第1回 市場セグメンテーション(1)
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
笠井 和弥
マーケティングと言えば、フィリップ・コトラーが提唱したと言われる「マーケティング戦略の4P」という言葉がまず頭に浮かぶ方も多いのではないでしょうか。この4Pとは、Product(製品)、Price(価格)、Place(販売チャネルなど)、Promotion(販売促進など)のそれぞれの頭文字を取ったもので、これらについての意思決定を行わないマーケティング戦略は存在しないと言ってよいでしょう。しかし、この「マーケティング戦略の4P」という言葉があまりにも有名になってしまったためか、4つのPについて考えることがマーケティング戦略を考えることだと誤解されている方々もおられるようです。
本連載でも、当然、「マーケティング戦略の4P」には、十分な紙数を割いて解説しますが、4Pの個々の要素について考える前に、マーケティング戦略全体の方向性を明確にしておかなければなりません。4Pの検討を個別戦略の検討とすれば、マーケティング戦略全体の方向性を考えることは基本戦略の策定と言うことができます。
「製品市場区分」の設定
さて、基本戦略策定の最初になすべきことは、マーケティングの検討対象を決めることです。どの製品のマーケティングを考えようとするのかが決まっていなければ、基本戦略にしろ個別戦略にしろ、検討のしようがないことは自明の理です。また、製品の販売先である市場も合わせて特定することが必要です。
つまり、同じ製品であっても、コンシューマー市場と業務用市場といったように、性格の異なる市場があれば別個の検討対象とします。成功のポイントや市場地位あるいはライバルの顔ぶれ等が異なるものを一緒にして戦略を考えることはできないからです。
このように、製品と市場を組み合わせてマーケティングの検討対象を決めることを「製品市場区分」の決定と呼びます。この「製品市場区分」は「戦略的事業区分」(SBU・・・Strategic Business Unit)とも呼ばれます。
上図(1)を見てください。タテ軸にA、B、Cと製品を置き、ヨコ軸にX、Y、Zとそれらの製品の売り先である市場を配置しています。
この図では、A製品のX、Y、Z3市場を分けてそれぞれ別個の事業と考えるよりも一緒にして1事業として扱った方がよいと判断し、AX、AY、AZを合わせてK事業と名づけています。
一方、上図(2)は、A製品のYとZの市場は1つにくくってもよいが、X市場向けのA製品は別の事業と考えた方がよい、そしてX市場については、A、B、Cの製品の違いにかかわらず同一事業とするべきだと考えたものです。そのため、ここでは、AY、AZを合わせてK事業、AX、BX、CSを合わせてL事業としています。
このように、同じ会社でも考え方によって「製品市場区分」の定義は変わってきます。
では、「製品市場区分」はどのようにくくるのがよいのでしょうか。それは、どのような事業区分を選択すれば自社の力を最大限に発揮できるのかという判断によって決定します。
一般的には、各セル(AX、AYといった最小の単位)の、「統合することによる相乗効果」と「一緒にすることによって生ずる埋没の危険性」などを秤にかけることによって判断します。平たく言えば、一緒にすることによって得られる相乗効果が小さかったり、どちらかが霞んだりしてしまうような場合には別区分とします。
たとえば、スポーツクラブを運営すると同時にスポーツ用品の販売も手がけているA社では、スポーツという点での相乗効果を重視して、両事業を一緒にし、「スポーツ事業」という位置づけをしています。
しかし、クラブ運営事業と物品販売事業のようなビジネスの原理が異なるものを一緒にすると、優勢な方に引っ張られて片方が中途半端になると判断すれば、両者を別の事業として分けることになります。事実、A社では、スポーツ用品販売は売上高の大きいスポーツクラブ運営に埋没してしまったようです。
なお、かなり事業特性が異なるものでも、ウエイトの小さい区分は便宜上いずれかの区分に従属させます。
ところで、「ウチの場合は事業区分は明白であり、あらためて製品市場区分を考える必要はない」と思われる方もおられるでしょう。しかし、本来性格の異なるものを一緒にしていることに気づかず、せっかく立てた戦略がどっちつかずの中途半端なものになっていることも多いのです。「検討しなくても判っている」と言わずに、一度、紙に書いて確認されることをお勧めします。
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