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第55回 「競争戦略における商品力とは」

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

ライフサイクルと商品の差別化について

マイケル・E・ポーターは、事業における競争優位性の確保に必要な3つの基本戦略として、「集中化」「コストのリーダーシップ」「差別化」をあげています。特に、競合他社にないコア能力をテコに、新しい価値を生む事業モデル構築の重要性を唱えています。

多くの企業は、技術の差別化による価値づくりを目指していますが、現実にはなかなかうまくいきません。 商品のライフサイクルという観点から商品の差別化をとらえた場合、ある一つの基本原則があります。

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まず、新商品が導入される「導入期」には、"ハード的価値"で差をつけていくことが必要です。 "ハード的価値"とは、"品質"、"性能"、"機能"の違いで競争するということであり、先発企業としての利潤を得るというのは、このあたりです。

次に、多くの企業が参入し、市場規模が大きくなる「成長期」を迎えます。 この時期には、"ソフト的価値"で差をつけろと言われています。 "ソフト的価値"とは、"デザイン"、"パッケージ"、"ネーミング"による差別化です。 例えば、金融業界における保険、証券、信託などを考えてみると、中身は同じですが、ネーミングだけが違うというのがほとんどです。

ところが、商品が「成熟期」に入ると、ハード的価値+ソフト的価値でも差別化することは難しく、そこに新たな価値を創り出していく必要が出てきます。 "情報的価値"すなわち"意味的価値"による差別化です。 つまり、"生活を豊かにする情報が提供できる"ということで差をつけることが重要性を持ってきます。 お客さまから見て、生活が豊かになる情報を、その商品やサービスは持っているか、ということです。

例えば、電子レンジをとりあげてみると、当初は冷たいご飯を温めたり、お酒を温めたりといった単純な機能で売れていました。 その後、多種多様な商品が出ることにより、商品の品揃えも増え、他社との違いを示すため、様々な料理メニューに応じた設定がされ、料理が不得意な主婦でもおいしい料理ができるソフト的価値が重要視されました。 今では、個々のユーザーニーズに応じ、単なる"おかず"としてのメニューづくりだけでなく、手作りの前段階をレンジで行う、あるいは、自分なりのメニューづくりをサポートしてくれる機能がついている商品など、生活をより豊かにする情報が提供されています。

差をつけるということは、非常に難しいことですが、情報的価値を持たせるのにハード的発想だけでは限界があります。 生活者にとって生活を豊かにする情報を提供するには、メーカーの立場を離れて、生活者がものを買う店舗に行ったり、そこに日々訪問している代理店の営業所に行ったりすることが重要になっています。 そういった現場でのサービスや演出を含めて、差別化情報というものを考えていかなければなりません。 例えば、食品であれば、生活者が買いやすいように小売店がどう演出してくれているか、そこに生活を豊かにする情報が付け加えられているかどうか、ということも含めて考えていく必要があるのです。

生産財の場合は、もし機械が故障した場合はどうなるのか、故障して工場が1日も2日も止まっていたら、ユーザーにとっては大問題です。 当たり前のことですが、現実にはこのようなケースが非常に多いのです。 メーカーや供給側の独りよがりではどうしようもないというのが、情報的価値に差をつけて競争する場合の課題です。 と同時に、メーカーとして、単に内部だけでなく外部にもそのような機能を併せ持たせた演出や脚本づくりが要求されているのです。

新商品売上ウェイトと売上高成長率の関係は

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新商品がないと売上は伸びない、シェア競争に負けると言われています。 新商品を多く出している企業は、売上成長に貢献しているという仮説が浸透しています。 新商品売上ウェイトが高ければ高いほど、営業競争力は強く、売上が上がることになります(上図参照。図の右上に数値が集まっています)。

図で見る限り、(相対的ではありますが)消費財に比べて耐久消費財は、明らかに新商品の構成比を注目しながらやった方がよいという結果が出ています。 一方、消費財は、耐久消費財に比べて「新商品が必ずしも決め手になっていない」ということです。 決め手になっている場合もありますが、なっていない場合があるのも事実であり、「成長に役立つその他の手法を考えていく必要がある」ということが言えます(Aにある企業は、新商品を強く言わなくてもそれ以外で売り上げが伸びていると考えられます。逆にBの企業は、新商品を出してはいるが成長していない、商品そのものが失敗したか、あるいは売り方の失敗か、いずれかであると思われます)。

