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第70回 「活動目標の評価への組み込み」

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

新たな施策を「売り」に結びつけるには

前回お話ししたように、業績低迷地区の所長を任され、悩みを抱えるC所長。 もしあなたがこのC所長ならば、効率化第3弾として、どんな手を打ちますか?

このようなケースは、わが国の企業では珍しくありません。 たとえば、自社が弱い得意先の攻略を優先的に行なう施策を打つ。 しかし、すぐ成果にはつながらず、下手をすると、「売上げが落ちますよ」と営業マンに開き直られることもあります。 つまり、結果としての成果にかまけて、成果を導き出すプロセスのチェックを嫌がるのです。 もちろん、結果がよければ、プロセスをうんぬんする必要はありません。 しかし、現実、なかなかそうはいかないのです。 むしろ、結果がよいとき、あるいは結果のよい人は、プロセスの重要性をわきまえ、快く受け入れてくれます。

逆に、結果が思わしくないとき、または結果の思わしくない人ほど、プロセスの介入をいやがる傾向が強いのです。これは、売れるときには販売費もかからないけれども、売れなくなるとやたらと経費ばかりかかるのと、ちょうど同じ営業現象ではないかと思われます。 それだけに、営業活動の改革は、「言うは易く、行なうは難し」の典型みたいなものと言えるでしょう。

いずれにしろ、新たな施策を「売り」直結にまでもっていくには時間がかかるし、「売り」に結びつけるにはそれなりの工夫と準備、それに根気を要します。 「それなりの工夫」とは、まず新たな施策はすべて売りに結びつけるための道具である、という次元に立つことです。 そして、こういった発想と信念の次元から、どのような使い方をすれば「売り」に結びつけられるのか、を徹底的に掘り下げてみることです。 つまり、情況に応じたソフト・テクノロジーを見出すことです。 そして、それを日常の業務システムにまで組み立てていく思索と努力が、「売り直結」への決め手となると考えます。

新たな制度を導入するのは、簡単です。 しかし、これをいかにして「売りに結びつくよう仕組化するか」、そして、これをいかにして「定着化させていくのか」。 これらの具体的展開には、数倍もの知恵と根気を要します。 しかも、ここまでやらないことには、その制度は実務的には中途半端でわずらわしいものとのそしりをまぬがれないです。 それは、管理される側からすれば、管理者のための「自己満足」にすぎないと受け止められるのです。 これでは、「売り」に結びつくはずがありません。 営業マネージャーは、営業活動が効率的に行なわれているかどうかを、常に把握しなければならない義務があります。 部下の動きをどこまで掌握しているか、という問題です。 この場合問題になるのが、営業マンの日常活動をどんな方法と仕組みで把握しているのかということです。

部下の営業活動は、どうやって把握しているか

営業マネージャーが「部下の日常活動を把握している方法」には、現実には1つのパターンがあります。 彼らの実務経験から、実際に有効と思われているもの上位4つをあげてみると、以下の通りです。

1.営業日報
2.毎夕営業所に帰った時に、口頭で確認する
3.訪問計画表などによる行動管理
4.月次販売会議

もちろん、この手法の有効性は、どんな商品・サービスの営業活動の把握に使われるかによっても異なり、また、どんな販売チャネルで営業活動をしているのかによっても、微妙に変わってきます。 たとえば、下記のような傾向が見られます。

1.消費財では、「営業日報」の有効性ははずせない (有効支持率74%)
2.耐久消費財では、「訪問計画表」の有効性が目につく (有効支持率73%)
3.生産財だと、「口頭連絡」が欠かせない有効性を示してくる (有効支持率73%)
4.あるいは、販売チャネルが短い(つまり消費者直販型)営業では、「口頭連絡」が最重視される。 販売チャネルが長くなるにしたがって、「営業日報」重視型の傾向がみられる。
(以上、JMAC調べ)

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これら有効支持率の一覧を示すと、上表のように要約されます。この表から、上記4つの手法が有効性において、上位を占めることに変わりのないことがわかります。 いずれも、第一線のマネージャーにとってはなじみのある手法です。

もし、各社(または各営業所)間に「部下の営業活動掌握」の差が出るとすれば、それはこれらの4つの手法が以下の3つをどの程度満たしているか、です。

1.どれだけ実質的に「定着化」されているのか
2.その「中味」がどう工夫され、合目的化されているのか
3.実効があがるように、どれだけ「運用法」に工夫が加えられているのか

「こんなもの」と、これら基本的な4つの手法の定着化や使い方を疎んじていると、思わぬところに「遊び駒」が出てくるのです。 「遊び駒」をやたらと作るヘボ将棋では、勝負に勝てるわけがありません。

その意味では、上記C営業所長の打った手は、部下行動把握の定石に近いのです。 しかし、少なくとも上述3つのチェック・ポイントによる掘下げと工夫が行なわれたかどうかは、問題の残るところです。

