第24回 マーケティングの個別戦略を考える(5)4P接点チャネル戦略の課題と対処策(1)
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
笠井 和弥
前回は、マーケティングの4P価格戦略について述べました。
今回は、Place:接点チャネル戦略について考えてみましょう。(下図参照)
Place戦略の真意は?
マーケティング戦略を検討する際、「とにかく買ってもらえさえすれば・・・」という考え方では、製品やサービスの浸透は望めません。チャネル戦略検討のスタートも製品やサービスを訴求するターゲットを明確にすることから始めます。ボリュームゾーンor高額所得層を狙うのか?取扱店率拡大かor占有率拡大か?全国展開するのかor限定エリアで展開するのか?などです。
その上で、ターゲット顧客に自社製品(サービス)の価値を提供する場として、あるいは、顧客の声をキャッチする場として有効なチャネルはどこかを考えることが重要です。Place戦略は、「販売チャネル戦略」ではなく『接点チャネル戦略』としてとらえた方がいいでしょう。接点チャネル戦略は、単に製品(サービス)を販売するだけでなく、顧客ニーズを収集・キャッチし反応するための双方向の場を考えることに真意があるのです。
顧客との接点チャネルづくりの目的をしっかりと固める
ターゲット顧客を明確にし、次に検討すべきことは、接点チャネルづくりの目的をしっかり固めることです。
目的により適切な接点チャネルも異なるからです。
目的が、ストアカバレッジ(取扱店率)を上げることならば、直販(自社による直接販売体制)で開拓した方が良いのか、代理店など中間流通を活用した開拓が良いのかなどの検討が必要です。
例えば、一般消費者を対象にした市場から業務用市場へマーケットを拡大する場合など、新規顧客づくりを進めようとすると、ターゲット顧客は一般生活者でなく外食、宅配、惣菜あるいは食品メーカーなどいわゆるプロがターゲット顧客になります。そのようなプロに対し自社の価値を訴求するチャネルを確立する必要があります。
そのため、自社営業体制により直接働きかけるのか、業務用市場の事情に長けた流通企業を通じて接点を持つ方が良いのか、あるはミックスによる体制構築が良いのかなどを検討する必要があるのです。
既存顧客を囲い込み、他社製品への切り替えを防ぐ場合はどういうチャネルがいいのか乗用車のケースで考えてみます。最近は、ユーザーの所有期間が長くなってきているようです。高度成長期のころは3~4年で新しい車に買い替えるユーザーが多かったのですが、経済状況の影響もあってか、今や10年以上所有するユーザーも少なくありません。このような状況では、ユーザーに継続的なフォローをしっかりしておかないと、買い替え時に(他社系列が多いですが)他社車に買い替えられたり、カーシェアリングなど新しいカーライフスタイルに切り替えられてしまう可能性があります。つまり、顧客のロイヤリティ形成をしっかりおこなっておくことが重要であり、そのためどのような接点チャネルを構築するのかを検討しておくことが重要です。
認知形成(商品やサービスを知ってもらう段階)、初回購買促進(初めて購入してもらう段階)、継続購買促進(継続的に購入使用してもらう段階)など購入プロセスの違いにより既存チャネルありきでなく臨機応変に見直し、最適な接点チャネルを構築することが必要なのです。
不特定多数の顧客をターゲットにしているコモディティ商品は、認知形成プロセス段階で間口が広いチャネルを選択し、テレビなどマス媒体を使用したチャネルを選択する傾向にあります。
また、初回購買促進段階では、顧客の身近にあり買いたい時に手に取ってもらえるCVSやスーパーなどマス・チャネルが良いといわれています。
マス・チャネルを対象にした商品やサービスであっても、マーケットシェアの中身により最適チャネルの選択を変えることが必要です。(下図参照)
上図のケースでは、同じ製品でも首都圏市場に比べ近畿圏市場でのストアカバレッジ(取扱店率)が低いです。
このような状況では、集中的に多くの店をフォローすることによる商品の浸透促進が必要です。
そのため、新人セールスや間接スタッフや工場要員によるセールス応援体制を作り、代理店に対する取扱店率増を対価とした販売促進体制づくりが必要です。
一方、限られたセグメント層をターゲットにしている会員制のリゾートホテルビジネスで考えてみましょう。(下図参照)
某社では、顧客を4つに分け最適な接点チャネルを構築しています。ビジネス環境が厳しくなっている中で、既存契約利用客とのつながり強化が課題になり、それに対応する形でロイヤルカスタマー(最重視したいお客様)にどういうチャネルを通しコミュニケーションを図るのが適切なのかを検討し、コンシェルジュ対応できる専用電話を設置するなど有効な接点チャネルづくりを検討しました。
このような接点チャネル構築は、高額な健康食品ビジネスでも見られます。有力顧客から受ける電話は、何分かかろうが徹底的に聞くような方針を出している企業もあります。
女性向け化粧品の場合、初回購入の時には、肌質などカウンセリングしてもらった上で購入したい女性が多いため、カウンセラーによるきめ細かい対応が求められます。しかし、2回目以降の購入時は、わざわざカウンセリングしてもらわなくても、むしろ手軽に手に入ることを期待するユーザーも増えているようです。そのような顧客の変化に対応するチャネルとしてWebなどを活用した直販チャネルが伸びています。
エリアの状況に対応したチャネルづくりの重要性も増しています。
かつて消費財は典型的な内需ビジネスでしたが、国内市場が飽和し、アジアを中心とした海外展開を図る企業が増えています。
先ほど例にあげた化粧品の国内市場は減少傾向にあります。少子高齢化の流れはしばらく止まる可能性がないため、多くのメーカーは、アジアを中心とした海外市場への進出を図っています。大手の有力企業では中国市場における売上が近い将来、国内市場と同等以上の構成比になるような中期事業計画を立てています。
国内からアジアに市場を拡げていくと、どんな買い場所がよいのか?どのエリアからカバレッジを上げていくのか?などを検討する必要があります。中国を例にとって考えると、多くの大企業が、上海・深圳を起点として進出していますが、自社にとってどのエリアが一番効果的か?直営店チャネルがふさわしいのか、代理店網をつかった開拓をしていくのか?などを掘り下げることが重要です。
業界は異なりますが、例えば、ソニーの場合、偽物が多く流通している中国では、高所得者層は偽物に過敏に反応する傾向があり、「これは間違いなくソニー製品だ」ということを打ち出すため、あえて直営店で販売する政策をとっています。
エリア・市場を含めて、ビジネスを取り巻く環境がどうなっているのかをしっかりと踏まえた上で、接点チャネル戦略を検討していく必要があります。
次回テーマは、「 4P接点チャネルについて 」の続きをお話しします。
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