第96回 「見えない顧客心理をどうつかむか」
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
笠井 和弥
マーケティングは、継続的に買われる仕組みです。今日売れた、今月売れたということではなく、どうすれば売れ続ける状態を作るかということです。
思うように実績が伸びないとき、『なぜ売れないのか?』と考えることは、自社中心 = 販売中心の考え方であり、『なぜ買われないのか?』と考えることが、顧客中心 = マーケティング(営業部門だけでなく全部門)発想による考え方です。
今、着目しなければならないのは、顧客起点に考えるマーケティング発想です。
「顧客を中心に考える」とは、顧客対応の前に、顧客は、どんなことを考えているの?という仮説を立てて検証していくことです。つまり、<顧客の思いを想像する⇒仮説を立てる⇒試す⇒うまくいけば採用、うまくいかなければ変える>プロセスを仕事の中に取り入れることです。
潜在ニーズといわれる顧客心理をつかむことは、非常に重要です。しかし、顧客心理を本当にキャッチするには、アンケート調査やインタビューなどでは限界があります。 例えば、「あなたはどの政党に投票しますか?」と聞いても本当の裏側の心理までは捉えられません。
マーケティングで大事なのは、想像力=仮説立案力×仮説検証力です。
購買前心理の把握が大事
購買前⇒購買検討⇒購買決定⇒購入後(購入商品の使用)といった顧客の購買プロセスの各段階で、どう顧客心理が働いているのかを把握しておくことは非常に大事です。顧客心理を事前に把握した上で対応するのと、把握しないままその場対応をするのとでは顧客の評価は大きく異なります。
多くの顧客は、商品購入にあたって、事前に調べてから店舗を訪問しています。
今や、消費者は、場所や時間を問わずネット環境にアクセスし、自分が興味のある商品やサービスの仕様から口コミ情報などきめ細かい情報を手に入れることができます。現実に、多くの消費者は、商品購入前に当たり前のようにこのような行動をとっています。
このような消費者行動の変化を知らないで、店頭で、ネットでも分かるような情報しか持っていない販売員に、接客という付加価値は生み出せなくなっています。
消費者がわざわざ店に足を運ぶ理由は何なのでしょう?
事前に調べていた商品の現物に触ってみたい・試してみたいがその主目的でしょう。しかし、そのような状態の消費者が店頭に行っても現物がないと購入意欲は、一気に減退します。
筆者の体験ですが、新しく発売されたタブレットPCの情報を調べ、興味を持った商品を実際に触ってみたく、取り扱いショップを訪問しました。その日は、店に多くの来店客が押し寄せ、売り場ではすでに他の来店客が私のお目当ての商品を手に取って見ていたため、しばらく待っていました。
その間、ショップ店員からの声掛けもなく、何のフォローもありません。あまり時間がなかったということもあり、待ちきれなくなり、自分の目的が満たされないまま、店を出てしまいました。このような経験をされた方は多いと思います。現物はあるが、他のお客さんが触れていると待たないといけない。そのようなタイミングで店員が、触れる時間を決める、待ち時間カードを配るなど何らかのアプローチをすれば、手待ち客が何もしない時間=無駄な時間にならずに済みます。そこに体験が生まれ、購買意欲が持ち直す可能性がでてくるのです。
恐らく、ほとんどの店の対応は、顧客の購買プロセス全体の中で、「来店」というプロセスの位置づけを把握せず、目の前のお客さんしか見ていないのではないでしょうか。
顧客の変化に感度よくアンテナを張り続けろ
消費者が自分でできることが増えているなら、リアルの店舗側は、自分たちの役割と考えてきた機能の一部を消費者に委ねるという選択肢もあります。
情報機器を使いこなし、色々な情報にアクセスできる度合いは、人によって差があるため、一気に変えることは難しいですが、整理すれば対応できることはたくさんあります。例えば店頭での支払いを現金決済からネットやクレジット決済をメインにするようにすれば、現金管理のリスクが少なくなります。その分支払業務の手間を減らせ、接客対応により磨きをかけることにより顧客に店舗の価値を高めることができるのです。
技術の進化により人間が果たしてきた様々なことが代替されてきました。それはモノを売る、という行為も同じです。小売店は、これからのリアルの拠点がどんな役割を果たすべきかを考える時期にきているのです。顧客の個別病歴や体質などを理解し、最適な薬剤を推奨してくれる薬剤師がいるドラッグストア、デジタル活用知識が豊富な店員のいる家電店、自分の体形や好みを十分理解してファッションスタイルをアドバイスしてくれるアパレルショップなど・・・顧客の生活を豊かにしてくれる優秀な店員のいる店が増えることを期待します。このようなことを実践している店舗では、「人気のある店員を異動させるとクレームがきて、顧客が離れていく」という話も聞きます。
顧客の変化情報を把握する感度を高めていくことを仕組みにしていくことが、ますます重要になりますが、それを確立するには相当なエネルギーが必要なので、企業はさらに大変になります。先進企業では顧客の変化をつかむため、了解を得られた生活者の家庭内における生活動線や食材をどのように食べ廃棄しているかなどを調べ、商品改良や商品開発に活かしています。 顧客が求めるものに対するプロとしての対応力が、不安払拭につながり、信頼感に繋がるのです。
生産財企業が着目すべき組織心理
個人心理と組織心理は同じでありません。
生産財は、組織による意思決定が基本ですが、訴求すべき相手は、複数の"人間"です。しかし、立場や役職の違いによりそれぞれのニーズ(望んでいること)が異なります。たとえば、ユーザー部門の責任者は、使い勝手重視、購買部門は、納入価格重視、経営層は、企業活性化するか、経営貢献するかを重視・・・など購買決定にあたって、組織心理は、担当者の「役割」からでてくるものが強いのです。
言い方を変えると、心理ではなく、動くきっかけ(何に基づいて動くか)を把握し、それに基づき、組織としてのニーズの構造を掘り下げるのです。そして、社内調整をしたり、関係者を巻き込んだりして出てきた対策(商品)を普及させる力が求められるのです。
基本は、顧客の購買前の心理構造を十分理解することが良い対応の出発点なのです。
(シニア・コンサルタント 笠井 和弥)
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