営業活動の効率化施策

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次に、「営業活動の効率化」施策について、その使われ方や有効性をみてみましょう。 わが国企業の営業マネージャー213人を対象に、「営業活動の効率化施策」の中から、体験的に有効だと思うものを3つ選ぶアンケート調査を行なったことがあります。 その調査結果を要約すると、上表のようになります。

このような調査から言えることは、わが国の営業マネージャーが「営業活動の効率化」を行なう場合、まず手をつけるのが「目標管理」です。 製品や販売チャネルを問わず、目標管理の有効性はそれなりに認められています。 次いで、有効性が実務的に考えられているものとして、「営業マンの自主管理」「ミーティング等による内部OJT教育」「訪問計画等による行動管理」「十分な情報収集活動」の4つがあげられます。 この4つの施策は、業種によって、あるいは販売方法の違いによって、施策の有効性の程度が微妙に異なります。 しかも、これらは、いわば「プロセスの管理」施策であるだけに、受け入れる条件の整備いかんにより、期待効果の大きさは極端に違う、という性格を持っています。

しかし、「目標管理」だけは、平均的に圧倒的支持を受けています。 しかも、手続きだけから言えば、導入も容易です。これでは、上記C所長ならずとも、「目標管理」の徹底から営業マンの効率化を狙うのは当然です。 言ってみれば、「目標管理」の導入は、営業効率化への定石の一つと言えるでしょう。

けれども現実には、営業活動の効率化は、営業所間、さらには各社間で、非常な格差があります。 ということは、等しく「目標管理」を導入していると言ってみても、その中味、つまり管理の対象となる目標そのものを何に求めているのか、同じ目標項目であっても、その管理目標の高さそのものがどの程度で、それはどのような形で達成されているのか、といった点を注意してみる必要があります。

営業マンに与えている月間目標項目

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わが国の「営業マンに与えている月間目標項目」の採用は、多元化傾向にあります(上表参照)。 営業マンに対する目標の第一として、「売上高」がとりあげられることには異論がないと思います。 とすると、問題は「売上高」以外の目標です。

全業種合計で言えば、まず「訪問件数」の目標が多く、次いで「特定商品の売上高」「新規開拓件数」「回収率」「担当地区のシェア」「既取引店でのシェア」等々の順に採用率が高いのです。 もちろん、これは業種、販売形態、先発・後発といった競争状況等により、採用率も異なれば有効性も変わってくることは言うまでもありません。 たとえば、

1.訪問件数 ・・・ これは、耐久消費財の場合に最も多く(採用率67%)、販売チャネルが短い営業ほど多く採用されている
2.特定商品の売上高 ・・・ 特に問屋経由の販売形態をとっている場合(採用率68%)と消費財の場合(同62%)に多く採用されている
3.新規開拓件数 ・・・ 特に、耐久消費財に多い(同60%)
4.既取引店での売上シェア ・・・ 消費財、対小売店販売、先発よりも後発の場合、目標で管理されている

といった傾向があります。

このような目標の多元化傾向は、売上高という目標達成のために、それにつながる様々な手段や方法自体にも目標を設けて、それ自体をも管理しようという意図の現れと理解することができます。 この傾向自体は、否定されるべきものではありません。 それなりに効果が期待できます。 これが、「目標管理」の効率化への有効支持率の幅広さとなって現われているとみてよいかと思います。

問題はこの先です。 たとえば、これら多元化された「手段や方法」の目標は、当初は、個人の裁量や意欲の程度に応じて設定されます。 しかし、企業間の競争原理からすれば、やがて個人の力量をこえたところに、期待が高まってきます。 そのときにどう対処するかが重要です。 つまり、競争水準に目標が高まってきたとき、

1.目標そのものの立て方の仕組み
2.それを達成するためのプロセスをコントロールする仕組みの在り方

が問題になります。 事実、目標が競争水準で達成挑戦されるようでなければ、営業マンの効率化への道は、程遠いレベルにあると言わざるを得ません。 とすれば、有効な「営業活動の効率化」施策とは、本来このような課題に答えるものでなければならないはずです。

上記C営業所の場合、

1.目標管理の中味、つまり、目標項目にはどんなものが用意されていたのか
2.それらの目標は、個人の裁量と意欲の範囲程度のレベルだったのか、それとも、競争水準だったのか
3.それらの目標を達成するためのプロセスをコントロールできる仕組みがあり、それが営業マンの日常活動の中に意図的に仕組まれているのか

たとえば、訪問件数の目標があり、それが訪問計画表の中に折り込まれているかどうか。 さらには、それを「売り」に結びつけるという角度から、個別ミーティングによるOJT指導、アドバイス、援助が行なわれる仕組みになっていたのか、をたずねてみたいと思います。

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