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第38回 「ハイ・マーケティング革新型企業を考える  ドライビング・パワー②アイデア力」

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

今回は、マーケティング先進企業(ハイ・マーケティング革新型企業)の定性的評価指標のアイデア力を取り上げます。(下図参照)

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アイデア力評価の基本コンセプトは、「顧客ニーズへの柔軟な対応がなされているか」です。アイデア力を評価する機能を分解すると、『検討プロセス』『部門連携』『情報活用』『知恵・ノウハウの蓄積・活用』4つのマネジメントの仕組みが確立できているかです(マネジメント・トリガー)。
それでは、アイデア力のマネジメント・トリガー毎の評価内容(マネジメント・リクワイアメント)を解説しましょう。

まず、『検討プロセス』です。
顧客ニーズへの柔軟な対応を最も具体化したものが商品づくりです。顧客ニーズを活かし開発コンセプト化→商品化→市場導入→ヒット商品化orロングセラー化など検討プロセスが明確になっていますか。事業の立ち上げ段階では、トップ個人の力量に頼った開発が行われることが多いですが、事業の成長とともに、個人の開発力でなく組織としての開発力を育成することが求められます。その第一歩が、検討プロセスを明確に決めることです。しかし、プロセスが曖昧で、プロセス毎のGo,Stopが曖昧なまま検討されるケースがよくあります。

消費財、生産財を問わず、開発テーマ検討段階から市場参入後の検証段階まで、商品づくりに限定せず、マーケットへの浸透を想定したプロセスを描き、プロセス毎で検討すべき内容やタイミングを決めておくことが重要です。また、検討プロセス毎に事前に準備すべき情報(インプット)と結論(アウトプット)、どういう基準で判断するのかを明確にしておくことも必要です。
また、検討プロセスが望ましい形で進んでいるか検証する評価指標を決めておくことにより、顧客ニーズへの柔軟な対応がどの程度図られているかを確認できるのです。(下図参照)

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2つ目は、『部門連携』です。
商品づくりの検討プロセスが明確になっても、一部の部門だけで検討され、複数部門が関わっていても部門間の意思疎通ができていないと組織としてのアイデア力は高まりません。市場情報が関係部門間で共有されていない、関連部門間のキャッチボールがうまくできていないなど、部門連携に関わる問題には事欠きません。そのような状況を打破するため行うべきことは、検討プロセスを機能させるため、部門連携の目的・目標・成果を明確にし、各部門 の認識を一致させることです。その上で、各部門の役割、責任を明確にする必要があります。さらに、部門毎の役割、責任を発揮させるには、十分な権限、裁量を与えることです。このような点を曖昧にしておくと「論じて決せず」検討になってしまいます。

以上の点を組織的なルールとして設定すると同時に、実践レベルを検証することです。部門により実践度がばらついていないか、その場合、どこに要因があるのかをモニタリングしながら、習慣化するレベルまでもっていきたいものです。そのためには、トップの関わりが重要なサポートになります。(下図参照)

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3つ目は、『情報活用』です。
組織的にアイデア力を強化するため、どのような情報を集め、どう活用すればよいのでしょうか。顧客ニーズに柔軟に対応するため部門連携により検討プロセスを明確にし、良い成果をだすため、関係者のアイデア発想に拡がりをもたせる刺激を与える場づくりが必要です。例えば、研究、製造、企画、営業といった部門スタッフが集まって検討を行うベースとなる情報がそれぞれの 部門の日々の仕事からの発想に偏っていてはいいアイデアは浮かびません。
やはり、自社の顧客と直接接点を持つことにより、発想を拡げることが必要です。企業によっては、「全ての役員・従業員は月の時間の15%-20%は直接顧客と接点を持つこと」など顧客との接点活動を義務づけています。

ただ、競争の激しい市場で勝ち残っていくためには、自社の顧客との接点だけでは片手落ちです。競合他社や自社に関わりのないユーザーやユーザーに近いところでビジネスをしている流通企業と接点を持つことも大切です。また、他業界や大学、調査機関など外部機関との接触もアイデア発想の拡がりをもたせる上で、色々な刺激を得られるでしょう。

そのような活動を通じ得られた情報が個人レベルの活用に終わっているようでは、『?』です。ヒット商品づくりプロセスの中で活用されるよう 制度化することが重要です。それにより、始めて、組織としてのアイデア力向上が図られるのです。 (下図参照)

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最後に『知恵・ノウハウの蓄積・活用』です。
アイデア力向上の最後の要素は、色々な取組みを通じ経験した事例を活用しやすいように残すことです。顧客ニーズに柔軟対応するため検討プロセスで得られた教訓をデータベースにしてもそれが活かされなければ宝の持ち腐れです。

また、教訓が単なる報告書となっているのでは、役に立ちません。なぜ上手くいったのか(いかなかったのか)、を他の人が見て利用できるようにまとめておかないと組織として『知識化』にはなりません。多くの取組み事例をみると、結果と対策だけが書かれ、どういう経過でどのようなアクションを取った(取らなかった)のかが欠落しています。そのため、なぜこのような結果になったのかの(原因)を推測できず、本来、どういうアクションを取るべきかを検討できないのです。

その後のヒット商品づくりのプロセスや部門連携での活用しやすさを考え、テーマや事象等により検索しやすく分類管理することも重要です。(下図参照)

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皆様の企業・事業のアイデア力を検証してみてください。

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