第47回 「マーケティング発想で危機を好機にしよう」
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
笠井 和弥
人々の価値観が突然に大きく変化して、そのために思わぬ好機が訪れることがある(T.レビット)
東日本を襲った大震災の被害の全容は、未だ定かでありませんが、甚大な規模になることが予想されます。
今回の大震災が人々の価値観に影響を及ぼさないことを想像することは難しいと思います。
企業としても、自社のビジネスのあり方を見直さざるをえないでしょう。
マーケティング戦略を考える上で、事業を取り巻く環境の変化を正しく認識することは重要な視点の一つです。
今回の震災に関しては、企業人を含め多くの人が、余りに大きなできごとを受け止めきれない状況であり、まず目の前の状況回復に全力を注ぐことを最優先させることは言うまでもありません。
しかし、それでも先を見つめ、復興プロセスにおいてどのような対応を図るべきかを考えることが必要となります。
マーケティング戦略の基本は、変化を先取りし変化に対応することです。
そして、変化に対応するだけでなく、もっと積極的に変化をとらえ、企業自ら新しい価値づくりに挑戦すべきではないでしょうか。
私たち人間は、古来より、いろいろな障害を乗り越えてきました。
たとえ、その障害が過去に経験したことがないようなものであったとしても、知恵を絞りだして対応してきました。乗り越えなければならない障害が大きければ 大きいほど、今までの価値観に縛られず新しい価値づくりをしてきたのです。
5つの視点から新しい価値づくりにチャレンジしよう
新しい価値づくりとは何か、どういう視点で挑戦すべきかを考えてみましょう。
まず、「最高の顧客対応スピードを示す」ことです。
顧客にとって、早く商品やサービスを提供してくれることは大変ありがたいことです。
顧客ニーズに素早く反応することに着目し、他社より一歩でも早く届けるために知恵を結集することで新たな価値づくりにチャレンジするのです。
2つ目は、「専門知識を提供することで顧客のパワーアップを図る」ことです。
大震災発生時は、日常では想定できないことが起こります。多くの顧客は、慣れている今までの行動パターンが 壊れ、不安になり、どう動けばよいのか方向感を見失います。
そのような時、特定領域の専門家として、深みのある正確な情報を顧客の状況に合わせて提供することが求めら れます。
ビジネスにおける専門知識は、学究的なレベルの知識でなく、百科事典的な知識でもなく、フィールドでの多様 な実証検証を踏まえたものが求められるのです。
それにより、顧客が抱える不安を解消するのです。
3つ目は、「顧客の抱える個別課題を解決する」ことです。
短期的な収益を考えると顧客をひとくくりにして標準的な対応を図りたくなるのですが、地域や顧客により求め るニーズが異なります。
寒冷地と温暖地、高齢者と若者、歴史のある企業とベンチャー企業など顧客毎に抱える課題は、千差万別です。
自社ビジネスを提供する顧客を明確にし、その中でもコア(核)とすべき顧客を明らかにし、その顧客が抱える課題 の背景を調べ、最適な解決策を提案するのです。まさに、特定顧客を対象に、徹底的に顧客起点で考えることを 実践するのです。
4つ目は、「顧客の業務を楽にする」ことです。
顧客が日々行っている業務プロセスの手間を軽減、あるいは、廃止することで、顧客が本来エネルギーを投下 したいことにエネルギーを投下できる環境づくりに貢献するのです。
例えば、加工食品は、調理をする時間を大幅に削減しました。
それにより、できた時間をやりたいことに振り向 けることができるようになります。
食器洗い乾燥機は、食後の食器の後片付けの手間を大幅に削減しました。
他にもこのような商品やサービスは、多くあります。
顧客が、煩わしいと思っていることを先取りし、それを 解消できる商品やサービスを提供することは大きな価値です。
5つ目は、「価値創造の場に顧客を引き入れる」ことです。
新しい価値づくりに向け、顧客ニーズを把握するための更なる努力をし 価値づくりにチャレンジしても、既存の商品や サービスを凌駕するようなものを創ることは決して簡単ではありません。
そのような状況を打破するため、顧客と一緒になり、顧客が抱える課題を共有化し、お互いの経験や見識をぶつ け合う取組みを行うのです。
言いかえると"3人寄れば文殊の知恵"方式で、新しい価値を創り出すのです。
高度なレベルの商品やサービスを提示され、自分にとって一番いいものを選択する経験を通じ、顧客の選択眼は 磨きあげられていきます。
視点を変えると、商品やサービスのことを一番知っているのは、提供側の企業よりも顧客 自身です。
商品・サービスの提供者対顧客という対立軸で考えず、多様な使用経験を有する情報源としての顧客 とその情報をベースに新たな商品・サービスを形にする企業という共同体の場づくりが益々求められると考えます。
(下図参照)
上記5つの視点のベースにあるのは、徹底的に顧客起点で、何ができるかを考えるマーケティングの基本思想です。
こういった時だからこそ、今もう一度原点に戻って考えてみましょう。
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