お問い合わせ

第50回 「新規市場参入企業のマーケティング戦略(1)~4つの市場進出パターン~」

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

新規市場参入企業の進出パターン

新規市場参入企業とは、他社が既に開拓している市場に対して、新しく進出した場合、または、これから進出しようとしている企業です。 新規市場参入企業が市場に出ていく場合、または、既に進出していて先発企業を追い抜く場合にみられるパターンには、次の4つがあります。

   1.市場割り込み型
   2.代替需要型
   3.新規需要開発型
   4.販売革新型

1.市場割り込み型
最も一般的な進出形態です。先発企業が開拓した市場へ新たに割り込んでいくやり方です。 この割り込み型進出は、製品ライフ・サイクルが導入期もしくは成長前期にあることが重要条件になります。将来に向けて市場が大きく拡大する可能性がないと、割り込む余地がなく、成功確率が低くなるからです。 先発企業が中小規模の場合、または、新規市場参入企業が販売力(流通チャネルやプロモーションなど)の強い大手の場合には、成功確率が比較的高くなります。

2.代替需要型
同一機能または、より高度な機能を持つ新しい製品によって、進出もしくは先発企業を追い抜くタイプです。 この新製品が先発製品に対し、安いか、プラスアルファ機能を持つか、などの優位性がなければ進出は困難でしょう。 先発製品を斜陽化させるやり方であり、製品次第では、全部置き換わることも可能です。 ポータブルプレーヤーにおけるiPodなどがいい例です。

3.新規需要開発型
先発製品の代替でなく、全く新たな製品によって潜在需要を顕在化して、進出または追い詰めていくパターンです。 市場をセグメント化して、それに合った新製品を開発します。 それによって、新規需要を起こし、市場を獲得するのです。 このタイプでは、ビール関連市場における発泡酒やノンアルコールビール飲料などが好例です。

4.販売革新型
製品そのものでなく、販売方法による革新であって、例えば、インターネットインフラを活用した販売方式などがこれに属すると思います。

上記2、3、4は、その内容にもよりますが、いずれも大きな革新が伴います。先発製品に対する徹底的な異質化によって競争するやり方で、新規市場参入企業の成功率は比較的高いようです。

市場割り込み型進出の難易度

市場割り込み型は、市場進出時の環境条件や企業の総合力が成功、不成功につながります。その成否に影響を与えるものは、主に以下の4つが考えられます。

1.ライフ・サイクル
市場割り込み型の場合は、その進出時期が、導入期、または成長前期にあることが大事だと述べました。 これより後になるほど成功率は低くなります。成長後期に出される製品は、代替需要型が多いのです。 ライフ・サイクルの導入期もしくは成長前期が進出時期として重要な理由は2つあります。 一つは、この時期は、多くの消費者やユーザーにおいて、どこの製品が良いとか悪いとかがまだ浸透しておらず、ブランド評価が固まっていないからです。 二つ目は、これからまだ市場が伸びる可能性があり、市場が流動的で割り込み余地が大きいからです。

2.先発企業のシェア集中度
先発企業1社のシェア集中度が非常に大きい場合(例えば、70%以上のシェアを占めている)には、新規市場参入企業の進出または追い抜きが非常に難しいといえます。 これは、特定ブランドが消費者やユーザーに深く浸透しているからで、商品名=ブランド名の関係にまで発展している場合が多いです。(化学調味料...味の素、ケチャップ...カゴメなど)
このようなブランド浸透力を持つに至った理由は、色々考えられます。 例えば、製品の導入期から成長期までの期間が長かった場合。市場がなかなか形成されなかったり、その企業だけが有する特殊な技術やノウハウによって独占時代が長かったりしたケースです。 要するに、新規市場参入企業の進出が遅れた場合です。
このように1社のシェアが大きい場合は、消費者やユーザーは、同じ品物でも先発を一流品、新規市場参入を二流品と評価する傾向にあります。 すると、価格差がつき、新規市場参入企業の広告投入もそのカテゴリー全体の認知度を高める役割しか果たさなくなってしまいます。 このような場合は、単なる割り込みでなく、使用層を特定した上で、製品を差別化することが不可欠です。

3.先発企業の流通組織
先発企業の流通組織が強力な場合には、同じような製品による競争では、進出または追い抜きは困難でしょう。 特に次のような場合には、先発企業の流通組織が強力です。
  ・流通段階で加工がなされ、その技術指導などで相互の関係が強くなっている場合
  ・資金援助などによって系列化される場合など
先発企業の流通チャネル網整備の程度や、企業と販売店の歴史的事情、資金援助関係などで排他的な組織が形成されているかどうか、慎重に検討する必要があります。 そこに、進出の難易度を判断する決め手があり、必要な手口が横たわっているといえます。 先発企業が強力な流通組織を持つ場合に、先発企業にない製品または先発の弱い製品で対抗するのであれば、ある程度の食い込みが可能となります。

4.企業イメージ
普及品製品企業が高級品市場へ新規参入として進出する場合、普及品としてのイメージが先行してしまい、高級品への進出移行に非常に不利になることが多いです。 逆に、高級品企業が普及品市場に進出する場合は、高級品のイメージによって有利になるケースが多いようです。

代替需要型・新規需要開発型の進出

mk50_1.jpg

代替需要型・新規需要開発型は、一般にライフ・サイクルの後期、すなわち、成長期を過ぎて、成熟期に達してからの市場進出または、先発追い抜きの時に多くみられます。 ライフ・サイクルが後期になると、市場の伸びも小さくなり、先発製品のブランド力、流通組織も相当固まっています。このような状況では、市場割り込み型の同じ製品での競争または、先発製品との違い(デザイン、種類、価格等)が曖昧な製品では成功の可能性は低くなります。(上図参照)

mk50_2.jpg

そこで、製品革新が代替需要・新規需要開発につながる重要な条件となります。 成長前期は、市場自体が伸び、先発企業と新規市場参入企業で需要を分け合う余地が大きいのです。 また、今後拡大する市場領域では、まだブランドが固まっていません。 しかし、成長後期になると、市場の伸びは小さくなり、進出企業によって分け合う余地も小さくなります。 市場形成から時間が経過していることから、先発製品ブランドの浸透も大きくなり、同じ品質や価格に大きな差がみられない場合は、先発製品が有利になります。(上図参照)

このため、先発企業の製品に代替していくものか、または新しい需要が生み出せる製品でないと、先発の(シェア)地位を崩すことは難しいといえます。 つまり、先発製品に対する強力な新しい評価基準、選択基準を示すことが必要であり、先発製品と違った領域に入るような製品を打ち出すことです。

コラムトップ