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Afterコロナのものづくり。日本の強みを活かし次のステージへ

  • JMAC EYES

石田 秀夫

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新型コロナウィルスによる生産への影響とリーマンショックからの学習

新型コロナウィルスの感染拡大により、サプライチェーンが分断され、材料や部品調達が滞り生産がストップ、経済活動も停滞している。このことから商品の出荷もストップしている状況が続き、現在でも低調である。生産のサプライチェーンが世界で同時に停止ということは初めての経験である。また、経済活動の停滞は世界的な同時不況が発生しており、商品の需要も業界にもよるが依然として低いレベルである。

今回の経済への影響は、連日報道されているようにリーマンショックよりも大きくなると推算されている。影響は甚大であり、企業のBCP(事業継続計画)の実効力とレジリエンス(復元力)を試されているようにみえる。
企業の収益力の強さは損益分岐点で見えてくる。リーマンショックの学習から継続的な改革・改善で利益を生む体質が強化されたかが問われ、今回のような危機の際にその体質が露呈する。継続的な改革・改善が経営から現場まで進められている会社は危機にも強く、レジリエンスもあると考える。

一方、サプライチェーンが停止・停滞したことについては、リスク分散やものづくりのレベルを再度引き上げる意味でも、国内外で生産分担の見直しの加速が必要と考える。たとえば、生産・調達の一国(中国など)への集中は避け、アセアンの国々などへの移管や並列化が進め、中でも付加価値や難易度が高いものや模倣困難性を高めるために必要なものは国内回帰を進めるなどである。これは地産地消を否定しているのではなく、コンポーネントやデバイス・部品などを主な対象とした場合には必要な策である。また、国内回帰とは単に生産を戻すだけではない。ものづくり全体(開発設計~生産技術~生産)の力をさらに向上するための戦略を構築し推進することで、国内回帰の本質的な意味合いを達成できるのである。これにより、コロナ前に課題であった海外で稼いだ資金を、日本国内の開発投資(製品・生産技術)に回せないという事象も解決に向かうだろう。

国内回帰が話題となると、海外とのコスト競争に目がいくことが多い。しかし、労務が高騰してきた国と比較すると、日本ではその国に対して2~3倍の労働生産性がクリアできれば、日本での生産に分があること推算できる。これは、新たな生産の方法や自動化などものづくりの力を強化すれば達成できるレベルである。

言わずもがな、製造の労務コストは「労務単価」×「時間」である。海外生産で「労務単価」は比較的早く低減できる。ただし、単価を落とせても改革・改善が停滞した企業では「時間」の低減に対して革新的な手を打っていないことが散見される。単価の低減で満足してしまうのである。そういう状態になると単価の安い国に焼き畑農業のように移ることになり、知恵を使って革新したとは言い難い。そうした企業では技術・生産の体質が変わらず、ものづくりの力が本質的に向上してこないのである。

われわれは、多くの製造業に関係する仕事をしており、さまざまな企業を見てきた。リーマンショックの苦しい時期に前述の「ものづくりの体質」を強化してきた企業は、現在の新型コロナの環境下でも強さを保っている。

新型コロナという混乱期だから行う国内「ものづくり」の見直し

生産分担を見直すとなると、どの製品を国内回帰させるのかという問いが出てくる。この着眼点としては、「物流効率」×「付加価値」や模倣困難性の担保が必要な製品が適していると考える。

高付加価値品を国内で生産する場合、競争力を高めるには、商品性が高い高難易度品をつくることが可能で、それらを圧倒的なQCDでつくることが重要になる。これらは自動化や現場の力と知恵、そしてマネジメントで達成すべきである。
マネジメントという視座では、
①短期~長期の中で複数のフェーズに分ける
②勝てるものづくりの戦略とチャレンジを工場の事業目標に掲げる
③戦略的投資に加え組織・人の力を出し切る場をつくり成果を得る
ことが大切である。また、これらの目標達成にはスピードが大切な要素である。とくに混乱期からの立ち直りで競争優位となるためにはスピードは不可欠な要素であろう。

また、現場においても国内回帰や生産分担の見直しが進んだ後、中国・アジア地域との比較でQCDの圧倒的なレベルアップが必要になる。日本の工場であれば、中国・アジア地域と比べ労働生産性が2〜5倍というレベルは十分到達できると考える。必要な取り組みは、大きくは以下のとおりとなる。

  • 製品設計の自動化容易性などの見直と自動化の推進
  • スマート化・デジタル化の推進による改善の質とスピードの向上
  • 設計・生産技術・製造などの部門横断の英知を結集した改革・改善活動

強いものづくり企業の要件と価値の連鎖

これらの改革・改善は部門をまたがるのでトップ・幹部主導で行うことが望ましい。このような場合、設計・生産技術の連携が難しい、生産現場のデジタル活用が難しい、などの声が上がってくることが多い。とはいえ、何かを変えることは当然パワーもいるし摩擦も発生する。その要因一つひとつを解決してく必要がある。すぐには大きな目標は達成しないが、ステップバイステップの目標と計画を立て、着実に行っていくことが重要だ。たとえば、デジタル化・スマート化。人の育成とツール導入を行った著者の顧客には、品質・生産性などのデータの解析に最近のツールを用い、現場の製造部員が分析・対策を行っている会社もある。ステップバイステップであったが、このレベルが日本だとできるのである。

このようなレベルアップも、知識を習得し知恵を出し、実行するのは「人」である。ツールを使いながらも、考え抜く力・改善する力がデジタル化でさらに大切になると改めて思うところである。ダントツの工場になるためには、人そして人財育成はたいへん重要な要素と痛感する。

これまで述べた国内回帰とものづくりのレベルアップを考えると、著者の経験から「円錐の理論」というものが見えてくる。円錐の頂点を国内工場のレベルとした場合、その高さが高いほど、円錐の底面となる海外の工場のレベルも高くなるのである。このような「ものづくりのリーディング」を担うのが国内工場であり、かつそのレベルでグローバルの水準も変わってくると考える。今回の新型コロナの環境下は、今一度国内回帰や将来が明るい「ものづくりの戦略」と「ロードマップ」を見直す良いチャンスではないだろうか。

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