第63回 「キープロセス(5):営業第一線を変える その5 ~商品の浸透プロセスを変える~」
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
笠井 和弥
今回は、営業体質を変え、営業活動成果を上げる最後(4つの目)のプロセスについて考えます。 新しい商品やサービスの開発は、企業発展の最も重要な課題です。 しかし、市場が成熟化する中で、新商品・サービスの浸透確率は低下し、市場に定着できる商品は限られます。 営業活動の側面からその要因を掘り下げ、商品・サービスの市場浸透力を向上させるためのチェック・ポイントを示します。
商品が市場に浸透しない背景
日本企業は、伝統的にプロセスをとても大切にする考え方が根強く、それが繁栄の源泉となっていました。 また、飽きのこないロングセラー商品づくりを目指した経営を尊重してきました。 そのため、安易なモデルチェンジは消費者のためにならないとして、簡単には使い捨てられないように意識した商品づくりを行ってきたのです。 モノ自体の良し悪しだけでなく、モノになる前や後のプロセスの良し悪しがもっと大切だと考えられていました。 このような経営風土のもと、多くの日本企業は、戦後の高度成長期を頂点として、次々と新しい大きなアイデアを商品化してきたのです。
しかし、近年において、市場に大きなインパクトを与えるような商品やサービスは著しく減少しています。 なぜでしょうか? 事業の基本的なことから注意がそれてしまったことが原因ではないかと考えます。 自社商品やサービスのもつ特徴がどういう顧客に訴求できるか、また、どういう人に訴求すれば他への波及効果が期待できるかなど、ターゲット顧客を曖昧にしたまま、同じ売り込みスタイルから脱却できていないのです。
顧客は、最初に商品を知るチャネルと継続的に購入するチャネルが必ずしも同じではありません。 例えば、高齢者向けの健康食品の中には、初めて使用する際は、カウンセリング機能の充実した薬局で購入しますが、リピート購入は、足を運ばなくても購入できる通信販売チャネルから購入するケースが増えています。 このように、顧客の商品やサービスの購買特性を十分踏まえた上で、PR訴求を進めないと市場浸透は進みません。
商品やサービスを供給する企業の役割は、流通が売りやすい条件づくりをすることです。 流通が売りやすい条件づくりを行うことも営業の重要な役割なのです。 しかし、実際には、市場における自社(商品・サービス)の力量と顧客の評価を客観的に判断して、何が必要で何が可能かといったことから目が離れてしまい、顧客と自らの関係を見失ってしまったのではないでしょうか。 顧客は何を望み、求めているかを忘れ、顧客から離れたところで商品の売買を行っていたのではないでしょうか。 営業マンの活動も、自社の商品が持つ特性を十分理解せず、価格交渉中心の活動に重点が置かれているのが、多くの企業の現状ではないかと思われます。
商品浸透力を向上させる上で押さえるべきプロセスは?
それでは、商品の市場浸透力を向上させる上で、営業活動面で押さえるべきポイントは、どこにあるのでしょうか。 食品や日用品などの一般消費財を例に考えてみます。 商品の市場浸透力を高めるには、以下の3つのプロセスから考えることが必要です。
・自社に代わり商品やサービスを浸透するパートナー企業を上手く活用する力 ・・・ 流通の巻き込み力
・顧客が商品やサービスに直接触れる店舗に、自社商品・サービスの特徴を伝える力 ・・・ 店頭化力
・顧客に直接自社商品・サービスの特徴を伝える力 ・・・ ユーザー動機づけ力
それでは、3つのプロセスについて、それぞれ掘り下げていきたいと思います。
まず、「流通の巻き込みプロセス」のチェック・ポイントを考えてみましょう。 このプロセスは、「トップの巻き込み力」、「窓口部門の巻き込み力」、「有力セールス巻き込み力」から構成されます。
1.トップの巻き込み力
(1)継続的に会う機会を設けているか
(2)重点訴求ポイントを整理して話しているか
(3)関係部署へ具体的な目標を指示してくれるか
2.窓口部門の巻き込み力
(1)継続的に会う機会を設けているか
(2)重点訴求ポイントを整理して話しているか
(3)トップ、営業部門へ積極的に推奨してくれるか
3.有力セールス巻き込み力
(1)継続的に会う機会を設けているか
(2)重点訴求ポイントを整理して話しているか
(3)担当先に対する具体的な販売目標を設定してくれるか
次は、「店頭化プロセス」のチェック・ポイントです。
1.取り扱いメリット訴求力
(1)重点訴求ポイントを整理して話しているか
(2)取り扱いによる業績向上データを示しているか
(3)導入サポートの企画提案を行っているか
2.ツール提供力
(1)消費者にわかりやすい販促ツールを提供しているか
(2)他店の販促成功事例を提供しているか
(3)店員向けのワンポイントセールストークツールを提供しているか
3.店頭フォロー力
(1)店舗関係者と良好な関係をつくれているか
(2)店舗の疑問やクレームにタイムリーな対応を行っているか
(3)商品の陳列確保を行っているか
3つ目は、「ユーザー動機づけプロセス」のチェック・ポイントです。
1.エリア訴求力
(1)エリア顧客特性を把握しているか
(2)上記(1)に応じた訴求策を立案しているか
(3)上記(2)で立案した訴求策を実施しているか
2.店頭訴求力
(1)入り口付近での訴求策を実施しているか
(2)関連売り場での訴求策を実施しているか
(3)曜日、時間帯を考慮した訴求策を実施しているか
3.売り場訴求力
(1)目立つ売り場づくりを行っているか
(2)商品の優位置確保を行っているか
(3)曜日、時間帯を考慮した訴求策を実施しているか
以上のチェック・ポイントを参考に、貴社の商品の市場浸透プロセスで手を打つべき対象を絞り、改善に着手してください。
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