないケースも多く見受けられます。これでは自社らしい価値提供によってお客様から支持されている企業とは言えません。
「らしさ」につながる価値とは何か
JMACでは以下の3つの観点(※トレーシーとウィアセーマの主張である3つの価値基準を活用)から、何を自社の強みとするべきかの検討から始めることをお勧めしています。
1つ目の観点は製品・サービスなどプロダクトそのものでの価値提供です。この価値はプロダクトの特徴・機能・性能ではなく「お客様にとってのベネフィット」を価値として明確化する必要があります。
たとえば営業提案の場面において、プロダクトの機能や性能の「すごさ」をたくさんアピールされてもそれがお客様にとってどのようなベネフィットがあるのかが伝わらなければ意味がないのです。利活用することによるお客様にとっての価値は何かを明らかにしなければなりません。
2つ目の観点はオペレーショナルエクセレンス実現によるプロセス優位です。プロダクトに関連するお客様との接点の各プロセスにおいて、エクセレンスな価値を提供することによって自社らしさを発揮するという観点です。とくにコモディティ化が進んでいるプロダクトの場合には、ものづくりのサービス化という観点からも重点的に検討すべきです。
3つ目の観点はカスタマーインティマシー、すなわち顧客密着です。これは大口顧客や意思決定を握る顧客への価値提供により囲い込みを図るという観点です。とくにプロダクトによる差別化が難しい業界・事業であれば、オペレーショナルエクセレンスと合わせて考える意義がある観点だと言えます。
こうした3つの価値提供領域について、どのような価値を提供すべきなのかを検討して明らかにしていくわけですが、JMACではお客様への貢献の観点から見た価値リファレンスを活用しています。
下図はB to B事業の提供価値リファレンスです。こうした検討は、お客様に対してどのような価値を提供し、何で競争優位に立つのかという観点からなされるもので、まさに戦略の鮮明化・具現化にほかなりません。最終的に、提供価値リファレンスは自社が重視する観点も踏まえ、自社ならではのリファレンスの発見・活用・ブラッシュアップができることが理想です。
部門別の改善の積み上げからトータルの提供価値デザインへの転換を図る
これまでのお客様への提供価値向上活動は、改善テーマを設定し、部門別の分担を決めて改善するというやり方をとっている企業が多いのではないでしょうか。しかし、これでは各部門ができる範囲の取組み規模や成果が矮小化したり部門間の連携が不調になったりして、期待した成果が出ないことも多いです。この状況を回避し、提供価値の真の具現化を図るためには、事業プロセストータルでの提供価値をデザインする考え方が不可欠です。以下のポイントを押さえる必要があります。
(1)お客様プロセスを起点に考える
お客様への価値提供なので、自社プロセスや業務ではなく、あくまでお客様プロセスを起点とします。お客様の事業や業務への理解が浅いとプロセスが描けません。
(2)お客様プロセスからお客様期待を洞察する
お客様プロセス別にどのような期待があるのかを考えます。その際、自社との接点で見えている範囲以外の部分が多いことを前提に、B to Bであれば背景にある事業・業務やその課題、B to Cであれば背景にある生活や課題まで見据えて期待を把握する顧客洞察が重要です。
お客様期待を洞察するためには、あいまいなお客様像のままでは本質的な期待が見えません。お客様は誰なのか、お客様はどうセグメントすべきなのかを考え、期待を明らかにする必要があります。
(3)お客様期待に対する提供価値をデザインする
お客様期待に対して、価値提供領域と価値リファレンスから検討された提供すべき価値をどのように実現するのかをデザインします。提供すべき価値は何か、提供レベルをどの程度にするのかを明らかにします。
①提供価値の評価
デザインした価値は、お客様期待に合致し、かつ自社らしい価値(勝負価値)がデザインされているのかを評価します。1.お客様からは当たり前で提供しないと不満につながる基盤価値だけになっていないか、2.お客様の期待にそった価値=期待価値はデザインされているか、3.自社ならではの他社が真似できない価値=突出価値がデザインできているのか――という3つの価値から検討・評価を行います。
