第34回 生産財企業のマーケティング戦略パターンその3
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
笠井 和弥
生産財企業のマーケティング戦略を、顧客特性の違いにより4つのパターンに分けて考えることを提案しました。 マーケティング戦略とは、顧客を明確にし、買われる仕組みを作る活動をいかに計画的に行っていくかということだとお話ししました。 今回は、顧客管理型生産財の検証です。(下図参照)
顧客管理型生産財企業のマーケティングの特徴
顧客管理型生産財は、電子部品など顧客がある程度固定化され、その顧客と継続的な取引を行っている特徴を持つ企業です。このような企業にとって、「技術力」「開発力」が商品であり、部品などはそれを具現化したものにすぎないのです。 それゆえ、顧客管理型生産財企業のマーケティング重点は、顧客毎のきめ細かい要求に素早く応えていくことが主眼となりますが、常に製品改良、付加価値の向上を進めないと、コスト競争に陥り、競合製品や新機能部品に市場を明け渡すことになるのです。
しかしながら、現状では、目先の顧客対応に追われ、技術力、開発力の革新が積極的に行われている企業は少ないのが現実です。その背景として、特定顧客(企業)から度重なる開発案件・技術データによる裏づけ・マイナーチェンジなどの要求に応えて行くことに追われ、開発技術者を抱えて研究開発に力を入れようとしても、手が回らない状況が多いことが上げられます。
組織的にみても、多くの企業では、営業が顧客対応窓口として、顧客のニーズを把握し、それを受けて生産、開発部門が製品に仕上げていく流れになっています。営業と開発、生産部門のやり取りは、「製品」を持って行われるケースが大半ですが、そこでは、顧客の真のニーズをどの程度把握しているか、また、それに対し自社の技術力、開発力の何が価値となり、何を革新しなければいけないのかを突っ込んでやり取りすることが少ないのです。
繰り返しになりますが、部品メーカーの商品は、「技術力」「開発力」であるからここに焦点を当てた戦略を構築しなければならず、そのためには、技術・開発・マーケティング各機能が系統づけられ同一の戦略軸の中で位置づけられることが重要となるのです。そのような点から、このタイプのマーケティング戦略上の最も重要な課題は、機能連携による顧客の真のニーズ把握による技術ミックスと商品特性に適合する差別化戦略と 言えます。
特定顧客のロイヤリティ形成の仕組みづくりが重要
このタイプの企業は、顧客数が少なく固定化されているケースが多いことは述べました。 顧客に対し企業価値を高めるには、完成品メーカーの製品動向をどのように掴み、それに対してどんなアクションを取るかにかかっています。つまり、顧客の製品動向を熟知した上で、自社のマーケティングを行わなければならないのです。獲得した顧客を単一案件としてではなく、長期的取引関係に発展させるための基盤づくりが重要となります。
具体的には、個別顧客に対する他社との技術差別化と人的サービスにより顧客のロイヤリティを高める仕組みづくりが重要です。 頻繁に行われる顧客との打合せは、部品メーカーなど顧客管理型生産財企業にとって顧客ニーズの変化を把握するマーケティング活動の一貫ととらえられます。また、顧客と運命共同体関係が発生することが多く、市場管理型企業である素材メーカーと同じように、顧客の景気変動の影響を受けやすいため、顧客不況期のリスク分散が、一番大きな課題でもあります。
つまり、特定顧客への偏った取引量のバランスをいかにとるかという困難な課題があるのです。 この課題解決のため、既存技術を活用した新規事業分野の確立を模索する企業が多いのですが、既存顧客依存型の企業体質がネックとなってなかなかうまくいかないようです。自動車部品メーカーなどグローバル展開など新たな市場開拓によるビジネスリスクの分散にチャレンジする企業が増えていることもあり、今後に期待したいところです。
顧客ニーズをキャッチし続ける仕組みを確立する
既存顧客との長期的な取引関係維持を図るための戦略ポイントとしては、顧客との定期的な接点づくりを通じ、その完成品関連技術ニーズをキャッチし続ける仕組みを確立することです。 完成品メーカーとの接点を考えた場合、以下のケースが上げられます。
① 日々の顧客接点活動を通じた交流
日常活動の中でのマーケティング活動は、「顧客ユーザーとの関係強化」と「情報活動」です。獲得した案件を単一案件としてではなく、当該分野での長期的取引に発展させるためには、人的サービスによる顧客ユーザーとの関係強化が求められます。技術・開発力を本丸とするなら人的サービスは外濠の役割を果たすことになります。繰り返しになりますが、営業担当者だけでなく、技術、生産スタッフをはじめとした組織連携による顧客キーパースンとの接点活動を通じ、提供したサービスに対する反応を逐次分析する必要があります。
② 完成品メーカーからの案件打診
開発・生産の可能性、受注の可否に関わらず、案件打診情報は顧客の経営課題や・ニーズをうかがい知る 最良の情報源です。これを通して最終消費財ユーザーのニーズとそれを満足しようとする完成品メーカーの商品戦略や技術戦略の動向を把握することができます。
③ 具体的案件対応
問合せ案件にどのように対応するかという個々の見積り設計を意味するのでなく、その案件対応をどのようなスタンスを持って考えるかです。どういう技術で対応するか、他社との技術差別化と技術発展をどのように盛り込むかなどの検討です。言い替えると、自社の商品領域の設定であり、要求されている機能の定義づけです。ここが、マーケティング活動の中核です。
④ 受注評価と要因分析
完成品メーカーは部品採用に当たり、部品の性能・品質を厳しく評価するため、受注できたということは、その時点では顧客ニーズに適合する仕様を提供できたことになります。 採用された要因を分析することにより、ニーズに適合するキー技術をさらに極めることにつなげられます。(下図参照)
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