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生産財では、建設機器やオフィス機器など機器型生産財は、新商品の売上ウェイトが成長率にある程度相関しているようであり、「当社の売上が伸びないのは新商品が出ないからだ」という営業の発言にも一理あると言えるでしょう。 食品素材や日用品素材など素材型は、むしろ、それ以外の要素で売上高成長率が決まっているようです。 素材の場合は、消費財と同様、新商品が必ずしも決め手にならないと考えられます。 したがって、それ以外に革新を実現するやり方を工夫していかないといけないのです。(上図参照)

新商品開発の方向とシェア競争

しかしながら、売上成長率でなくシェア競争の意味では、競合他社に負けないために新商品を次々に出さざるを得ないのが現実です。 そのような現状をふまえて新商品開発をみる2つの視点をあげます。

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1つは、購入者の「購入スタイル」が現在のままで推移するのか、あるいは新商品により革新が行われ、マーケット・シェアあるいは需要が拡大できるのかどうかといった視点です。 2つ目は、その最終ユーザー、生活者の生活スタイルが現在のまま使われる商品なのか、あるいはその生活スタイルを革新するような商品なのかどうかという視点です。(上図参照)

生産財の場合は、生活スタイルの部分を、ユーザーの生産スタイルが、その商品を買うことによって革新されるのか、あるいは、仕事のスタイルが変わる商品なのか、そうでないのか、という観点でみてください。 生産のスタイルが変わるというのは、例えば、今までは人力で進められていた仕事について、FA化される、ロボット化される、というようなことによって、明らかに生産スタイルを変えてしまうような新商品なのかどうかということです。

仕事のスタイルが変わるという意味では、IT化といった類が考えられます。 こういった類の新商品は明らかにここで言う革新の範疇に入ります。 営業との関連では、このような新商品により、従来は代理店を通じて販売(購入)されていたが、これからは、直接販売(購入)体制に変えなければ買ってもらえないということを検討する必要があると考えればよいのです。

消費財や耐久消費財の例で考えると、購入スタイルが変わるといった意味で、今日までに大きく革新をもたらしたものとしては、次のようなものがあげられます。 例えば、"無店舗販売"は、買うスタイルを大きく変えました。 "通信販売"、"カードの普及"、"その他の新しい業態開発"も明らかに購入者の購入スタイルを変えてきたものと言えます。 特に、ここ10年間における"インターネットの普及"は、大きな影響を及ぼしています。

他方、生活スタイルに大きく影響を与えたものは何かと言うと、"モータリゼーション"、"家電の普及"、"携帯電話の普及"があげられます。 こういった、従来の生活あるいは購入のスタイルを革新するようなものは、普及するのは大変ですが、一端普及すると新たな需要をもたらすのです。

逆に、スタイルを革新することのないもの、図表の①と②は、消費者、ユーザーから見た場合「もう十分間に合っている、あるいは、もっと変わったものを出せ」ということであり、あまり必要性が感じられません。 単に新しいものだから衝動買いするという程度での奪い合いに過ぎないのです。 したがって、①、②の開発だと、激しいシェア競争に勝つために新商品が不可欠なのだと理解しておく必要があります。 これに対して、③、④になってくると、より豊かな生活を求めるユーザーに、自分もという形で普及していきます。

ですから、今豊かで欲しいものがないというのは、ほとんどの場合現在の生活スタイルとか購入スタイルが前提になっている点に注意する必要があります。 人間は、あくまでも、もっと豊かな生活をしたい、それがどんなものであるかは分からないがやりたい、というものですから、ハイテク商品などで③、④につながるものはおもしろいように需要が伸びることが期待できると言えるでしょう。 いわゆる「成長期」という形で評価できる商品であるとみることができます。

このような考え方を基本に、生活スタイルを変えるほどの新商品はなかなか出ないという前提に立つと、購入スタイルの変化に着目する重要性が高まるのです。 主婦の6割以上が働きに出ることにより、それに合わせた購入スタイルにマッチするような提案が必要になってきます。 そこに力を入れていかないとシェア競争には勝てないことになるのです。

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