第49回 「5F視点でイノベーションを」
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
笠井 和弥
今こそ5F活動を
東日本大震災を境に、政治・経済・マーケットの雰囲気が一変しました。 現状を一言で表現すると"不"ではないでしょうか。 将来の生活設計に対する不安感、経営環境の先行きに対する不透明感、政府の政策に対する不信感など、国も企業も国民も、目の前に突きつけられた状況をどう受け入れ、将来をどう描いていけばよいのかを十分整理しきれず、戸惑っています。
全体的に気持ちが塞ぎがちになり、それが市場の収縮につながる危険性も出てきています。 一方で、処理しなければならない目先のことが多く、こなしきれないという現実もみられます。 また、老若男女、企業、組織を問わず、「何とかしたい」、「皆の役に立ちたい」、「一緒にやりたい」と思っている人が多いのも事実です。 企業活動においては、顧客や現場の真意がつかみきれず、現状打破の必要性は理解できるが、慣れてきたやり方をなかなか変えられない、という声も聞かれます。
社会生態学者、未来学者、経営学者であり、一般の方にも広く知られるようになったピーター・ドラッカーが、今の日本が直面する状況を想定して言ったかどうかはわかりませんが、次のように言っています。 「逆境を吹き飛ばすには、イノベーションによる飛躍が不可欠である」
ドラッカーが言う「イノベーション」とは、技術革新という狭い領域だけでなく、社会を取り巻くあらゆる構造の変革を意味します。 限られた人間や組織による変革ということではなく、一人ひとりが小さなことから始め、多人数、多組織が関わることにより、大きな変革のうねりとなることの重要性も説いています。
このような点を踏まえ、これからの経営のあり方を考えると、今の状況を打破するには、トップ・スタッフ・現場が一丸となり、
夢のある将来を描き (Future)
フィールドを這いずり回り (Field)
顧客や営業第一線の真実をつかみ (Fact)
変化を感じ取り (Feeling)
当たり前のことを当たり前にやる方法を考え (Figure)
やる気になって徹底的に実行する活動、『5F活動』が必要ではないでしょうか。(下図参照)
5Fのこころ
では、5F活動の狙いとするポイントをご説明します。
1. Future (夢のある将来を描く)
今の企業にとって最も重要なことは、従業員に対し、将来への不安感を解消する方向づけを示すことです。 先行きに対する不安を取り除き、期待感を持たせることです。 そのために、トップ自らがグランドデザインを描き、それをミドルアップで実行する、これこそ日本型経営の強さです。
たしかに、混沌としている状況において明日を考えることは、大きなリスクを伴います。 しかし、発明家、社会哲学者のチャールズ・F・ケタリングは、「われわれは、すべて未来に関心を持つべきである。なぜなら、われわれは余生をそこで送らなければならないから」と言っています。
それでは、未来の計画を立てるために必要なことは何でしょうか。
顧客が現在及び未来において生きていく社会を理解しようと努めることです。 日本社会は、今回の大震災で今まで描いていた未来像を描き直すことが必要になったと言えます。 社会を形成する人の価値観がどう変化しているのか、想像してみましょう。 今までの延長線上ではなく、新たな価値観が出てくることは、間違いありません。 どのようなビジネスであっても、社会の変化に対応することが不可欠です。
経営管理者は、自分の貢献と成果に関して考え抜くことが求められます。 やるべきことの優先順位を明確にすること。 優先順位を決めなければ、前線から上がってくる目先の案件に対処するだけの「こなしや」になってしまいます。 部下への権限委譲の重要性が論じられていますが、実際は、あらゆる問題処理が上に向かってきているのです。 そのような状況で、多くの経営管理者は、あまりに多くの案件を処理しようとするため、本来トップとしてやらなければならないことができていないのです。
現場に近い管理者は少し先の将来を、経営幹部層は5年先、10年先を想像し、今から手を打っておくべきことを考え実行に移す。 それが、経営管理者の仕事です。 限られた時間の中でできることは、1つか2つでしょう。 だからこそ、自ら組織に貢献すべきことは何かを掘り下げなければならないのです。
2. Field (徹底したフィールド重視)
どんな企業も将来どうなりたいのかを明確にする必要があります。 一方で、目の前の課題を着実に処理することで今日の業績を確保することも求められます。 足元をしっかりすることが明日の姿に影響するのですから、今日の活動を明日の姿と連動して選択することが重要です。
そのためには、現場に出向き、そこで考える臨場感覚を持つことが大事です。 パソコンを駆使して情報を集めるのは上手だけれども、フェイス・ツー・フェイスの情報の取り方、情報を読む力、先見性、判断力が弱い人が増えているようです。 しかし、パソコンさえ操作できれば誰でも入手できるような情報は、実務家にとってはあまり価値がありません。 本当に重要な情報は、昨日までの情報でなく、現場の今の情報なのです。
3. Fact (真実をつかむ)
データというものは、小さい数字が大きい数字より強い場合もあります。 数字は小さくても、前例がないから、これから大きくなる可能性がデータの中に隠されていることがあるのです。 それを読み取るのが、真のデータの読み方です。 マーケティングデータは特にそうです。
今は、マクロよりもミクロが読みにくい時代です。 前例がないからこそ、深く考えることが求められるのです。
4. Feeling (変化を読み取る感性)
情報の中から本質を見抜く力、その意味するところを読み取る先見性、選別する判断力。 それらが非常に重要です。
これからは、目標を達成する能力よりも、目標を選択する能力が問われます。 いくつかある選択肢の中から、今ある資源を最大限活用して成果を上げるために最も適切なものをかぎ分ける鋭い感性が求められます。 つまり、戦略発想が必要となるのです。
5. Figure (ありのままを受け入れる)
イノベーションを実践するのは、人です。ネットワーク中のネットワークは、人のネットワークです。 昔も今も人と人のネットワークが最も大切であって、いくらコンピュータ社会になろうとEメールが盛んになろうとも、それを過信してはいけないのです。
選択した方向をメンバーに指し示し、その狙いや役割を粘り強く訴え、納得してもらいます。そして、個々のメンバーが自律してやるべきことを確実にやる風土や体質をつくることが必要です。 現状を脚色せずありのままに受け入れ、コツコツ一つひとつの課題をクリアしていくチャレンジ体質が求められるのです。
5F活動による改革実践
直接顧客やマーケットと接点をもつ営業部門を例に、5F活動を通じた改革のあり方を示します。(下図参照)
まずは、真実を把握することです。 自社商品やサービスを提供する顧客の真実の姿が見えているか、そして、その情報が社内で共有できているか、再確認します。 顧客を取り巻く環境が大きく変わることにより、顧客の求めるものが変わるのは当然です。 単に、販売先だけでなく、購入に関わる人、実際に使用する人などまで踏み込んでいくことで、変革に向けた気づき力が高まるのです。
真実が把握できたら、それを関係者間で共有し、多様な視点から的確な対策を検討します。 ここで注意すべきことは、現状を打破する革新施策をいかにして出せるかです。 営業マンは、営業マンとしか付き合わない、製造現場は、その部門の人間としか付き合わないといったケースが多く、異分野の人々との横のつながりが持ちにくいようです。 これでは、本来の横ネットワークが生まれず、現状の延長線上の対策しか出てきません。
立場上対立しやすい部門や人間同士のコミュニティをどう形成するかが課題です。 そして、徹底実践を通じ、プロセスと結果を見えるようにしながら、小さな成果を積み重ねていくことです。 その継続により、大きな成果を共有実感できるのです。
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