第58回 「エリア戦略の進め方(3)~立案手順~」
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
笠井 和弥
エリア戦略の立案手順とは
前回は、エリア購買力とエリア特性についてお話しいたしましたが、今回は、実際のエリア戦略の立案手順をご説明します。
1.テリトリーの現状把握
自社の対象顧客を、取引の有無に関わらず全てをリストアップし、顧客マップに位置づけます。 顧客マップは、市街地図、一万分の地図などで、シール用紙の丸の大小で規模を、色分けでシェア、競合関係を意味づけます。 そして、テリトリー内の顧客分布状況を確認します。 「顧客の分布が偏っていないか」「地元・地盤強化がきちんとできているか」「全体でNo.1だったら、地元・地盤で強いか(自社から近いところは絶対優位のはずです)」 これをまず確認することです。 顧客マップを作れば、数字や数表では見えなかった情報が判ってくるのです。
2.テリトリーの細分化
対象市場を3つ~8つの商圏に細分化します。 ねらいは、戦略を進めるための細分化であり、拠点、セールスマンの担当地域を決める「割り当て」のことではありません。 戦略を分けるのに望ましい区域に分類します。 当初は、情報が不足しているため的確な再分化ができなくても構いません。 定期的に見直し、最適な細分化区分にもっていけばいいのです。
地域をまとめる基準は、「地域間のつながり」です。 たとえば、(1)県、市・町・村、(2)地形(山地、丘陵、河川)、(3)幹線道路、鉄道、大型建造物などを参考に細分化します。 また、細分化した商圏ごとの市場規模にばらつきがあっても構いませんが、目安として2倍まで、最高でも4倍程度の範囲内でおさまるように設定します。(上図参照)
3.エリア特性の分析
細分化した商圏がどのような特性を持っているかを検討する時のチェックポイントを示します。
まず、市場構造から3つのタイプがあげられます。 1つ目の「点市場」は、周辺地域との交流が少なく(影響を受けにくい)、局地戦市場、弱者向きの市場と言えます。 エリアマップで示した静岡県の例で言うと、伊豆商圏がこれにあたります。 2つ目は、「面市場」であり、これは平野部を中心とした広域市場であり、強者向きの市場と言えるでしょう(静岡商圏、浜松商圏など)。 この市場で弱者が勝つには市場をより細分化し、勝てる場面を作ることが必要になります。 3つ目は、「線市場」です。 河川、幹線道路(街道)、鉄道沿いに発展した市場特性を持っています。 この市場では、河川は「上流から下流方向へ向けた発展」、道路は「上り方向へ向けた発展」、鉄道は「ターミナル駅に向けた発展」の傾向が多くみられます。 たとえば、首都圏を一つのエリアとみると、多摩川上流から下流へ、道路は千葉、埼玉、神奈川などから都心方面へ、鉄道は、郊外から都心ターミナル駅に向けた市場形成が特徴的です。 市場構造面から戦略を検討する場合、強者は、「面→線→点」へ、弱者は、「点→線→面」の順で戦略ターゲットを設定するのが原則とされます。
次に、市場体質面から分類してみると、以下の2つのタイプに分かれます。 一つは「うちもの体質」と呼ばれる市場です。 この市場は、排他的、人間関係重視型の市場です。 特定商品や企業のシェア集中度が高くてその安定度も大きく、市場を攻め落とすまで時間はかかりますが、一度攻略しますと守りやすいのです。 もう一つの市場は、「よそ者体質」と呼ばれる市場です。 開放的・合理的な市場であり、参入する商品のシェアが分散し、そのシェア順位も不安定という特徴を持っています。 力を入れればそれなりの成果は出ますが、その状態を維持していくのは難しいでしょう。 一般的に、地方や歴史の古い市場は「うちもの体質」がみられ、新興地域は「よそ者体質」が強いと言われますが、競争激化で、どの市場も「よそ者体質」市場が増加しています。
エリア特性分析を行う3つ目の視点は、市場規模・成長性と競争状況です。 市場規模や成長性は、対象となる市場の正しい数値が把握できないときは、段階的評価(1.成長、2.やや成長、3.停滞、4.減少or地盤沈下)で行います。 競合状況は、現状の競合先だけでなく、新規参入先の動きも把握します。
以上のような特性分析をより分析的に進めるには、上図のような視点でエリアの格付を行い、格付ごとの対応基準設定に基づき戦略計画を立案します。 商圏の成長性を判断する時は、需要規模の変化など直接的定量指標が把握できないことも多いようです。 そのため定性的な指標など独自指標を設定して行います。(下図参照)
4.重点エリア(商圏)の設定
エリア戦略を検討する上で、エリアごとの対応方針は、先に示した「エリア格付別対応基準」に基づき行いますが、特に重点攻略すべきエリア(商圏)は、以下の考え方をポイントに選定します。
1.強いところを更に強くして、早く「No.1」にします。 弱いところは複数の原因があるので、戦略的な対応を行わないと成果に結びつかないのです。
2.「成長性が高く、マーケットサイズがあり、将来も利益のとれる市場」は、競合が激しいです。 強者にとって結果は大差がありませんが、弱者にとっては全く結果が出ないままで終ってしまう危険性があります。 弱者は、競合相手が少なく、一騎打ちの戦いを選択する方がやりやすく、結果も期待できます。
5.重点エリアの競合企業情報収集とローラー作戦の進め方
重点エリア攻略策を検討する際、競合企業の動向を把握しておく必要があります。 主な情報収集項目を示すと、競合企業の沿革、代表者、売上高(部門別にも)、扱い商品、テリトリー、拠点数およびロケーション、営業マンの数および社員数、営業担当者の名前、実力、顧客の評判、販促のやり方(商品の出し方、価格条件提示など)などがあげられます。
また、市場に点在する顧客実態の把握も重要ですが、特に重要なことは、自社の既存顧客だけでなく、未取引顧客も含めて市場に存在する全ての顧客実態を把握することです。 その方法としてローラー作戦を行います。 ローラー作戦を通じた顧客の全数調査が、市場の見方に対する固定観念の打破に繋がります。 ですから、この調査は、営業マンだけでなく、関係スタッフも加わって短期間に集中的にやることが望ましいです。 単なる調査に終わらず、既存・新規顧客と面談、PRのチャンスになります。 ただ、多くの顧客に面談していただくためには、きっかけづくりに工夫が必要です。 相手に喜んでいただけるちょっとした(安い、小さい、軽い)お礼を準備しておくことなどです。
また、調査項目は、結果が出たらすぐ行動に移れるものに絞ることが成功のポイントです。 あれもこれもと欲張って収集しようとすると、その精度に大きなばらつきが生じ、調査の負担も大きくなります。
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