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IoT時代の勝者となるために製造業はどう戦うべきか? ―ハードの強み+IoT・ICT活用+グランドデザインの構築が必須―

  • JMAC EYES

石田 秀夫

次世代ものづくりの覇者を目指し世界中が動き出した

jmaceyes_ishida_01p.jpg 「IoT(Internet of Things、モノのインターネット)」の普及・発展に伴って、産業界はイノベーションと変化の新たな局面を迎えようとしています。こうした動きは2011年ごろからドイツ政府が推進している技術革新政策「インダストリー4.0」に端を発していて、すでにドイツでは主要企業を含む産官学の多くの企業や団体が参加し、新たなものづくりの形を模索しています。

 ヨーロッパではドイツをはじめとした先進工業国が、今後も長期的にさらに高い競争力を維持していくことが経済成長にとって重要だと考えています。そのためドイツ政府は早くから「IoT」の分野に積極的でした。初期の取組みは「高度技術戦略」と呼ばれ、さまざまな研究で技術イノベーションを生み出し、競争力を高めることを目指していました。それら多くの研究を統合して発足したのがIoTを基盤にした「インダストリー4.0プロジェクト」で、2013年には2億ユーロ(約280億円)もの大きな予算が割り当てられました。そしてEUでは研究開発枠組みプログラムである「Horizon 2020」の「Factories of the Future」という枠組みで助成金を受け、活動をスタートさせました。

 米国ではこうした動きは「Smart Manufacturing」と呼ばれ、インダストリー4.0と同様の考え方で次世代の生産技術を実現しようという動きが広がっています。たとえば、オバマ政権が「製造業を国内に戻す」と宣言し、次世代の製造業の研究予算を19%(22億米ドル)増加させ、さまざまな政府プロジェクトを進行させています。また、「インダストリアル・インターネット」というコンソーシアムをインテル社、AT&T社、シスコシステムズ社、GE社、IBM社など米国ビッグ5がつくり、活動を推進しています。さらに、Rockwell Automation 社、Cisco Systems 社、Panduit 社が世界の主要FA企業で構成される非営利団体ODVA(Open Device Net Vendor Association)と協力して創設した業界団体「Industrial IP Advantage」は、産業分野の顧客が、人・プロセス・データ・モノをネットワークに接続し、生産性の向上と競争力を高めることができるように、標準的なイーサネットとインターネットのプロトコルを採用した高セキュリティな通信の確立を目指しています。

 その他、中国では「中国製造2025」が始動していて、IoTの発展に投じた資金は2011年以降で累計15億RMB(287億円)にも上るとも言われている。

 このように自国の産業、とくに製造業を復権させようとする国々は、インターネットやIoTを活用して、ものづくりのイノベーションおよびビジネスモデルのイノベーションを意図して起こそうとしています。ビジネスモデルに関連したところでは、すでに部分的に破壊的イノベーションも起こっています。当然、消滅していく産業や事業も出てきました。

 こうした世界的な環境変化に対して、日本製造業も立ち向かっていかなければなりません。

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米独で何が起きているのか? 後手に回る日本

 2015年にドイツのインダストリー4.0推進企業を、今年の8月にはIIC(インダストリアル・インターネット・コンソーシアム)などの米国企業をシリコンバレー中心に訪問してきました。

 まずドイツです。政府主導でIoT活用のものづくりを精力的に推進しています。中心的な研究機関である「フランホーファー研究所」は産官学で推進されていて、(すべてがインダストリー4.0の仕事をしているわけではないですが)職員約23,000人が勤務しているとのことです。ちなみに日本で同研究所に近い機関はおそらく「産総研」でしょうが、規模は3,000人程度ですから、随分と大きな差があります。

 仕組みとしてはこうです。まず中央のフランホーファー研究所がインダストリー4.0に関する研究を集中して行います。研究の効率化とスピードアップがねらいです。そして、そこで開発された技術やシステムなどを各企業へ実装していくということです。

 一方、日本はどうでしょうか。各企業が個別に似たようなことを研究開発していて、企業間をまたぐと業務が並行しているといった状況にあります。国全体としては、決して効率的ではないと言えます。

