第75回 「クリニックミーティングのすすめ(1)~概要とアプローチ段階~」
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
笠井 和弥
「クリニックミーティング」とは
「クリニックミーティング」とは、営業競争力強化を図るために、マネージャーが営業担当者に対して、1対1で行うミーティングであり、マネジメント力を発揮する場と言えます。 その進め方の特徴は、月・週・日といったマネジメントサイクルに応じ、フェイス・トゥ・フェイスの問診的なやりとりを通じて行うことにあります。 「クリニックミーティング」を上手に進めていくには、適切なマネジメントポイントを理解し、部下を指導することが重要です。 事例に基づき、ミーティングの進め方を、セールス段階に合わせて3つのパートに分け、それぞれのマネジメントポイントを確認していきます。
事例の設定
コピー、FAX、プリンターを始め、パソコンや業務関連ソフトなど、OA機器メーカーの営業所における、所長と社員とのターゲット顧客攻略活動についてのやりとりです。 ターゲット顧客は、GMエージェントという人材会社で、年商は50億。 オフィスやプログラム開発現場に人材を派遣しています。 現在、この会社に、複合機10台とパソコン100台を納入しています。 営業担当社員は、この取引先に定期訪問を繰り返しながら、ニーズ喚起を行ってきました。 今回は、総務部門からの紹介で、はじめて営業企画部門に訪問することになりました。
事例企業の営業プロセスは、大きく3つのプロセスに分かれています。 最初は、顧客訪問とニーズ喚起を通じて、見込み案件を発掘する「アプローチ段階」、そして見込み案件の周辺情報を提供しながら相手のニーズを確認する「アタック段階」、顧客キーパーソンに対して提案し、購入を決めてもらう「クロージング段階」です。
この事例を通じ、「クリニックミーティング」のポイントを確認していきましょう。
アプローチ段階の「クリニックミーティング」
所長: お疲れさま。短時間でミーティングをやろうか。昨日の訪問活動状況を教えてくれないかな。
社員: (訪問計画表を示しながら)昨日は、定期的に訪問しニーズ喚起を行う「種まき訪問」が2件です。 すでに提案依頼のあった案件に対する「刈り取り訪問」が1件でした。
所長: ところで、昨日は何件回る予定だったの。
社員: 5件です。
所長: 何がなんでも訪問回数を増やせ、というわけではないが、3件は少ないな。予定より少なくなった理由はつかんでいるよね。
社員: 昨日は経費精算の締め日で、まだ交通費の精算が終わっていなかったので、早めに帰社し、事務処理をしていました。
所長: なぜそのような状況になってしまったのか。
社員: いつも、締め日までためてからでないとやらないからです。もっと前から計画的にやっていれば、こうはならないと思うのですが・・・。
所長: 次からはどうしたらいいと思う?
社員: 締め日ぎりぎりに作業が集中しないように、前もってやるようにします。
所長: それじゃ、昨日進展のあった案件の内容を教えてくれるかな。
社員: (案件管理表を示す)
所長: 確かに、先週よりは見込み案件が増えたな。GMエージェントで、進展があったみたいだな。
社員: はい。やっと見込み案件が出てきました。
所長: そうか、良かったな。ところで、見込み案件の定義は何だったかな。
社員: 1つは、お客さまにニーズがあること。2つ目は、購入意欲があること。
所長: それから・・・・。大事なことが抜けているな。考えてみろ。
社員: ・・・・・わかりません。
所長: 3つ目は、お客さんの組織内で、案件がオーソライズされていること。 単に、窓口が購入意欲を持っているだけでなく、その上長も認識しているかどうかが重要なのだよ。
社員: そうでした。忘れていました。
所長: それじゃ、GMエージェントの話を聞こうか。確か、ここは3年前からの付き合いだったよな。確認のため、顧客カードを見せてくれるかな。
社員: この会社との取引は、現在複合機10台とパソコン100台を納入しています。 窓口の総務部門の谷口さんは、当社との付き合いも長く、いい関係ができています。
所長: そこまではわかった。GMエージェントは、他社のコピー機などは使っていないのか。
