第6回 顧客を知る、市場を知る(2)~顧客構造の変化~
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
恐ろしい自社市場のウェイト低下
顧客構造の分析は現時点の状態ばかりでなく、時系列的に見ることも必要です。市場の変化に目を向けるのです。
下図をご覧下さい。これは、各市場セグメントの重要度がわずかの期間にすっかり変化してしまったケースです。 この「市場セグメントのウェイト変化」は一流機械メーカーのF社で実際にあったケースです。この図では、AからFまでの市場区分ごとに、それぞれのウェイト(構成比)とシェアが一昨年から今年までの3年間でどのように変化してきたかが見てとれるようになっています。
まず、一昨年のCとDの市場のウェイトに注目して下さい。Cが27%、Dが34%を占めており、これらを合わせると61%、つまり、CとDの二つの市場で市場全体の6割を占めていたわけです。
そこで、F社ではこれらのウェイトの高いCとDの市場を自社の重点市場と定め、その市場での自社のシェアを更に高めるために、そこに多くの営業資源を投入し、活発に活動を展開しました。
その努力の結果、一昨年にCが11.8%、Dが15.1%であったF社のシェアを、それぞれ22.2%、20.3%まで高めることができました。
ところが、このわずか3年のあいだに、顧客業界の盛衰の状況に大きな変化が生じ、手を抜いたためにライバルにとられてしまったA、Bの市場のウェイトの方が、CおよびDの市場よりも高くなってしまっていたのです。CとDを合わせて6割あった市場が4割(43%)までに縮み、一方、合わせて3割ほどであったA、Bの市場のウェイトが、3年後の今年には27%と24%、両者で5割強を占めるほどに成長していたのです。つまり、縮小市場に力を入れ成長市場で力を抜いてしまったこととなり、トータルシェアで他社に後れをとる結果になってしまったのです。
このように、自社が得意としてきた分野でのウェイトがいつの間にか低下したために、結果的にその分野でのシェアは高めたものの、トータルシェアでは他社に後れをとってしまったというケースは非常に多く、この市場ウェイト変化の分析は、マーケティングでは必須の分析と言うことができます。
驚くほど入れ替わっている顧客の顔ぶれ
この変化については、もう一つ例を挙げておきましょう。
この事例は同じF社の販売店の固定客度を分析したものです。顧客そのものの変化ではなく、自社の営業活動の結果の反映であり、マーケティング戦略の分析というよりも、戦術あるいはセールスマネジメントを考えるための分析ですが、役に立つことの多い分析ですのでご紹介します。上図がそれですが、顧客が年々どれだけ抜け落ちていったかということを分析します。このような分析を「漏れ分析」と言います。読者の皆さんには若干分かりにくい点もあろうかと思われますので、図の一番上の行「一昨年以前取引開始店」の行についてご説明します。
この行の一番右の欄を見て下さい。
312店とあるのは、一昨年に取引実績があった販売店の総数です。そして、そのうち130店は昨年も今年も取引実績があったが、65店は昨年で実績がとぎれてしまった店です。同様に21店は昨年は取引実績がなかったが今年になって取引が復活した店、96店は一昨年の取引以来今年も取引が無かった店、ということになります。要するに、一昨年に312店あった取引先が、昨年には、195店になり、今年には、一部復活組はあるものの、半分以下の151店まで目減りしてしまったということです。
これを「昨年取引開始店」「今年取引開始店」を合わせて3年間全体で見ますと、顧客総数は一昨年より若干減っただけで大きな問題は無いように見えますが、一昨年の顧客は半分に、昨年の顧客は37%に減ってしまい、継続顧客が少ない効率の悪い状態に陥っていることが判ります。
(小林 裕)
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