第10回 自社の市場地位と競争余地を知る(4)~市場地位からみた戦略定石~
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
強者、弱者の考え方
これまで、強者、弱者という言葉を特に定義もせずに用いてきましたが、強者であるのか弱者であるのかは、マーケティング戦略の基本スタンスに大きな影響を与えます。そこで、この強者、弱者とは何かを少し掘り下げて考えてみたいと思います。
一般的には「マ-ケットシェアの大きい企業が強者であり、マ-ケットシェアの小さい企業が弱者である」と定義されているようです。これはこれで間違いではありませんが、より厳密にいえば、前述の相対シェアが1以上ないし1に近い企業が強者であり、相対シェアがゼロに近い(0.3以下等)企業が弱者となります。
ところで、事業全体で見れば強者であっても、特定の製品については弱者である場合、あるいは、その逆のケースはどのように考えればよいのでしょうか。さらには、各社の勢力地図がまだ固まっていない開発期にある製品を、シェアが低いから弱者だと片づけてしまってよいのでしょうか。このような問題を曖昧にしたままでは、せっかくの、強者、弱者の考え方を活かし切れません。そこで、簡単に考え方を整理しておきましょう。
まず、強弱を論ずる場合は、個別製品について考える前に、事業全体として強者なのか、弱者なのかを考えるのが原則です。基本的には、事業としての強弱で戦略の大勢は決まります。
事業全体での弱者であれば、多少強い製品があっても、長い目で見れば他の製品と同じようなところへ落ち着かざるを得ないでしょうし、全体で見て強者であれば、前述の「市場接触シェア」がものを言って、弱い製品も強い製品のついでに売ることが十分に可能になってきます。
家電量販店が主流になっている現在では様相が変わってきてはいますが、一時期の松下電器産業(現パナソニック)が後発商品であっても、いつの間にかトップシェアを獲得していたのは、このような理由によります。
したがって、特定の製品だけをピックアップして、そのシェアの強弱を考えることができるのは、よほどその製品が特徴的であり、他の製品から独立して打ち手を考えることのできる場合に限ります。
なお、第8回でお話しました機械メーカーH社、カメラメーカーI社のケースのように、需要の下方シフトが起きて市場の急激な拡大が生じている場合は、従来市場と新市場を分けて強弱を考えるべきケースと、「市場接触シェア」のところで述べたような、新市場を含めた事業全体で強弱を考えるべきケースとが出てきます。
次は、まだシェアの固まらない新しい製品を、シェアが低いから弱者だという位置づけをしてしまってよいのか、といった問題です。これは、前回(第9回)の図「業界の競争余地」の説明で「その業界のライフサイクルのステージが開発期ないし成長前期に位置していれば、勝負はこれからと考えることができる」と述べたように、シェアが低いから弱者だとは言い切れません。現在のシェアが低くとも、製品力があり、営業力もあれば、十分に挽回は可能です。
できるだけ多くの戦略定石を知ろう
次に、市場地位からみた戦略定石をご説明します。いわゆる、強者の戦略、弱者の戦略です。定石とは、ある「特定の条件」下においてうまくいく可能性の高い打ち手を意味しますが、諸分析結果から戦略構想を導く場合に、戦略定石を知っているか知らないかの違いは大きいものです。
もちろん、最終的には自分の経験と洞察力で戦略構想を描かなければなりませんが、戦略定石についての豊富な知識、つまり、いかに多くの戦略定石を知っているかということは、間違いなく、皆さまの戦略発想の生産性を上げてくれます。
なお、戦略定石は囲碁や将棋の定石と同じです。知らなくては勝てませんが、いつも定石通りに攻めていたのでは、これまた負けてしまいます。定石を適用しようと考える場合には、同時に、敢えて定石を破った打ち手の方が効果的ではないかまで考えてみる姿勢が必要です。
(小林 裕)
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