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第91回 「営業チーム力強化の5つの法則」

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

昨今の営業環境の変化として、需要が伸びなくなったこと、グローバル化を含めた競争環境の激化、顧客の要求レベルの高度化・複雑化など状況は大変厳しくなっています。
顧客要求の変化については、極論すれば、顧客自身が「何が欲しいのか」わからなくなってきているなかで、顧客対応つまり営業のあり方の見直しが求められていると言えます。例えば、従来なら商品説明をして価格の折り合いがつけば買ってもらえたものが、現在ではそこに新たな価値を提供しない限り、購買には結びつかなくなっています。このため、多くの企業で営業担当者の業務量は増加しているのです。
JMACで実施した「営業生産性に関する実態調査」(2008年1月、JMAC営業生産性研究会)でも、そのような傾向が顕著に表れています。

今回はこの「営業生産性に関する実態調査」から営業チーム力強化について解説していきます。

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「営業担当者の業務量は増加していますか」という設問に対して、「かなり増加している」「増加している」と答えた企業は、併せて70%以上になります(上図)。また、「営業人員は足りていますか」という設問に対してはでは67%の企業が「不足している」と答えています(下図)。

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総務省統計データ(労働力調査、職業別就業者数)を見ても、販売従事者の人数はここ数年伸びておらず、むしろ漸減傾向となっています。顧客からの要求レベルが高まり、営業の負荷が増している一方で、マンパワーは不足しているのです。このような状況では、いくら優秀な営業担当者がいてもそれは一握りであり、企業としてそのスタープレーヤー個人に依存することには限界があります。

また、BtoB(法人・組織営業)企業を中心に、「組織的な営業で課題解決に向かうこと」への関心が高いことからも(下図)、いかにチーム力を結集し、どのように競合との差別化を図るかということが、重要課題となっています。

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法則1 戦略として「攻めないところ」を決める

このような課題解決に向かうため営業チーム力を結集させるケースには大別して二通りあります。
ひとつは、営業部門内のメンバーで施策を立案・実行するケースであり、もうひとつは商品企画、物流、アフターサービスなど関係部門連携が不可欠なケースです。 いずれにせよ、これらの対策は個人の力量に任せていては、マーケットから受け入れられない状況への対策と言えます。

ここで考えるべきことは、自社(事業)が本当に対象とすべき顧客や市場はどこなのか明確になっているかです。大きな成長が見通せないなか、既存顧客・市場を維持することが重要なことはいうまでもありませんが、その中でも、これまでどおりの対応でよいのか、あるいは新たなターゲットを再設定する必要はあるのかを個人ではなく、組織として明確にし、そこから事業(の営業)の方向性をスタートさせることが重要です。

そのためチーム営業では、営業マネジャーやリーダーの高い戦略立案スキルが求められるのです。
ただ、現状は、このターゲッティングにきちんとエネルギーを投下している企業は少なく、チーム営業といっても実態は個人任せになっていることが多いのです。 現状の営業の現場では例えば、マネジャーが顧客を単にABC分析で評価する、ターゲッティングについての深堀が足りない、個々の営業担当者が行きやすい顧客ばかりを選ぶといった問題点が指摘できます。
チーム営業におけるキーワードは「重点化」です。まさにターゲッティングということになりますが、攻めるところを決めるということは、「攻めないところを決める」ということでもあります。

JMACデータベース(1985年以降の営業テーマ調査を行った企業の活動実態調査の蓄積データ)によると、営業マンの平均勤務時間は、1日約10時間で、その内訳は、社内時間、移動時間、顧客との面談時間がそれぞれ3時間、休憩が0.5~1時間となっています。
営業マンのコア業務と言える面談時間が3分の1程度であるのが実態です。業種や営業形態によりこの割合が違うのは当然ですが、同じ形態の営業マンでも、顧客との面談時間に要している時間は1~5時間と人により大きくばらつきがあります。マネジャーはそのコア業務の割合を高めるとともに、質の面でもムダを減らしていく努力をしなければなりません。 新たなターゲットを攻略するための時間を念出するには、まず、バックオフィスの整備を行い、社内の単純処理業務時間を減らし、スケジューリングの工夫で移動時間を削ることなどが考えられ、実際に施策としておこなわれています(下図)。

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その上で、新規ターゲットとの面談時間増加のためには、既存顧客の一部をターゲットから外すことは避けられません。 右肩上がりの時代と異なり、人員増が期待できないうえに、業務量が増えていることを考えれば当然のことと言えますが、この「行かない顧客」について個人任せでなく、組織としてきちんと対応を決めなければなりません。マネジャーはチームの(人的)資源を配分する力も高めていく必要があるのです。 更に、他部門と連携してチームを組む場合には、関係者の合意が必要ですが、その際に、相互認識にズレが生じてはうまくいきません。そのためにも、マネジャーのコミュニケーションスキルも、チームを機能させるために不可欠なものとなります。

法則2 「全戦全勝」を求めない

営業チームの運営は、スポーツチームの運営によく似ています。ただし、その大半は常時優勝するようなエリートを集めた代表チームなどではなく、スキルに突出した欠点がある選手が少なく、中位以下のポジションに甘んじているようなレベルのチームです。つまり、まともに上位チームと戦っても勝てない要素の多いチームなのです。

