生産効率を下げずに顧客要求に応える、マスカスタマイゼーションの考え方
- 生産・ものづくり・品質
柏木 茂吉
製造業において、マスカスタマイゼーションという言葉が着目されている。
マスカスタマイゼーションとは、衣料品や自動車・オートバイなど自主企画製品を製造する企業において、生産効率を下げずに顧客要求に対してより細かく応えていこうとする考え方として知られているが、個別受注生産型の企業においても、顧客要求への対応は強化しつつ、従来の非効率なプロセスから脱して低コスト・短リードタイムを目指す取り組みとして捉えることが可能である。
本コラムでは先進的な企業が行っている取り組みを紹介していく。
顧客・市場要求に応えることの重要性
顧客や市場の要求に応えることができない企業は市場から淘汰(とうた)される。しかしこれまでは同じ顧客要求であっても、「仕様を顧客要求に合わせること」と、「製品を安く速く提供すること」は、両立できない課題として捉えられてきたように思う。
つまり企業にとっては、顧客要求仕様を実現するために個別受注生産形態をとりコストと納期を犠牲にするか、逆に低コスト・短リードタイムでの製品提供を実現するために同一仕様の大量生産方式を採用するか、という選択肢であったわけである。
マスカスタマイゼーションという考え方
そのような中で、顧客要求に沿った製品を、大量生産並みの生産性で生産・提供する取り組みである「マスカスタマイゼーション」が注目されてきた。
マスカスタマイゼーションという言葉はマス・プロダクション(大量生産)とカスタマイゼーション(個別対応化)を合わせた造語で、古くから提唱されてきた概念である。しかし、脚光を浴びるようになったのは近年の話で、それはデジタル技術やあらたな加工技術により、個別仕様の製品を大量生産並みの効率で作れるようになったためである。
このようにマスカスタマイゼーションは、大量生産で特徴的な低コスト・短納期・高生産性の追求と、個別受注生産で特徴的な製品の顧客最適化による高付加価値化の追求を同時実現することの矛盾を解く考え方であり、いわば両者のいいとこ取りをする考え方と言えるだろう。
マスカスタマイゼーションとは大量生産型の企業にとっても、個別受注型の企業にとっても常に向き合うべき重要課題である。
そして特に顧客要求に応える必要が高い自動車・自動車部品や、顧客の身体的特徴に合わせる必要があるスポーツ用品や衣料品、または顧客要求を織り込んだ製品提供をすることが当然と市場で認知されているような趣味嗜好(しこう)品や装飾品などの高価格製品では、必須の課題といえるだろう。
マスカスタマイゼーション実現の考え方
マスカスタマイゼーションを実現するための、3つのアプローチを紹介する。
① デジタルプロセスやものづくり技術の活用
近年のマスカスタマイゼーションとして紹介される事例を見ると、その多くがIoTやデジタル技術を活用した事例となっている。ここでは顧客仕様をデータ化し業務のインプットとすることで、見積もりから設計・生産・物流までが高度に一貫化され、短リードタイムでの製品提供を実現している。
さらに一歩進めて、顧客がWEB上にダイレクトに希望仕様を入力できる取り組みも広がっている。企業からみれば、顧客ヒアリングのプロセスを省いて仕様データを得ることができ、顧客側からみれば、自分が仕様を決定しているプロセスそのものをUXとして楽しみながら体験することができる。
そしてものづくりの面では、レーザー加工や3Dプリンターなどの自由度が高い自動加工工程、ロボットとAI画像認識の連動による自由度の高い組立工程、工場内で独立した工作機械や自動搬送機同士のデータ伝送・協調技術など、スマートファクトリーがグローバルで実現されてきており、これらのデジタルテクノロジーがマスカスタマイゼーションを支えている。
② 製品構造そのものを変えて、顧客対応と生産効率を両立しようとするモジュラーデザイン
製品が分割できる構造であれば、製品のブロックをモジュール化することで、顧客要望に応じて適切なモジュールを選択して組み付けることで顧客要求へのすばやい対応が可能となる。
また製品構造を、顧客要求によらず共通化が可能な固定部と、顧客要望を積極的に取り入れた変動部に分ける「固定/変動化」も取り入れることができれば、さらに量産効果を享受することができる。この「固定/変動化」の考えは分割構造を取りやすい組み立て製品でなくても応用が可能である。例えばシート状の製品であれば、流し方から見て幅方向は固定にして長さ方向は顧客に合わせて変動化させることで、生産設備は1台で多様な仕様を生み出すことができる。
モジュラーデザインは製品と生産構造を再構築する試みである。製品構造のモジュール化とそれに対応した形で製造工程も構築することで、スピードと低コスト、顧客要求対応という競争優位を築くことができる。
③ 個別仕様ごとに大量生産が可能なビジネスモデルを構築する
ここでいうビジネスモデルは、複数の製造拠点をつなぎ、ある特殊加工はA工場、汎用(はんよう)加工はB工場というようにそれぞれの生産拠点をネットワーク化するアプローチである。
これまでも同一工場内でラインを分けて生産することは行われてきたわけだが、ここでは各生産拠点が一定以上の物量でものづくりができる大量受注生産を採用することで、個別仕様対応と量産対応をネットワーク全体で実現している。このアプローチではプラットフォーマー企業が大量の受注を集約し、生産企業をネットワーク化するビジネスモデルを実現する必要がある。
以上3つのマスカスタマイゼーションの実現アプローチを述べてきたが、このような大きな革新を伴うアプローチが難しくても、身近な業務プロセスやモノづくりのやり方を点検・改善することでマスカスタマイゼーションに近づくことは十分可能である。
次回は個別受注型企業からみた、業務プロセスやモノづくりの上で点検すべきポイントについて述べていく。
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