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第5回 顧客を知る、市場を知る(1)~顧客構造(顧客プロポーション)の分析~

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

「顧客を知る方法」というと、まず、顧客ニーズの分析、購買行動の分析、購買意思決定プロセスの分析が頭に浮かぶと思いますが、これらについては製品戦略や営業マネジメントと絡めて後述することにして、本項では顧客構造(顧客プロポーション)の分析の方法を解説します。

また、顧客特性の分析も顧客を知る上で欠かせませんが、特性分析については、第3回の「事業特性とKFSを知る」の項で詳述しましたので、下図の「顧客特性をつかむ視点」を特性分析の「目のつけどころ」として紹介するにとどめます。

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新規、買い替え、買い増しの分析は必須項目

この顧客構造(顧客プロポーション)の分析で最も基本的なものが、新規需要、買い替え需要、買い増し需要の構成比の分析です。これら三つのタイプの需要のうち、どれが今主流になっているかで戦略は変わってきます。新しく買わせるのと買い替えさせるのとでは、打つべき手はまったく異なるからです。
あるいは需要予測にしても、この三つの構成比が変われば、まったく異なる数字が出てきます。

したがって、テレビや機械設備のように、買い替えや買い増しの比重が高い事業の場合には必須の分析事項ですが、この基本的なデータも押さえていない企業は少なくありません。2~3ヶ月の限られた期間でもよいので、営業マンの「受注票」なりに、新規、買い替え、買い増しの区別を記入させて、一度データをとってみることをお勧めします。

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たとえば、上図は、機械メーカーC社の需要構成とその業界全体の需要構成とを対比したものです。業界全体としては、圧倒的に買い替えが多いにもかかわらず、C社は新増設のウエイトの方が高くなっています。このC社はその業界のトップメーカーですが、このデータから、既存客が他社に奪われているのではないかという仮説が出てきます。

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上図は、素材原料メーカーであるD社の顧客軒数と一顧客当たりの購入金額を商品別に比較したものです。商品AとBは同じジャンルの商品であり、キログラム単価も総売上もほとんど変わらないため、D社の両商品のマーケティング上の扱いは全く同一でした。しかし、この図からは、商品Aは一顧客当たり購入金額のアップを図り、商品Bは顧客軒数の増加を図るべきではないか、と見当をつけることができます。もちろん、現実には、このデータだけで、こうと決めつけることは出来ませんが、戦略仮説としては十分に成り立つものです。

なお、分析はすべて、この戦略仮説を導き出す、あるいは、その仮説を検証するためのものです。そして、これらの仮説を取捨選択し、一つのシナリオにまとめていくことによって、マーケティング戦略を組み立てていきます。したがって、分析を行ったならば、その都度このデータから何が言えて、どのような手を打つべきかの仮説を明記する癖をつけて、分析のための分析に終わらせないことが肝要です。

営業効率別の顧客プロポーション分析

顧客層ごとの営業効率という視点から顧客構造を見ることは、営業マネジメント上ばかりでなく、マーケティング戦略を考える上でも重要なことです。もちろん、効率ということが余り馴染まない業種では、このような分析は必要としません。しかし、細かい商売の積み重ねのような業種では、営業費用までを計算に入れると採算割れになっているケースが多いだけに、必須の分析であると言うことができます。

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上図は、産業界のあらゆる分野にわたって事務用機器を直販していたメーカーE社のデータです。E社では、輸送用機器業界、電機業界が売上げ金額の多い業界であるために、それらを主要顧客として力を注いでいました。しかし、これらの業界の需要は、総額では大きいものの、受注一件当たりの売上げ金額が小さく一受注ごとの訪問損益分岐点(ペイライン)を割ることの多い補充需要を中心としたものであることが、この図から明らかになりました。

個々のビジネスがペイラインに乗っているかどうかということは、戦術ないし日常の営業マネジメントの問題ですが、この例のように、特定の顧客層全体がペイラインを割るような場合には、まさに戦略上の課題として浮上してきます。E社の場合も、このデータに衝撃を受け、輸送用機器と電機業界については、それまでの直販営業を止め、代理店営業へ移管するという戦略決定をしました。

訪問損益分岐点をつかんでいるか

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訪問損益分岐点(ペイライン)とは、営業マンの時間コストに見合う売上高を言います。(上図)
まず、営業マン1人の年間コストを1年間の正味面談時間で割ると面談1分当たりのコストが出てきます。仮に営業マン1人の年間コスト(社会保険料の会社負担分や通勤費等も含めた全人件費です)を750万円としますと、それを年間の正味面談時間3万8880分で割れば、面談1分当たりのコスト192.9円が出てきます。つまり、営業マンは、顧客との面談1分間ごとに192.9円を使っているということです。

次に、輸送用機器業界や電機業界顧客1軒当たりの年間訪問回数が12回、1回当たりの平均滞在時間が30分としますと、これらの業界の顧客には、1軒当たり年間360分を使っていることになります。これに面談1分当たりのコスト192.9円を掛けますと、年間の当該顧客への訪問コストは69,444円となります。この訪問コストを売上げに換算するには、粗利益率で割らなくてはなりませんので、粗利益率を2割として、0.2で割ると、この場合は347,220円という数字が出てきます。

この数字がこの両業界の顧客への訪問損益分岐点売上げなのです。つまり、年12回30分ずつ訪問するのであれば、347,220円以上の売上がなければ赤字ということです。

なお、この計算式に自社の実態の数字を当てはめると、全顧客ごとの訪問採算分岐点が出てくるので、採算に合わないところは訪問回数を減らして採算に合わせるなどの手を打つこともできます。これは、一般に顧客収益性分析といわれ、覚えておくと便利なものです。

(小林 裕)

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