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第66回 「業績評価を革新する(3) ~これからの業績評価法に向けて~」

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

これからの業績評価法をデザインする

前回課長氏が苦慮して作りあげた「プランニング評価モデル」は、その着想といい、意図するところといい、確かに革新的ですばらしい内容です。 しかし、よくよく考えてみると、実務に導入するには、この着想にも大きな抜け穴があります。 それが何であるのか、仮説例に適用しながら考えてみたいと思います。

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まず、A営業所の業績を、素直に表1を用いて評価してみます。 プランニング段階での目標チャレンジ評点は、目標向上率(目標:100)÷(前年実績:60)ですから、表1の該当欄からして1.66となります。 これがプランニング段階でのA営業所長の持点です。

これに対して、実績結果は、(当年実績:80)÷(目標:100)=0.8です。 この結果、A営業所の業績評価は、達成率80%にプランニング評点の1.6が乗ぜられて、(80%×1.6=128)ということになります。 つまり、「達成率が80%だから駄目だ」ではなく、目標チャレンジ評点が大きく買われて、貢献度は128%相当と評価されることになります。 この限りでは、当初、課長氏が意図した「プランニング段階で、プランニングそのものを好ましいと思われる方向にコントロールする狙い」は、十分に組み込まれたことになります。

しかしながら、このケースにみられるように、達成率が悪くても、目標チャレンジ評点が高ければ業績を高評価してもよいのか、という疑問が残ることは否定できません。 この疑問を解明するために、ケースをさらに追加して、検討してみることにしましょう。

今仮に、目標が100ではなくて、当初A営業所長が抱いていた、80が選ばれたとします。 ここで想定できることは、上記ケースに比べ、目標チャレンジ評点は下がるということと、逆に達成率はアップするということです。 では、その結果、両ケースの場合の業績評価はどうなるのでしょうか。 この点を計算手順にしたがって、過程を追ってみましょう。

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(1) 目標チャレンジ評点 ・・・ (目標:80)÷(前年実績:60)=133%=1.2  (表2より)
(2) 目標達成率 ・・・ (当年実績:80)÷(目標:80)=100%
(3) 業績評価(貢献度) ・・・ 上記(2)×(1)=100%×1.2=120%

つまり、達成率は100%ですが、目標チャレンジ率が133%で、評点1.2が与えられています。 したがって、貢献度は120%に相当し、達成率オンリーよりも高い評価結果が得られるということになります。

そこで、先のケースと比較してみましょう。 評価結果は128%対120%です。 同じ売上実績高で、達成率が高いほうが8%だけ低い評価を受けています。 これは、目標チャレンジ意欲の差が、達成率の差以上に高評価される仕組みがとられていることに他なりません。 本当にこれでよいのでしょうか。 このケースの場合、達成率が80%対100%と、一方がマイナスで他方がプラスなだけに、何か釈然としないものが残ります。 今もし、これが100%対110%、あるいは110%対120%といった、達成率がともにプラスである場合なら、この目標チャレンジ評点の差が貢献度に反映しても不自然ではないのですが...?

問題をさらに掘り下げるために、目標を120と高くとって考えてみましょう。 この場合の評価は、

(1) 目標チャレンジ評点 ・・・(目標:120)÷(前年実績:60)=200%=2.5  (表2より)
(2) 目標達成率 ・・・ (当年実績:80)÷(目標:120)=66%
(3) 業績評価(貢献度) ・・・ 上記(2)×(1)=66%×2.5=165

つまり、達成率は66%と極端に悪化しますが、目標チャレンジ評点が高いため、貢献度は165%相当ということになります。

ここまでくれば、問題は明白です。 課長氏の気づいた"抜け穴"とは、達成率を野放しにしていたのでは、せっかくの目標チャレンジ意欲の高評価政策もザル洩れになるということです。 これでは、目標だけが高くかかげられ、達成率への関心や努力が軽視されかねません。 一考を要するところです。

実績結果に対する評価方針設定の重要性

なるほど課長氏は、従来の「達成率」だけによる評価の盲点を、プランニング段階でのプランニングそのものの評価の欠落に求めました。 そして、この評価基準を、企業の戦略目的や管理方針からみた「好ましさ」の程度に求めて、「政策的評価係数」の導入に着眼しました。 この限りでは、とにかく、抽象的で、理念の空回りになりがちなポリシーの具体化に成功したと言えます。 そしてまた、そうすることにより、ポリシーの徹底化、定着化は促進されることが期待できることも、うなずけます。 にもかかわらず、「プランニング段階で、プランニングそのものを、好ましい方向にコントロールできる仕組みそのもの」は立案できたけれども、実績結果を無視して野放しにしておくと、それは、肝心の実体管理を放置した、机上空論的な評価システムになる、ということです。

これでは、実体をともなわない評価法、管理法という批判はまぬがれません。 実体の管理も伴わせるためには、実績結果も望ましい方向にコントロールできる仕組みが同時に用意されなければ、意味がありません。 これが、課長氏がハタと困り、ケース・シミュレーション結果から教えられた教訓なのです。

実績結果を好ましい方向にコントロールできる仕組みの導入には、まず、実績結果に対する評価方針が明確に打ち出されなければなりません。 たとえば、「達成率法」そのものには、それが意図的に加工されない限り、「率は高いほうがいいに決まっている」とか、「できるだけ頑張れ、高いほうがいいぞ!」といった考えが暗黙裡に前提となっています。 これでは、管理する側にも管理される側にも、甘えがあります。

「当社の達成率は100%が最高。それを超えるものは、それに満たないものと同罪。ペナルティを課す」といった企業は少ないのです。 「まず、100%目標達成を目指し頑張れ、できれば、それ以上に...それ相応に評価するぞ」といった感じで、甘えの管理が行なわれているのが現状です。

ことほどさように、実績結果への評価方針は一見決まっているようで決まっていないのです。 ここで「実績結果を好ましい方向にコントロールできる仕組み」を導入する際に、実績結果に対する評価方針の明示から入らなければということは、この曖昧さを、おのおのの企業の体質とか企業の管理水準に合わせて、明確にすることから革新していくことの重要性を指摘しているのです。 たとえば、100%未満には累進的ペナルティ法を採るとか、100%超過も、どこまでは累進的ボーナス法を採るが、150%以上には適用しない、といった評価方針を明確にすることが望ましいと言っているのです。

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