 また、ドイツはインダストリー4.0やIoTに関する規格や標準類の取得にも積極的です。すでにIECなどの国際機関に提出している規格・標準類も多数あるとのことでした。いつもながらですが、ルールを押さえて商売を有利に進めていく戦略を取っているのです。

 次に米国です。個人的にはIoTやデジタル化でものづくりを変えようという活動は、ドイツよりもスピーディーでダイナミックな印象があります。シリコンバレーのベンチャー企業は、IoTなどに関する技術やシステムの開発をかなりのスピード感で進めていて、そのベンチャー企業に出資する投資家やファンドも意思決定が速いのです。投資家にプレゼンテーションしたら、72時間後には3億円が振り込まれたとのエピソードも耳にしたくらいです。

 その一方で破壊的イノベーションが起きていることも現地で実感できました。サンフランシスコなどの街中でタクシーが見つからないのです。クルマのシェアリングエコノミーである「Uber」の利用に取って変わったようで、従来産業のタクシーはほぼ姿を消したのです。これはものづくりではなくサービスの領域の例ですが、このような破壊的イノベーションは、ものづくりの世界でも必ず起こると感じましたね。

 シリコンバレーでは、このような新しいビジネスモデル創出のための手法「デザイン・シンキング」が大流行している感じでした。GEに行ってもシスコに行っても、SAPに行っても当然スタンフォード大学のd.Schoolに行ってもです。IoT・ICT・デジタルを活用する前に、まずどのようなビジネスモデルを構築するか? を重要視しているのです。

 このような発想から破壊的イノベーションを生み出すためのツール類も興味深いものでした。壁には模造紙にポストイット、すぐに物理的に試作するための粘土や折り紙、針金、そして3Dプリンター、紙芝居用紙などがあって、まるで工作室のようなところで考えてはモノにしてみて、また改善するというサイクルを高速で回しながらビジネスモデルやプロダクトを創造していくというわけです。このプロセスは意外にアナログですが、新しい商品や事業・ビジネスモデルをフィジカルに目で見ることができるのでわかりやすいのです。GEでは、速く回転させるためのこの活動を「ファスト・ワークス」と呼んでいました。

 また、彼らとの会話の中でよく聞いたフレーズが印象的でした。「継続的改善の延長線上では、破壊的イノベーションは起こらない」というフレーズです。日本のものづくり企業とはずいぶんと一緒に仕事をさせていただいていますが、このようなフレーズはあまり耳にしません。米国企業のこうした考え方からは、彼らは何か大きな意思を持ってイノベーションを起こそうとしているなと感じとれますね。

 米独を訪問したうえでの私の所見とはいえ、ICT・IoTはかつてないほど活用しやすくなっている事実は否定できないはずです。そう遠くない将来に破壊的なイノベーションが起こり、日本の製造業・産業に大きな影響を与える事態が生じると考えるのが自然です。

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日本よ、グランドデザインを描け!カギは迅速なトップの決断

jmaceyes_ishida_02p.jpg もちろん、日本も米独の後塵を拝するわけにはいきません。日本の製造業は何をどうすべきか? 私なりに提示してみたいと思います。

 IoT・ICT活用の動きは次第に加速して、産業社会においてこれらの存在は必ず大きくなっていきます。このことにより広範囲にわたって産業の転換が起きるとなれば、重要なのは「転換点」で企業がどう振る舞うか、なのです。すなわち、「転換点」では企業経営に何が必要になってくるかということです。それは以下の3点にまとめることができます。

①トップの洞察と意思決定により、大きく舵を切ること
②スピード感を持って、転換していくこと
③新たな事業やモデルが生じやすい環境をつくっていくこと

トップ自らが舵を切れ!

 まず、最初の「大きく舵を切れ」です。今後の方向性としてIoT・ICT活用の流れはあっても、その中で具体的にどのような事業があるのかを確定するのは難しいのです。市場調査をして市場規模を見ながら何らかの事業を行い、収益を計算して...といった理路整然としたビジネスプランは描きにくいのです。このような場合、見えにくいビジネスプランの細かい数字などを議論することや前例を探索することよりも、トップ自らの洞察と意思決定で舵を切ることが大切なのです。

 たとえば、GEはイメルト会長主導で「GEデジタル」という会社を創設し、今後のデジタル化に投資しています。先々の収益のため年間500億円以上の開発投資を行っていますが、これらの意思決定もトップ自ら行うからこと実現できるのです。

スピード感を持て!

