第26回 マーケティングの個別戦略を考える(7)
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
笠井 和弥
今回は、Promotion:プロモーション戦略について考えてみましょう。
何のためのプロモーションか?
プロモーション戦略というと、どういうプロモーションをするのかという方法論やツールに焦点を当て議論されますが、プロモーションを行う対象や目的が曖昧なままで実施されていることが多いようです。
どういう顧客に、何の目的で訴求するのか関係づけて行うことが重要です。
プロモーション戦略の目的は、3つから成り立っていますが、その中身も目的により異なります。
顧客認知、顧客獲得、顧客維持(ロイヤリティ形成)、どこに狙いを定めプロモーションを行っていくのか固めることが重要です。
多くの消費財ビジネスでは、新しい顧客獲得を目的にしたプロモーションが圧倒的に多く見られる一方で、既存顧客を維持していくためのプロモーションは少ないようです。
新しい顧客獲得は歩留まりが悪く、益々ターゲティングの重要性が高まっているなかで、テレビコマーシャルなどマス媒体などを活用する際、手段ありきでなくその狙いを明確にした展開が求められます。
事例でプロモーション戦略を考えてみる
■顧客認知+獲得事例:ロッテ「フィッツ」ガム
若い人のガム離れの実態を踏まえ利用促進をするためにはどうすればよいのかという問題認識から、若者層をターゲットしたマーケティング戦略を検討しています。
顧客特性分析から、「顎が強くない。ゆるく繋がっていたい世代」というキーワードを設定し、コミュニケーションツールとしてのガム(あげたりもらったり)というコンセプトを打ち出しプロモーション展開を図りました。
ターゲット(若者)の接点チャネルであるTVやWEBを中心に、TVCMではガムという言葉を使わず"歌とダンス"で楽しさ・ゆるさを表現し、"噛むと柔らかロッテのフィッツ"というメッセージを伝えました。
WEBではダンスコンテストの場を提供し消費者間でコミュニケーションを取る仕組みを構築しました。
この取組みにおけるポイントを整理すると以下のようになります。
1)参加しやすい環境づくり(ダンスが簡単すぎず難しすぎないことや振り付けサンプル動画など)で多くの人に踊ってもらえた。
2)再生回数だけで競う仕組みにより、投稿ユーザーが周囲に宣伝する波及効果やメディア露出も期待できた。
3)CMのダンスポーズをWEB・雑誌・交通広告・店頭など様々なメディアで連動させた。
■顧客認知+獲得事例;バナナ
果物好きの日本人ですが、一番消費量の多い果物がバナナです。
しかし、年代や性別により消費量に差があり、最もバナナを食べるのは高年齢の男性層で、逆に消費量が少ないのが20代女性層です。業界では、若い女性層にいかにバナナを食べてもらうかが大きな課題になっていました。
多くの若い女性が抱いている「バナナは男性が食べるもの」というイメージを変え、「バナナ=ダイエット食品」というイメージ訴求をすることを狙い、女性雑誌への記事広告掲載、イノベーターと呼ばれるダイエットオタクの女性を軸とした口コミ形成を仕掛け、顧客開発へ繋げていきました。
■顧客認知+獲得事例:TVゲーム「ドラゴンクエスト、ファイナルファンタジー」
長く続くシリーズものゲームとしてコアなファンが多い一方、女性など新たな顧客層を取り込めていないという問題意識から、過去に発売されたシリーズソフトの利用経験がなくても入りやすいような製品開発とプロモーションを連動させた展開を図り、シリーズ最高のヒットを記録しました。
ただ、ターゲット層を拡げたことにより、既存のファン顧客からは「これまで好きだったところが変えられてしまった」という反感も出てしまいました。なかなか、上手くいかないものです。
■顧客維持事例 小売りチェーンにおける顧客維持プラスアルファの取組み
市場が成熟し競争が激しくなるに従い、顧客維持に焦点を当てたプロモーションを企画する以下のようなケースも増えてきています。
