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第72回 「スキル・アップ・システム化へのヒント ~業績評価制度の限界~」

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

スキル・アップの仕組みはこれでよいのか

販売管理の革新をはかる場合、これからの課題として、「営業マンの育成」、つまり、営業マンのスキル・アップをどうすべきか、といった問題があります。

営業マネージャーが部下を使う上での3大ネックは、「部下の育成法」と「部下の動機づけ」、さらには「部下とのコミュニケーション機会の不足」です。 これらは、テーマ自体としては目新しいものではありませんが、その徹底法、定着化方策にいま一段の開発革新が望まれているのです。 このような「部下の育成法」、とくに「営業マンのスキル・アップ」については、一般には、営業マンの業績評価という形までは、かなり普及しています。 また、その評価方法の革新については前述した通りです。

結果として定量的につかむだけでは問題だということで、次にとられる手が、「プロセス」の評価を加えるというものです。 たとえば、「商品知識」や「技術知識」、あるいは「市場知識」がテストなどの成績で判定され、上記「結果評価」にウェイト係数をかけて評点されます。 いずれにしても、年1回、直接上司によって評価されます。 言ってみれば、目標管理の拡大適用の域を出ていないのです。 しかし、人事考課と関連させた業績評価システムづくりが意図されている点では、それなりの成果があります。 問題は、このような業績評価システムを通じた能力開発、さらには営業スキルの向上が、これでよいのかといった疑問なのです。 これからの販売競争を考えた場合、第一線営業マンのスキルをどう強化するかは、大変な課題だと思います。

とすれば、これら営業スキルの向上を図るシステムとしては、これからどう革新すべきなのかを、いま一度考え直してみる必要があります。

スキル・アップ・システムの構築ポイント

C社は飲料メーカーであり、多くの営業所と多くのルート営業マンを抱えています。 同社の「スキル管理」は、次のように行なわれています。

営業マネージャーには、毎週1回、営業マンとの同乗販売が課せられています。 ここまでは真新しいことではありません。 この同乗販売を行なったマネージャーは「同乗販売レポート」の作成が義務づけられています。 しかもこのレポートは、きちんとフォーム化されていて3部作成されます。

記載項目は、訪問得意先ごとに

1.ニューオープン店か否か

2.プロコールか否か

3.拡販余地の有無
 (1)品種の追加余地
 (2)コール計画の改善余地

4.マーチャンダイジング
 (1)屋外広告の取り付け・補修の要否
 (2)店内広告の取り付け・補修の要否
 (3)価格表示の取り付け・補修の要否
 (4)ディスプレイの取り付け・補修の要否
 (5)広告効果の判定
 (6)ストックの適否

などが観察チェックされるようになっています。 これらは、記入後、1部は同乗した営業マンに渡され、他の2部は、部長報告と控えになります。 このレポートを渡された営業マンは、同乗時のOJT教育に加えて、レポート指示により、これら改善実施を行ない、その実施月日を記入後、マネージャーに報告しなければなりません。

C社の場合、このような2つのOJT教育に加えて、毎月、マネージャーによる営業マンごとのスキル管理表記載について、両者の対話が義務づけられています。 たとえば、

1.仕事の計画性
2.ディーラーの説得力
3.マーチャンダイジング実行力
4.新規開拓力
5.製品販売力
6.クレーム処理能力
7.グッド・ウイル(服装身なり、熱意態度)
8.キャンペーン達成力
9.安全運転注意力
10.書類作成

など、営業マンのスキルとして要求されているものについて◎、○、×の3段階で評価されます。

もちろんこの場合、前記「同乗レポート」および、マネージャーが単独で得意先を訪問したときの「観察レポート」がベースになることは、言うまでもありません。 しかも、この「営業マンスキル管理表」は、

1.マネージャーと営業マンとの対話によって、記入しなければならない
2.月々の結果を云々するのではなく、傾向としてとらえなければならない
3.あくまでも、本人の能力向上を目指したもので、時系列的な、いわばタテの評点推移が問題にされるのであって、決してヨコの比較、他人との比較に用いてはならない

といった取り決めがあります。

このように見てくると、C社のスキル・アップ・システムの特色は、

1.一度の評価ではなく、毎月、月間推移の形で話し合いが行なわれている
2.しかも、これらの話し合いの前提に、マネージャーに定期的に戦略づけられている「同乗レポート」を中心にした、OJT教育がベースとしてシステム化されている

以上2点があげられます。 つまり、日常業務の中に、マネージャーの職務の一環として定着化されることが意図されているのです。

スキル・アップは、机上ではなく、日常体験の繰り返しの中で、結果として現れるものです。 空廻りの業績評価の前に、このような配慮をシステムとして折り込むところに、これからの革新方向があるように思われます。 そしてまた、このシステムには、これからのマネージャーに要請される「リーダーシップ力」の強化といったものが内蔵されていることは、言うまでもありません。

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