第64回 「業績評価を革新する(1) ~『目標』の評価システムはあるか~」
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
笠井 和弥
今回から、「営業の業績評価」について、3つの側面から解説いたします。 1つ目は、業績評価のあり方そのものについてです。多くの企業でよく見られる評価のあり方について、 事例に基づき考えてみたいと思います。2つ目は、業績向上策としての営業・フォース活用(営業活動資源)の革新についてです。業績を向上させる上で、「セールス・フォースの再開発」の余地は大きいです。そこに潜む課題を掘り下げることで、業績アップにつながる可能性を探ってみたいと思います。3つ目は、業績評価において営業マンのスキルをどう捉えるかという点です。営業革新をはかり業績向上に結びつける上で、避けられない課題として"営業マンの育成"、つまり、営業マンのスキル・アップをどうすべきかといった問題があります。営業マン個人の力量に頼るのではなく、仕組みとしてどのように業績向上に結びつけるのかについて、解説を加えます。
今回は、まず業績評価のあり方について考えます。
「目標達成率」による評価の限界
問題点を明確にするために、単純な例で考えてみることにしたいと思います。 仮に、A、B、C、3つの営業所があるとします。これら3つとも目標売上高(利益高でもよい)が100で、実績が、Aは80、Bは100、Cは120という結果が出ました。 このような業績の評価方式として、一般的には上表のような分析法がとられます。
営業会議では、未達営業所が検討対象として取り上げられます。 この事例ですと、Aは80%、Bは100%、Cは120%と目標達成率で評価され、A営業所の所長に議題が集中します。 ところが、A営業所の所長から以下のようなクレームがつきました。
「目標設定時の約束が忘れられている。A地区は、昨年実績が60であり、今期、精一杯がんばっても30%アップがよいところ、したがって、今期目標は80がギリギリの線であると申し上げた。 ところが、営業部長が"A地区は今期の当社目玉地区、つまり戦略地区として大いに伸ばしたい。 その意味では30%アップではどうしようもない。応援はするから倍増にしろ。"との指示が出て、倍増とまではいかないまでも70%弱アップの100という難易度の高い目標値を設定した、配慮が入らない評価数字はナンセンス」ということでした。
「当初、A所長案通りの80を目標にしていれば、達成率は100%だ。少なくともB地区よりほめられてよいではないか。さらに、C地区との比較が矛盾している。C地区は、昨年実績は140のはずなのに、マーケット条件の悪さを理由に今期の目標が100になっている。これでは、誰がやっても120売れるのは当然だし、100の予定を120も売ったため、予定外の20が逆にA地区の出荷遅れの原因となり、A地区では迷惑をこうむった。何しろ、現行の業績評価は気にくわない。矛盾している。即刻中止してほしい。やる気がなくなった...」とまで言い出す始末です。
これに似たケースは、わが国企業では珍しいことではありません。 いかにも、日本的マネジメントのやり方だなどとも受け取れるでしょう。 もし、あなたが営業部長だとしたら、どんな対策を打ちますか? このケースには、様々な示唆が含まれています。 (ケースを単純にするために)営業所を3つあげましたが、実際には、もっと多くの営業所を展開している企業が多いでしょう。
そのようなことを想定し、A、B、Cを単一営業所ではなく、AはAに似た業績の営業所グループ、BはB類似グループ、CはC類似グループと考えた場合、この問題の結末はどうなるのでしょうか。 あるいは、A所長がもっと妥協性に乏しい人間で、営業部長の申し入れを執拗に断わり続けたとすれば、もしA所長が、もっと大人しく、内向的人間で、評価結果に文句をつけなかったとしたら、この会社の目標設定は一体 どんな形で行なわれ、その結果はどんなものになるのでしょうか。 また、この会社の業績評価制度はどんな役割を果たすことになるのでしょうか。 現実に則した形で想定してみてください。
いずれにしろ、業績評価とか業績管理と言われる現行制度には、改善余地が山積していると思います。 押せども売れない低速成長時代に入り、量よりも質が、そして価値基準模索型発想が要求されるようになってきています。 販売管理のやり方も、業績管理のやり方も、このような変化に対応していくことが不可欠です。 今までよかったのだからでは、すまされなくなってきています。 では、業績管理にはどんな発想が要求されているのでしょうか。 先のケースを材料として紹介してみたいと思います。
「目標達成率」と「対前年比」の2本立て評価の限界
上述のケースを掘り下げて考えてみましょう。 A所長は、目標達成率だけでなく、目標設定段階を評価考慮に入れろと言っています。 これには2つの方法が考えられます。 1つが俗に言う「前年実績比」で示される方法であり、もう1つが「チャレンジ目標向上率評価法」とでも言うべき方法です(上表参照)。
A所長の見解は、この「前年実績比」による方法を言っているようでもあるし、あるいは、これから紹介しようとする「チャレンジ目標向上率」の評価を主張しているようにも受け取れます。 わが国企業のこの種の問題解決法としては、一般的にレポートに「目標達成率」と「前年実績比」が併記される方式がとられることが多いようです(上表参照)。
この方法だと、ある程度の救助策にはなります。 Aの場合、目標に達していないが、昨年に比べれば30%以上の業績が上がっています。 Cの場合だと、達成率は120%だが、前年比86%にすぎません。 もし、売上の量的拡大が業績評価の中心であるとすれば、これでも補足的目的は達しているとみてよいでしょう。 事実、ほとんどの企業ではこのような見方がとられています。 しかし、もし、売上の単純な量的拡大だけが問題でなくて、もっと戦略的な要素が入ってくるとなると、この方式では混乱が生じます。 つまり、戦略的方針に沿ったチャレンジ目標が意欲的に設定され、その高い目標へのチャレンジが要求されるような場合には、「達成率」だけでもダメなら、「前年比」による評価も用をなしません。 したがって、上図の方式はむしろ目的を混乱させることになりかねないのです。
成長下の業績管理と、低速経済下での競争に打ち勝つための業績管理とでは、少なくともこの辺りが異ならなければ、評価そのものを茶番劇化することになるのです。 注意を要するところです。 もし、A所長が"会社の戦略方針に..."と説得され、その意図の下でチャレンジ目標を設定したのであれば、「前年実績比」の方法を持ち出すのはおかしいのです。 むしろ、「チャレンジ目標」のアップ率こそ評価対象として取り上げることを主張しているとみるべきです。 ここで言う「チャレンジ目標向上率」評価法とは、目標設定段階での目標そのものの評価であって、実績測定段階での実績評価とは目的も異なります。 できれば、「達成率」管理に対応する形で別の管理評価法と考えたいのです。
この評価管理2本柱の相乗効果こそが、これからの業績管理で求められる点ではないでしょうか。
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