 次に「スピード感」です。スピード感は事業の転換期や黎明期の定石です。スピード勝負ですから、早く確立したもの、速く展開したものが勝つフィールドなのです。日系の会社は意思決定が遅く、変化のスピードに乗り遅れる----欧米の会社からは皮肉としてこう言われることが多いようですが、事実そうだと思います。稟議案件の否定的な突き返し、意思決定までの複雑なプロセス、持ち帰って再検討など、あげればキリがありません。

 転換期を迎えた今、意思決定の構造・仕組みを見直す必要もありますが、それを待たずにトップ自らがリーダーシップを発揮して目利きとして意思決定する以外、スピードを上げることはできないのです。「72時間後に3億円」というエピソードを紹介しましたが、日系企業では常務会、○○会、△△会......と続き、72日後でもアヤシイわけで、絶好の投資機会を逃すことが安易に推測できます。

挑戦しやすい環境をつくれ!

 そして「環境づくり」です。今の日本企業では、さまざまな理由で新しいことに挑戦しにくい、挑戦できなくなっていると感じます。成熟している中でリスクを取りにくく硬直化していることもありますが、その要因はマネジメント層がつくっているという側面もあるのです。

 たとえば、目標管理制度などは「挑戦できない」要因のひとつになっています。ねらいとしては挑戦的目標を歓迎し、高い成果を獲得してほしいという意味合いで導入されているはずです。しかし、運用の仕方や管理者・評価者のレベルが適切とはいえず、挑戦的目標ではなく「無難な」目標を達成したことを評価する運用が散見され、悪しき挑戦しない文化を知らない間に形成しているようです。また、失敗があると今後の会社人生の中で不遇となってしまう「ワンチャンス+減点主義」文化もその一因になっています。

 さらにトップ層にも悪しき文化がはびこっていないでしょうか。新事業の提案シーンで「前例あるのか?」などとガックリする質疑を無意識にしてしまう、意思決定を合議にはかり「意思決定の民主化」に陥ってしまうなどで、本当に良い事業や商品が残念ながら死んでしまったケースが多々あると思います。もしそうだとしたら、トップが新たな潮流をつくることができない・目利きではないということを象徴していると言えます。

 ちなみに、これまで大ヒットした事業や商品を振り返ると、多数決では反対となったが目利きのトップが実行させたケースが多いのです。ソニーのウォークマン、任天堂Wiiなどの多くの例があります。

 今のままでは成熟し衰退していく局面が想定された場合、トップとしてはそれなりの可能性がある事業であれば「まず、やらせてみる」ということが大切ではないでしょうか。進めながら軌道修正していくシリコンバレー流に見習うべきところが多いと思います(当然、社内スポンサーも持ちながらですが......)。ついでにシリコンバレー流から学ぶべきことは、「失敗を受け入れ、再チャレンジを受け入れる」許容性です。新事業やIPOに失敗しても、次に事業提案した際は以前の失敗から何を学んだのか? が重視されるそうです。失敗があったからこそ学び、次のイノベーションを興せるという論理です。イノベーションを興すのはあくまで「人」だということを改めて認識させられます。

 ここで述べたことにすぐに取り組めば、まだ間に合います。そして日本の製造業のハードの強さ(製品技術・設計技術・生産技術・現場の力)を活かしてコアをつくり高めていく中でIoT・ICTなどの新しい要素を組み込み、次世代に勝てる総合的な戦略(=グランドデザイン)を構築していけばよいのです。それは自ら未来を創造することでもあり、次世代の成長に欠かせないことであると確信しています。

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 破壊的イノベーションが起きて手遅れにならないように、ぜひ今すぐ決断していただきたいですね。IoTに強いJMACならではの支援メニューを用意していますので、お声がけいただければ幸いです。

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