第30回 マーケティングの個別戦略を考える(11)
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
笠井 和弥
前回まで、数回に亘りマーケティングの戦略について述べました。
今回は、消費財や生産財といった財によるマーケティング戦略の違いについて考えてみたいと思います。
財によるマーケティングの違い~ルール力とアイデア力
マーケティング戦略を考える際、消費財・耐久消費財・生産財と分けて考えることがあります。
財により4P戦略を実施に移し他社に負けないようにするには、力の入れ方をどうすればよいのでしょうか。
これについては明確な基準はないのですが、以前アメリカで「一体どういう戦略を打ったから伸びたのか」という実態調査が行われました。
成功している約600の製品を取り上げて一体どのような影響があるのかという研究を行ったのです。
まず、この研究は、マーケティング戦略を進める上での基本原則を単純化し、アイデア力(4Pの製品・価格・販促戦略の一部)とルール力(4Pのチャネル・販促戦略の一部)の2つに分けて考えます。
アイデア力とは、「新製品をどう出すか」「広告宣伝をどうするか」「製品パッケージをどうするか」などであり、事業家のアイデアに負うところが多く、一方、「流通チャネルはどうであった方が良いか」「どういうルートにどんな売り方をすれば良いか」さらに「どう実施させるか」というマネジメントの問題、つまり、ルール力でどう勝負するかということになります。
結果を見てみますと、生産財は、ルール力発揮が2に対しアイデア力が1の按分でやっているところがうまくいっているそうです。耐久消費財は、1対1の力の入れ方がうまいということです。消費財は2対3の比率でバランスを取っていくのがうまい戦略であるといった結果が出ています。
皆さんの会社の事業を、このような点から評価してみてください。
例えば、製品を中心としたアイデア力に優れているとしても、明確な差がないとなると、もう一方のルール力を強化する必要があります。
力点を置くべき対象を冷静に見定めたマーケティング戦略が必要ではないでしょうか。
常に市場・顧客の変化に対応する
消費財・生産財によるマーケティング戦略を考える上で一番大きな違いは、対象とする市場・顧客が個人を相手にするか、企業や組織を相手にするかです。
消費財:個人の生活向上に寄与する製品およびサービス財
生産財:企業や組織の生産サービスに寄与する製品およびサービス財
生産財も消費財も、顧客ニーズを満たすという点では本質的に変わりません。
どの企業もいかに新たな顧客を開拓(創造)し、良好な取引関係を結び継続購入してもらうかが重要な課題です。
そのため大事なことは、顧客の視点で見ていくことです。「顧客は誰か?」を捉え、その顧客の特徴を整理すると生産財と消費財によりその特性は当然違ってきます。
現在のビジネスの対象市場の伸びが鈍化してくると、消費財市場を対象にしている企業は、生産財市場に、生産財市場を対象としている企業は消費財市場(の顧客)にビジネス領域を広げたいと考えます。
消費財市場では、ブランドの認知度が購入の重要な要素の一つであるため、認知度の低い企業は、消費財企業を顧客として自社製品(原料)や技術を提供することで生き残りを図る企業があります。
生産財企業では、自社が有する技術を使って、新たな市場開拓に応用できなか試行錯誤します。
たとえば、自動車メーカーを主要顧客としてカーエアコンを製造する企業が、一般消費財市場向けのエアコン参入を検討したりします。
また、同じ製品でも一般消費者、企業組織両方を対象顧客としてビジネス展開している企業もあります。
たとえば、加工食品メーカーは、自社ブランド商品をスーパーやコンビニエンスストアで販売する一方で、外食チェーンや総菜チャネルなどの企業で提供する食材の原料としても販売しています。
「市場や顧客は、常に流動的で変化していること」を大原則とし、今、ビジネスの対象としている市場や顧客は、10年後や30年後も存在しているか考えビジネスを行うことが重要です。
言い方を変えると、企業を顧客にビジネスをやっている企業が、消費者を対象にしたビジネスに転換することもあり得るということです。その際、当然のことながらビジネスの押さえどころも変える必要があることを理解せず、やみくもに転換を図っても成功は覚束ないということは、理解いただけることでしょう。
次回テーマは、「生産財のマーケティング戦略」についてお話しします。
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