多くの小売りチェーンで実施しているポイントセールも、最近は大半の店や商店街で実施され、それだけでは、他店、他地域との差別化には繋がらなくなり、プラスアルファの打ち手が求められています。
このような状況を打破するため、イトーヨーカドーは、家庭内在庫の圧縮を狙いとした買い取り・引き取りセールを実施し、家庭内に眠っている不要品を引き取ることで保管スペースが確保でき、新しいものが欲しい消費者心理を喚起する取組みを一部の店舗で行っています。
また、他のスーパーでは、商品を販売するだけでなく、自宅まで届けるなどお客様の困りごとを解決するサービスを追加するなどして商圏内の顧客維持を図っています。
プロモーション効果を高めるためには市場・顧客・現場の理解が不可欠
どのように顧客の情報精度を上げていくのかを考えず、打ち手から入ったプロモーションをいくら実施しても、効果は期待できません。「値下げキャンペーンをやりましょう」では投入費用に対する効果は見合わなくなってきています。
顧客情報が把握されていない、データ分析されていないのであれば、プロモーション投資をやらない意思決定をすることも必要ではないでしょうか。
顧客情報は顧客関係プロセスを踏まえ、いかに生きた情報を効果的に蓄積・活用していくかが成果を大きく左右するのです。特に、既存顧客を維持しロイヤルカスタマーを育成していくため、顧客情報管理と精度向上は必須です。安定的な業績を維持している自動車ディーラーでは、購入顧客の蓄積情報活用を上手くやっています。
車の走行距離に応じ対象顧客に「タイヤ祭りキャンペーン」を企画し、「そろそろタイヤを買い換えよう」という意識が芽生えた顧客にピンポイントで営業マンが訴求し、成果につなげています。
車や家具などの生産財や保険など、購入時点でお客さま情報を把握しやすい製品やサービスに比べ、一般消費財の場合は、お客さまの個有情報が取りにくいので、POSデータやCS調査など外部データを買い取って分析する必要があります。しかし、POSデータは、購入客データであり、購入していないお客さまのデータや購入後の情報を把握できていません。また、食品であれば、食べたのか・食べなかったのか、どの程度食べたのか・残したのか、美味しかったのか、美味しくなかったのか、などの情報まで取れません。
このような情報を把握した上で戦略的にプロモーションを実施している企業はまだ少ないようです。
有力トイレタリー企業では、具体的なニーズとして上がってこない実態を把握するためには、現場を見るしかないということで、許可を得られた家庭に入り調査を行っています。
しかし、自分で洗濯をしたことが無い人が、調査スタッフとしてこのような現場を見ても課題は見えません。「現場を見るものさし」を作成し、最初はそれを活用しながら場数を重ねることで見る視点を育てることも大事なのです。このような取組みを通じ、顧客に提供すべき価値を見直すと同時に、有効な訴求方法(プロモーション)を考えるのです。
今や、いかに顧客・店頭・市場の理解にエネルギーを使って、効果的なプロモーションを打つかが必要な時代なのです。そこまでやらずに、色々なプロモーション手段を講じても、ザルで水をすくうようなものです。
プロモーション戦略検討はどう進めるか?
以上の点から改めてプロモーション戦略の検討ステップを考えると
Step1.ターゲットを明確にする
Step2.顧客を理解する(情報精度を上げる)
Step3.訴求目的を明確にする
Step4.提供価値を明確にする
Step5.提供メッセージを明確にする
Step6.提供メッセージの整合性をチェックする
Step7.どの手段を通じてメッセージを提供するのが一番効果的なのか検討する
・・・媒体の選択 例:マス広告、Web(ブログ・SNS・ツイッターなど)、人的対応など
上記を基本に進めることが大切です。
次回テーマは、「 4P戦略の総括について 」をお話しします。
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