第37回 「ハイ・マーケティング革新型企業を考える ドライビング・パワー①ニーズ・キャッチ力」
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
笠井 和弥
前回は、マーケティング先進企業(ハイ・マーケティング革新型企業)のベンチマーク指標モデルをご紹介し、定量的評価指標と定性的評価指標2つの指標を示しました。定量的評価は、「結果指標」をデータベース化することで他社との相対評価を容易にできます。JMACでは、この結果指標を「ビジネス・スクリーン」として基本仮説の基礎研究と仮説の相関度および重要度の実証研究を行っています。
ハイ・マーケティング革新軸は、「新商品売上構成比」「シェアNo1商品売上構成比」2つの指標で測ることを提案しました。(前回内容参照)
しかし、マーケティング革新レベルが定量的指標=結果指標だけで測れるものではなく、そこに導くための定性的評価が意味をもってきます。つまり、どのような状態にあれば、マーケティングレベルが「ハイ」「ミドル」「ロウ」レベルなのかといった「状態指標」が重要となり、以下のような3つの段階で見ます。
●「ドライビング・パワー」・・・「基本コンセプト」へ向けて革新をするための鍵となる機能
●「マネジメント・トリガー」・・・各「ドライビング・パワー」の機能水準を決めるマネジメント上のトリガー(仕掛け)
●「マネジメント・リクワイアメント」・・・各「マネジメント・トリガー」を構成要素の要求水準
今回から、5つのドライビング・パワーを取り上げ、マネジメント・トリガーとマネジメント・リクワイアメントの内容について、ご紹介します。ます、ニーズ・キャッチ力についてです。(下図参照)
ニーズ・キャッチ力評価の基本コンセプトは、「顧客情報の収集・蓄積・活用システムは確立されているか」です。
ニーズ・キャッチ力を評価する機能を分解すると、『集める』『蓄える』『活かす』『統合する』4つのマネジメントの仕組みが確立できているかが重要です(マネジメント・トリガー)。それでは、ニーズ・キャッチ力のマネジメント・トリガー毎の評価内容(マネジメント・リクワイアメント)を解説しましょう。
まずは、『顧客情報マネジメント』です。
顧客情報は、多くの企業で集めることが優先され、何のために集めるのか、どういうルールで集め、蓄積、活用するのかが曖昧なままになっています。こんな情報も、あんな情報もあらゆる顧客情報を集めておけば、いつか役に立つだろうで情報収集を行い、いざ活用しようとすると、どこにどんな情報が蓄積されているのか分からず、また、同じような情報を集め直すことが多いのです。
営業や商品企画部門など第一線で情報収集にあたるスタッフの負荷もかなりなものです。このような点から、まず、"伸びる顧客への密着化"を図るための基本指針を明確にし、それを実践するためどのような顧客情報が必要かを明確にすることが重要です。目的を達成するための情報収集、蓄積、活用それぞれのルールを決めておくことも不可欠です。(下図参照)
次に、『顧客情報収集の仕組み』です。
顧客情報を集めるのは、営業部門や商品企画部門が外部機関などへの依頼も含め実施している企業が多いようです。
この点についても、ハイ・マーケティング革新型企業のあり方として、特定部門だけでなく全部門が"伸びる顧客への密着化"を図る体質づくりの一環として行う必要があります。「自分は、モノをつくる部門だから・・・、総務部門だから・・・」と言っているようでは、マーケティング 革新度に?がつきます。 全ての部門の全ての関係者が顧客と直接会う機会を設け、立ち位置を顧客においてみることで、自分の仕事のあり方に別の視点が加わるのです。企業によっては、15%ルール、20%ルールと称して、全ての役員、従業員は自分の時間の15%(20%)を直接顧客と接する時間に使うことを義務づけています。まさに、全社レベルでのマーケティング活動が行われているのです。
ほとんどの企業が、既存顧客を対象に顧客満足度調査(CS調査)などを通じ顧客の声を収集しています。しかし、今日の顧客が、明日の顧客となり続ける保証はありません。事業計画内容の見直しにより、将来の対象顧客が変わる可能性は、大いにあります。既存顧客だけでなく、将来顧客に想定している顧客も対象にした情報収集が必要です。(下図参照)
3つ目は、『顧客情報蓄積の仕組み』です。
仮に、既存顧客だけでなく未取引顧客も含め全社レベルで顧客情報を集めたとしても、その情報が蓄積されていなかったり、蓄積された情報が定期的に更新されていないと、収集に投下した多大なる時間と費用が無駄になってしまいます。製造部門や総務部門のスタッフが、直接顧客に接し情報を集め、それを個人で自分の仕事に活かすことは、いいことです。しかし、個人で蓄積しているレベルでは、企業としてマーケティングレベルが高いとは言えません。
商品企画部門や営業部門では、新商品企画や顧客対応に活かすため顧客情報を部門単位で蓄積している企業も多くあります。しかし、多くの企業では、部門内の蓄積にとどまっています。今や、特定部門だけの顧客対応で厳しい競争に勝ち抜くことは難しくなっており、営業・開発・生産部門が連携して顧客に買われる対応策を打つことが重要です。
更に、顧客密着化を図るには、各部門に蓄積されている情報を全社レベルに統合することです。 ただ、全社レベルの統合に際して、決して忘れてならないことは、どういう目的で活用するのかを徹底的に議論しておくことです。情報マネジメントにところでも述べましたが、これがないままに統合しても情報洪水になるだけです。(下図参照)
最後に『顧客情報活用の仕組み』です。
情報蓄積同様、顧客情報をどういう範囲で活用するかを明確にすることが重要になります。個人レベルでの活用でいいもの、部門レベルの活用が必要なもの、全社レベルで活用すべきものなどを決めておくことです。
たとえば、顧客の履歴購入情報を、営業マンが引き継ぎをスムーズにするため活用する。営業所としては、顧客の購買量の変動を踏まえ訪問対象の重点化方針を立てる。全社レベルでは、事業の主対象とする顧客密着化を図るための組織づくりに活かすなどです。
このように、顧客情報を活用する範囲により活かし方も違ってきます。それによって、情報分析のやり方も変えることが必要です。収集し蓄積した情報をどのような目的で活用するのかを明確にしておくことが"カギ"になるのです。(下図参照)
皆様の企業、事業のニーズ・キャッチ力はいかがでしょう?
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