②提供レベルのデザイン
それぞれの価値について、どの程度のレベルを目指すべきなのかを明らかにします。たとえば、時間貢献であれば問合わせのレスポンスのリードタイム短縮であり、利活用場面における問題解決支援であれば一般的な使い方を教えるレベルなのか、お客様が抱えている問題解決のためにどのような使い方をすべきなのかを提案するレベルなのかなど、提供したい価値に合わせて提供レベルをデザインします。これによりすべての価値を「できるだけがんばる」ではなく、明確な意図を持って価値提供できるようになります。したがって、すべての価値を高めるのではなく、場合によっては価値を減じることによって、メリハリの効いた自社らしい価値提供のあり方をデザインすべきです。
また、お客様セグメントの観点から、すべてのお客様への提供価値、重点(勝負)顧客のみへの提供価値のようにお客様別の価値提供のあり方もデザインします。
徹底実践により「らしさ」をお客様に届け切る
デザインされた価値提供は徹底実践し、お客様に伝え、届けなくては絵に描いた餅になってしまいます。以下の観点から実現課題を設定し、解決していくことがポイントです。
(1)組織デザイン
お客様起点で提供価値を考えると現状の組織の枠組みでは対応できないことも発生します。その場合、現状にとらわれずに組織編成や役割・機能分担などの再設計をするべきです。また、自社内だけではなく、関連企業・代理店など社外との連携で事業を行っている場合には、社外についても必要に応じて役割・機能の変革を行います。
(2)業務プロセス
価値実現のために業務プロセスそのものの改革や阻害要因となっているルール・基準などの改革を行います。また、情報システムについても、お客様への直接の価値提供および業務や人的対応の価値向上支援の観点からの改革を行います。
(3)接点ツール
Web・SNS・紙などの接点ツールをどのように活用すべきかを検討します。ただ単に準備するだけではなく、どのようにお客様にアプローチすべきなのかの検討が重要です。
(4)要員配置・人材能力
プロセス別の提供価値や必要な業務を踏まえ、要員配置を見直します。また、提供価値の観点から人材に求められる重点能力の明確化と育成の仕組みや体制の改革を行います。
昨今、人工知能の活用範囲が広がり、従来型の問合わせ回答や過去の蓄積を踏まえた最適な提案内容の選択などができるようになると言われていますが、そうしたITの進展があったとしても「人間ならではの付加価値」とは何かを追求することが重要です。それが自社らしさの源泉になるからです。また、人材育成においてはCS(お客様満足)向上のために、お客様に価値を提供することにES(従業員満足)を感じる人材へと育てていくことが重要と考えます。
このように徹底実践のための課題解決は部分的・漸進的ではなく、全体的・抜本的に進めることが重要です。また提供価値をデザインし、実現プロセス全体をマネジメントする経営機能の新設や強化についても検討する必要があります。
これまでのコンサルティング経験の中で、「この企業は"経営理念・ビジョン"はすばらしいのに、自社らしさと言えるレベルまで突き詰めておらず、お客様にも伝え、届けることができていない。なんともったいないことか」と感じることがしばしばあります。また、さまざまなメーカーにおいて、「製造業の枠を超えたサービス事業への転換」をご支援する機会をいただき、その難しさとともにダイナミックな変革のお役に立てる喜びも感じてきました。また、高い顧客満足度を誇る有名なサービス企業も、その内情においてはいかにコストをかけずに自社への期待に応えるべきか苦慮している現場に立ち会うこともありました。
今回ご紹介した考え方は、こういったコンサルティング実務を通じて実践してきた私どもの技術の一部ではありますが、自社らしさをデザインし、徹底実践することのヒントになれば幸いです。貴社が「お客様にとってなくてはならない企業」へと変革できることを願っております。
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