第13回 自社の市場地位と競争余地を知る(7)~弱者の戦略とは(1)~
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
「弱者の戦略」の主なものとしては、一点集中の原則、1位の真似をしない、より弱い者を叩く、1位の強みの中の弱点をつく、ゲームのルールを変える、といったことがあげられます。(下図)
ただ、これらの戦略は、文字通りの弱者だけではなく、リーダーに挑戦するチャレンジャーと言われる2番手3番手の企業にも有効なケースが多いため、「2位以下の戦略」と呼んだほうが良いかもしれません。
リーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャーとは
ところで、この「リーダー」、「チャレンジャー」という分類は「フォロワー」、「ニッチャー」と合わせて、フィリップ・コトラーが提唱した市場地位によるマ-ケットプレイヤーの区分です。(P.コトラー、小坂・疋田・三村訳「マーケティング・マネジメント」プレジデント社)
マーケティング戦略には良く登場してくる用語ですので、簡単にご紹介しておきましょう。(下図)
「リーダー」とは、最大のマ-ケットシェアを保持し、新製品発売や価格設定などの様々な局面において市場をリードする立場にある企業を指します。1社とは限らず、上位2~3社のシェアが肉薄している業界では、リーダーは複数になります。
「チャレンジャー」とは、「リーダー」を追いかける立場にある業界の2番手、3番手の企業です。いつかは「リーダー」の地位を奪おうと積極的な攻撃をしかけてきます。
「フォロワー」とは、それほどコストをかけずに「リーダー」や「チャレンジャー」の戦略に追随し、彼らと直接競合しないようにして2次的市場を狙う企業をいいます。通常はシェアを大きく伸ばすことは考えず、現在のシェアの維持に力点を置いています。
「ニッチャー」とは、「リーダー」企業が興味を示しそうにない、あるいは「リーダー」企業の規模の戦略が働きにくい市場のニッチ(穴場)を見いだし、その限定された市場で独自の立場を築いていこうとする企業で、典型的な弱者と言えます。
2008年の日本国内の自動車業界(軽自動車および貨物自動車を除く)を例にとれば、レクサスを含むマ-ケットシェアが48.6%のトヨタ自動車が「リーダー」、日産自動車(シェア17.1%)、本田技研工業(シェア15.5%)が「チャレンジャー」となります。日産自動車ならびに本田技研工業はシェアはかなりトヨタ自動車に水を空けられてはいますが、「リーダー」を追走する「チャレンジャー」と言ってよいでしょう。
次にはマツダ(シェア6.0%)、スバルの富士重工業(シェア3.1%)、三菱自動車(シェア2.3%)が続きます。いずれもシェアから見れば「ニッチャー」の戦略をとってもおかしくない企業ですが、4輪駆動車で独自の路線を歩む富士重工業以外は「フォロワー」の動きをしているように思えます。(シェア数字は社団法人日本自動車販売協会連合会の発表によります)
そして、限定された市場で独自の立場を築こうとする「ニッチャー」には、この富士重工業の他、高級車市場を狙っているBMW、ベンツ等の輸入車メーカーがあげられます。
なお、「強者の戦略」、「弱者の戦略」の2区分の発想で間に合うケースが多いように思いますが、「リーダー」、「チャレンジャー」、「フォロワー」、「ニッチャー」の4区分で戦略を考える例についてはプレース戦略の項で紹介します。
一点集中の原則
「一点集中の原則」とは文字通り、自社の戦力を一点に集中させることによって、総合的な戦力で上回るライバル会社に対しても対等以上に勝負できる局面を作ることができるということです。ここで、上図を見てください。
たとえば、ここに150人の部隊を持つA軍と、そのライバルで2倍の戦力を持つB軍があるとします。A軍がB軍と、まともに広域戦で戦えば、単純に300人対150人の確率が生きる勝負になり、規模で劣るA軍は明らかに不利な状況にあります。
しかしここで、A軍がB軍の2の砦、3の砦に若干の人数をはりつけて、B軍の200人が砦から出られないようにした上で、1の砦との局地戦に持ち込めば、A軍は150人対100人で有利に戦いを展開することができます。
この方法によって、まず1の砦を陥落させ、ついで2の砦に移るというような形で戦いを展開することができれば、弱者であるA軍にも勝機はでてきます。これはビジネスでも同じことです。弱者が、トップ企業に対して、広域戦にあたるストアカバレージで勝負を挑んでも、武器に相当する製品によほどの優位性がない限り、勝つのは難しいでしょう。しかし、強者の規模のメリットを封じ込めて、砦を1つずつ落としていくように、1軒ずつ得意先のウインドシェアを高めていくことができれば、強者に負けない戦いも不可能ではありません。
1位の真似をしない
弱者は安易に強者の真似をしないことが大切です。「大手企業がやっているから」と強者の真似をすることは、強者の土俵に乗ることになり、ヒト、モノ、カネといった経営資源で劣る弱者に勝ち目はありません。それよりも、強者が気がついていない穴場はないか、気がついてはいるがマ-ケットとしては小さいため、あえて手をつけていないところはないかを考えて、自社が有利に戦えるセグメントを見つけることが大切です。また、この穴場狙いをしなければならないほどの弱者ではない企業にとっては、トップの真似をして戦線を全域に拡げるのではなく、自社の得意分野に特化することが重要です。
たとえば、昔、ペプシコーラは、ダントツのトップシェアを誇るコカコーラが「いつでもどこでも」のキャッチフレーズで僻地の山間の小さなお店まで商品を届けていたのに対し、スーパーマーケットやコンビニエンスストアでの販売を重視しました。さらに、同社はコカコーラと直接競合しない自動販売機市場にいち早く眼をつけたことでも有名です。
また、ファクシミリが一般家庭に普及し始めた頃、業界2位のリコーが業務用から家庭用までというフルライン戦略から自社が得意とする業務用普通紙中心の戦略にシフトする一方、家電メーカーは家庭用市場に絞り込むなど、各社、得意分野で勝負する戦略に転換しました。
強者の真似をしないということには、当然、「独自の差別化の仕組みを作ること」が含まれます。しかし、単に、強者がやっていないというレベルの差別化では、優れた内容であればあるほど、すぐに強者に真似をされてしまい、束の間の勝利に終わってしまいます。(「強者の戦略」の「同質化戦略」参照)
したがって、この「独自の差別化の仕組みを作る戦略」が弱者にとって有効であるためには、前記の、強者が入ってこないセグメントでの差別化か、後述の「1位の強みの中の弱点をついた差別化」であることが条件になる場合が多くなります。
なお、差別化は、製品そのものの差別化だけとは限らず、製品の提供方法や付帯サービスでの差別化もありますが、顧客にとって本当に価値があるものでなければ意味がありません。いまさら当たり前のことを、と思われるかもしれませんが、顧客にとって大して価値のないことを差別化と思いこんでいるひとりよがりのケースが目につきますので、一言述べておきたいと思います。
(小林 裕)
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