第57回 「エリア戦略の進め方(2)~エリア購買力とエリア特性~」
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
笠井 和弥
エリア購買力の着眼点
エリア購買力とは、「ある地域の生産、消費、文化などによる生活や経営のエネルギーが購買に影響する力」と定義づけられます。 マーケティングにおけるエリアとは、マーケティング活動に最も重要な区域ごとの人と経済の諸要因が一つの集合体として、目的に合った単位で把握できる地域を指すべきであって、行政区域とは一致しない方が自然です。 これは、県や郡といった地域でくくった場合特に顕著になり、一つの県の中に重点対応すべき地域とそうでない地域があるように、県全体の指標を漫然と把握しても、具体的なマーケティング指標にはなりません。
マーケティング戦略における地域の考え方は、基本的な条件として共通の地域指標に加え、更に、企業ごと、商品ごとの諸条件が加味されなければならず、最終的には、各企業の独自のものであるのは当然です。 しかし、このエリア購買力分析を中心とする地域特性把握を困難にする問題は、人口世帯を始めとして各種の経済文化の指標が行政区分ごとに整理されていることと、購買力という観点から十分なデータや地方習慣などに関する資料などの収集・整理が定量的にも定性的にも困難だということです。
したがって、マーケティング地域とは、企業条件、商品条件、それからその企業の直面するマーケティングステップなどの背景から、できる限り適切に判定された地域と言えます。 地域を、マーケティング活動体系の一貫として、行政区域を分解統合した考え方で適切に把握すべきであり、そのための特性分析こそが購買力分析の最も重要な点となります。
点から線、線から面へと膨れ上がっていく都市集中化現象は、今日の大きな課題であり、その動向は、マーケティング戦略を考える上でも重要です。 人口集中地区の占める面積の全国比は3.3%であり、そこに住む人口は全人口の66%を占め、この傾向はますます強まっています。 (※人口集中地区とは、国勢調査の調査区のうち、人口密度が1平方キロメートル当たり4000人以上の市区町村で、互いに隣接して人口5000人以上の地区を構成している場合、これらの調査区の集まりを指します。)
都市化現象は、マーケティングにおいて重要な課題ですが、首都圏など大都市集中化現象からおきた都市化問題と地方都市の都市化現象とは、若干特徴が異なります。 東京23区を例にとると、コミュニティマーケティング的な解析が既に不可能な状態になっています。 これに対して、地方の流通経済圏は、土地の地勢条件を基礎に、古くから地方中心都市を核に発達したエリアと考えることができます。 すなわち、比較的長期にわたり、古くからの産業、経済、文化の諸条件が同一のエリア内で一つのまとまりの中で発展してきたものや、隣接する大きな都市圏に浸食されて新しいエリアの中に包含されつつあるものなど、様々なエリアが存在しています。
そして、それらが一つひとつのユニットとして、それぞれの流通経済圏を形成し、日本全体を形作っていると考えられます。 あるエリアを抽象化しますと、中心都市は、近郊地帯(A)、中間地帯(B)、遠隔地帯(C)あるいは衛星市街地域などで取り囲まれています(上図参照)。 流通経路は、中心都市を軸に、それぞれの流れが描き出されています。 文化施設やその利用状況も、エリア内の交通条件やその他の特性上に描き出され、人間交流から全ての産業経済活動が展開されます。
以上は、一つの抽象化形態ですが、これらは地勢条件、歴史条件などを経て発生し、やがてこれが産業経済諸条件によってその影響力を踏まえ変化していきます。 そして、大きなエリアに包含されて一種の"子持ちエリア"を形成したり、また前述の(A)地帯に、新駅やショッピングセンターなど巨大な集積ポイントができると、このエリアは、中心が異動してゆがんだ形状を描き出したりします。 東京を中心とした首都圏は、多くの子持ち圏を持つ特殊なエリアと言えます。
エリア特性のとらえ方
エリア特性をとらえる第一の指標は、客観的な外部特性です。地理的特性、人口の集中性、交通機関と交通量・到着時間といった交通の特徴、気候と風土などです。
1.地形現象
■一級河川、標高600メートル以上の山