社員: 複合機は入っていませんが、競合企業がプリンターを3台納入しています。
所長: その情報は、顧客情報シートに記入しているか。
社員: いいえ。
所長: 情報シートに競合欄があるのは、何のためだ。把握した情報をきちんと書くのも、営業の仕事の一部なのだ。お客さまの情報は、会社の大事な資産なのだから、個人で抱えていないで、きちんと書いておこう。
社員: わかりました。今すぐ入力します。
所長: 案件の検討に戻ろうか。新しく出てきた名刺管理ソフトの案件内容について、説明してくれないかな。
社員: この案件は、総務の案件ではなく、営業企画部からの問い合わせです。内容は、営業の方が、みんなバラバラで名刺を管理しているのですが、最近個人情報保護の面から問題になっているそうです。
所長: お客さまのニーズは、本当にそれだけだろうか。個人情報保護だけで、名刺管理ソフトの導入検討の話になるだろうか。もっと別の理由があるかもしれないな。GMエージェントのビジネスを考えた場合、他に困っていることはないだろうか。
社員: そうですね。今、人材派遣ビジネスは、非常に競争が厳しくなっています。今回の案件の対象となる営業は、かなり少ない人数で、多くの新規開拓をしなければいけないと聞いています。 そうすると、新規開拓の効率を高めることが、急務の課題ではないでしょうか。
所長: いいところに気づいたね。そう考えると、そこに名刺管理ソフトのニーズはないだろうか。 お客さまが話していないからといって、ニーズがないとは決められないよ。 こちらが課題を想定してぶつけることで、お客さまの本当のニーズが引き出せることもある。
社員: 確かにそうですね。新規開拓の効率化を考えると、名刺情報を一元管理することで、ターゲット検索がやりやすくなります。 次回行く時に、その部分のニーズがないか確認してみます。
所長: ただ確認するだけでなく、現在ターゲット検索をどうやっているか訊くといい。 こうした具体的な事実を確認することが、後の提案の時に効いてくるということがよくある。 ところで、この案件はすでに競合企業にも情報が入っているのかな。
社員: わかりません。次回訪問時に、その部分も確認してみます。競合企業についても確認してみます。
所長: ところで、この会社の営業拠点は、1ヶ所なのか。
社員: 大阪と名古屋にも、営業所があります。
所長: そうか。そうすると、個人情報を保護しつつ、名刺情報を一元管理するには、クラウド(データを自分のパソコンや携帯電話ではなく、インターネット上に保存する使い方、サービスのこと)の方がいいかもしれないな。
社員: その部分も確認できていないので、次回訪問時に確認します。
所長: そうしよう。確かに見込みはありそうだが、情報不足だな。それで、次はいつ訪問する予定なのか。
社員: 来週月曜日に訪問する予定です。
所長: それじゃ、次回訪問するときの目的を整理してみよう。
社員: 次回訪問する目的は、まずターゲット検索をしやすくするためのニーズがあるか。もう一つは、競合企業がすでにこの案件に関与しているかどうかを確認し、さらに現在のターゲット検索方法の実態をヒアリングします。
所長: そこまでは次回訪問時に確認する宿題だな。その次は?
社員: 名刺管理ソフトのデモを行い、商品に関心を持ってもらいます。
所長: そうだな。いいデモをするためには、何をしたらいいかな。
社員: 差別化につながるポイントを整理して、その部分をいかに強調するかを考えます。
所長: いいデモをするためには、相手のニーズを想定すること。名刺情報を一元管理すると、どれだけ簡単にターゲットが検索できるか。 そこをデモの中心にしたらいいじゃないか。
社員: はい。わかりました。
所長: よし。次回またいい話が聞けることを期待しているよ。それじゃ、次の案件にいこうか・・・
「アプローチ段階」では、まず、見込ユーザーの判定基準を徹底的に理解させることが重要です。そして、具体的な事実をきちんと押さえ、その事実を報告するよう働きかけることを通じて、具体的な事実を調べておくことの大切さを教えます。また、ユーザーのニーズを知ることの重要性も教えます。部下の気づかなかった販売機会を指摘します。さらに、競合の動きを把握しておくよう働きかけます。
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