他社が追い付けないような明らかに優位性のある商品をもつ一部の企業を除き、ほとんどの企業の営業チームは、この立場にあると言えます。

スポーツチームにおける勝つための戦略例を見てみましょう。
例えば、野球の下位チームが上位チームに挑むとき、3連戦のうち、相手のエースが登板する日には新人を登板させて、勝ちにこだわらず経験を積ませ、二場手、三番手投手が想定される試合に焦点を当て、勝つための策を練るというのも戦略です。いったんゲームが始まってしまうと、監督の采配が結果を左右するのは、野球の場合は3割、サッカーに至っては1割と言われています。いかに事前準備をしっかりした上で、フィールドに選手をあげていくかがカギなのです。

営業チームの場合も同じことで、競合企業の実態を的確に評価した上、どこをターゲットにし(どこはターゲットから除外し)どういうチーム編成にし、どんな工夫をすれば勝てるかという事前の戦略立案がそれからの営業活動を左右します。どんな強豪チームでも全勝はあり得ないのですから、競合チームと比較した自チームの力量を的確に把握し、捨てゲームも念頭に置きながら、チーム全体で勝つ可能性を高めることが必要なのです。
そのためには、ただ寄り集まってメンバーの忙しさを確認し合う「仲良しクラブ」ではなく、勝つための知恵を結集できるチームに体質転換を図ることが重要です。

法則3 営業マンは売り活動の前に情報収集を

いま、現場の営業マンからは、自分の仕事に不安感を持っている人が多いように感じられます。
買い手の立場で考えると、これほど多くの商品やサービスが必要なのかと思うほど、市場には、違いが見えない商品があふれています。生活者に対するさまざまなアンケート調査でも「欲しいものは何もない」という回答が一位にあがってきます。

一方、ほとんどすべての企業の営業目標は常に前年比プラスで設定されていますが、その数字について、営業第一線の納得感が得られていないことが多々あります。GDPや業界予測値などのマクロ指標が微増にとどまっているにもかかわらず、大きな目標達成に向けたリアリティのある施策プロセスの説明がないなか、「棚ぼた」的な営業成果を組み込んだ目標設定をしているのです。立てた目標に対する
「見える化」ができていないのです。

そこで、チームとしての営業戦略を練ろうとする際、まず営業マンに実行してほしいことは、肌で感じた現場の生情報を集めることです。単なる期待数字や自分に都合のいい情報でなく、最低限これがあれば戦略を立てられるという情報をマネジャーに伝えることが重要です。

法則4 マネジャーはプロセスの「見える化」を

その情報を受け、マネジャーは、A社の案件はどのくらい時間がかかるか、B社で攻略すべきキーパーソンは誰か、といった情報に対して営業マンとディスカッションを交わし、部下に動機づけを行う必要があります。
マネジャーは、このようなプロセスを経て、営業戦略を策定し、その「見える化」を図るのです。

このプロセスによって、個々の営業マンは、自分がやるべきことが実感でき、まさに目標が具体化されるのです。ただ、営業マンが情報を収集するといっても、マネジャーはやみくもに多くの情報を求めるべきではありません。「こんな情報もあった方が良い・・・」などと細かく指示をしていると、営業マンは、指示された情報を集めることだけ行ってしまい、自ら感じ、考えるステップを放棄してしまう可能性があります。また、それにより、営業マンの活動量の許容範囲を超えてしまうことにもなります。

ここでも「収集すべき情報を精査し、当面不要な情報は捨てる」という発想が求められます。

法則5 プロセスのステップごとに評価する

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営業生産性を評価する指標として、多くの企業が「営業担当者一人当たり売上高」をあげています(上図)。プロセスよりも結果を重視していることが想定されます。

当然、結果に注力することは大事ですが、これだけだとすぐに成果の出るところ、これまで実績のある先ばかりをターゲットにせざるを得なくなります。その結果、近視眼的、自転車操業的な動きしかできなくなります。そして、先ほどの野球の例で言えば、捨て試合を任された新人投手は評価できないということになってしまいます。

生産財企業などの場合、規模の大きい新しい顧客を開拓しようとすると、結果が出るまで1年以上かかることもあります。つまり、1年間は売上ゼロということになりますが、それをどう評価したらよいのでしょうか。

例えば、第1ステップとして、顧客に対して提案書を出した事実があれば評価する。
それは、顧客から営業マンが認められた結果として依頼があり、受注につながる可能性が生じたと評価できます。

第2ステップとして、先方の窓口担当者ではなく決定権のある方にプレゼンテーションできたら評価します。

更に、クロージングまでもっていければさらに評価します。

このように、成果につながるプロセスを描き、評価の尺度を作っていくことが求められます。

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上表の「目標達成の診断視点」はその一例で、これにより営業マンのスキルのどの部分に力がついたのか、次にどの部分を鍛えるかといったスキルアップのプロセスが見えるのです。

また、この視点は個々の営業マンの評価基準であると同時に、チームの営業成果の現状を把握し、チーム力アップを図るためのツールとなるでしょう。

営業改革の成功は、営業部門だけではなし得ません。経営トップの理解とサポートは必須ですが、営業現場レベルで実行可能な改革を進め、全体に波及させていくことはそのきっかけになります。

(シニア・コンサルタント 笠井 和弥)

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