(例)静岡県は、富士川、大井川、天竜川と伊豆半島北部の山地で商圏が分かれる
(熱海商圏、沼津・三島商圏、静岡商圏、浜松商圏)
■鉄道、一般国道・高速道路
■フリーテリトリー(県境など、どちらからでも入れる地域)
(例)鳥栖(佐賀県、福岡県、熊本県の県境)
2.人口の集中度
■産業人口と機能別人口
・産業人口とは、一次産業、二次産業、三次産業といった産業別の人口で、一般に
成長性のある地域は、三次産業人口の伸びが高い
・機能別人口とは、昼間人口、夜間人口、就業者人口、労働人口、レジャー人口など
■人口移動の法則(スタンフォード研究所)
・人口は地価の低い方へ流れる
・人口は、レジャー地域に向かって移動する
3.交通機関と交通量、到達時間
■交通量とは、鉄道運転本数(特急や急行の本数)、車の通行量
■到達時間
・最寄圏or2キロ圏(徒歩15分の距離)、買い周り圏or10キロ圏(鉄道で15分の距離)、
通勤圏or30キロ圏(鉄道で30分から1時間の距離)、ドライブ圏or50キロ圏(車で1時間の距離)、
トラック圏(トラックで高速道路を使い1時間の距離)
第二の指標は、導入している商品構成、シェアとその推移、流通基盤、営業拠点など主観的な特性です。 この両面から、エリア特性をとらえることが、エリア戦略を考える重要な前提条件となります。 エリア戦略を立案する上でよく使用される基礎統計資料をあげると、国勢調査報告書、鉱工業生産指数速報、有効求人倍率・完全失業率・新設住宅着工・サラリーマン世帯家計調査・・・などがあります。
歴史的城下町、駅前商店街、新興住宅地、準工業地域など人口密度も世帯構成も購買力も消費性向もおよそ異なる消費者を相手に、一律な営業をしていては効果・効率共に悪くなります。 エリア戦略の成否は細分化にあるのです。 No.1をとることが可能なマーケティング戦略を立てるという目的から、自社で一番強みを発揮できるアイテムに一点集中し、なるべく狭い商圏で一位を獲得します。 必ずしも売上高一位を目指すものではなく、ある一点にフォーカスした一位をまず築くことです。
セグメントを一つひとつ攻略していった結果として、そのエリア全体でトップを獲得しますので、最初から設定エリアを大きくしてしまっては、No.1戦略の焦点がぼやけてしまいます。 オンラインショップ、HPなどヴァーチャルビジネスの集客においても、この戦略ポイントは有効です。 成功しているHPサイトは、例外なくその戦略をとっていると言っても過言ではありません。 つまり、そうしたサイトは、集客対象、扱うアイテム、ツールなど、どのレベルをみても、それ以上絞りきれないところまでセグメントを狭く決めています。 ヒットショップの形態と戦略をヴァーチャルショップに取り入れるなど、ヴァーチャルとリアルを並行させる手法が当たり前になっていくのではないでしょうか。
エリア戦略を立案する上で陥りやすいワナとポイントを以下に示します。
1.人口密度が高い地域は、見込客も多い分だけ強力なライバルが存在する(=No.1になりにくい)
2.エリアは、これ以上細分化できないところまで狭く深くする(参入阻止と時間の最短化)
3.エリアを決めたら、そこでNo.1になることに徹する(=隣接地域に浮気しない)
地域戦略を推進する上で、押さえておくべき考え方として、自社の実績が、シェア水準の格差に基づくものなのか、それとも、その商品・サービスのエリアにおける普及水準に基づくものなのかによって、対策は大きく異なります。 地域戦略の基本は、シェア競争をするか、新しい習慣を提案するかのいずれかに大別されます。 シェア水準が要因であれば、競争相手を特定化し、泥臭いこともやりながらシェアを奪うしかありません。
そのような点で、着目したいのはもうひとつの要因、普及水準の考え方を取り入れた提案営業です。 普及水準が問題である場合は、競争よりも顧客への啓蒙や提案が重要となります。 特に、普及率の低い地域では、徹底した啓蒙が必要になります。 また、普及率が低い商品は、安さを売りにするよりも、徹底した認知啓蒙が必要です。 そのため、最も効果的な方法は、顧客に商品を体験してもらうことです。 POPなどで訴求するよりもずっと効果的です。 低普及率の商品をよく売っている店は、必ずこの手法を実施しています。
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